麻呂眉の行方
それは俺だって、変だなっては思ってた。
【化粧】スキル・lv.1基本技術『身だしなみ』発動中、水は強力に汚れを落としつつ保湿も行う万能化粧水に変容し、ガーゼも化粧コットン相当になる。それで血糊と食屍鬼風謎の白塗りを拭い取った時、この異世界転移者には、眉が無かった。
「オッサン何で眉無いの……?」
「オッサンとな?」
眉の無いイケオジがくるりと振り返り
「なるほど、御屋形様、オヤカタサん、略してオッサンか。許す」
なんか許された。
「それにしてもこの義元たるものが、ああ、なんと情けなや!白粉は?鉄漿は?紅は?墨を持て!」
さっきまで堂々と胸をはってたのが信じられないくらいあたふたしてる。
「眉が無いとか外を歩けぬではないかー!!」
それはわからないこともない。
この人は俺と同じ黒髪に白い肌だ。毛深い俺はヒゲを剃るついでに眉間も剃っている。うっかりすると左右くっついた一本眉になる。
でだな、たまにやらかすわけよ。
ゾリッと。
片方の眉が半分なくなった時の情けなさよ。たしかにあれは外を歩くのを躊躇する。
「お待ちくださいませね、墨くらいならありそうですが……」
親切に捜し物に出ようとしたセーナさんを
「待った」
軽く止めて、上着のポケットから鉛筆を取り出す。
「墨よりこっちの方がいい」
ナイフで先を薙刀型に整える。
「眉は毛の集まりだから、固い鉛筆で1本1本描けば自然に見える。墨でベタッと描けば芝居役者さ」
【化粧】スキル
lv.3特殊技術
『 眉 描 き !』
生まれ持ったユニークスキルの恩恵で、もともとあったような自然な眉が出来上がる。
しょせん化粧だからよくよく見たらバレるけど、町を歩いても大丈夫なはずだ。
手癖でちょっと濃くなった。若者みたいな眉でイケオジが3歳若くなった。
「まあ!まあ!」
セーナさんが目を輝かせてる。ちょっとうれしい。
「………」
おっさんはじっと鏡を見つめて
「む さ い。」
ちょっと。
「この義元が……かような……生まれたままの眉など……なんたる下賤!なんたる屈辱!!」
鏡にむかって嘆きまくってる。
わからない。おっさんの美的センスが、全くわからない……!
俺は異世界というものをかなり舐めてたらしい。
セーナさんが慰めようとしてるけど言葉に詰まってる。
わかる。眉が生えてるだけで苦しむおっさんにかける言葉なんて、多分予言の巫女にも降りてこない。
おっさんは頭を抱え震えていたが、
突然平然と立ち直った。
「なるほど」
イケオジオーラが戻っている。
「つまり、これこそ『やつし』の美であるな」
鏡の中に、若々しい眉で年齢不詳になった貴人が佇んでいる。
「高貴な者がわけあって下賤のすがたに身をやつす……うむ、悪くない。良い。良いぞ。実に雅である!」
よくわからないけど、勝手に一人でご機嫌になってこちらに笑いかけた。
「ではタルク、セーナ。これより余は本格的に『やつし』をはじめるとするぞ」




