表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/27

1話 孤独な王女

初めまして、Enyaeと申します。


今回は「騎士団長×第三王女」の身分差と、たっぷり甘い溺愛をテーマに書いています。不器用な騎士団長が一途に王女を愛でる姿を楽しんでいただけたら嬉しいです。


どうぞよろしくお願いします!

 その国には、三人の王女がいました。第一王女は、美しい容姿とはっきりと自己主張する性格で誰もが次期女王と認める王女でした。第二の王女は、可愛らしい顔立ちと明るい性格で周りから褒められる王女でした。


 そして、末っ子の王女は小さく目立たない容姿な上、いつも難しい本ばかり読んでいる王女でした。ここメテオリア王国は、科学と錬金術を統べる国であったためとても栄えており、また三人の王女に恵まれた国王は、自国を強国にするために近隣国から第一王女に王配を迎えることにしていました。

 そのため、各国から様々な求婚状が届き、舞踏会では第一王女と第二王女が優れた容姿を競い合い、大人気でした。


そんな華やかな王族の暮らしに交わらず、日々、研究に没頭しているのが末っ子の第三王女でした。煌びやかな王宮殿から少し離れた場所に離宮が建っており、中でも一番小さな宮殿であるジプソフィラ宮殿では、最低限の使用人と共に第三王女は暮らしていました。


「ローラ様……、まだ、その薬草を育てておったのですかな」


おっとりとした朗らかな風貌の初老の男性が、分厚い本を手に王女へと声をかけます。


「こんにちは! ビバレイ教授」


眼鏡をかけた小さな王女は鍬を手に、畑に肥料を撒いていました。


「はい! 新しい鎮痛剤を作りたくて、薬草を栽培しています」


元気良くそう答えるローラの姿に、ビバレイは目を細めました。


「それは良かった。本日は、ローラ様へ新しい薬草と、外国から取り寄せた薬学の本をお持ちしたんです」


「わぁ! 本当ですか? 嬉しい!」


鍬を手に持ったまま笑うローラを穏やかに見守りながら、ビバレイは彼女が肥料を撒き終えるのを待っていました。


 ここメテオリア王国は、科学と錬金術が国家の財政を支えています。優秀な科学者と錬金術師を多く輩出している王都のアカデミーで教鞭を取るビバレイにとって、王家の教育係として三人の王女に基礎科学概論や錬金術入門を教えた際、見事その学問で優秀な成績を収めたのはローラただ一人でした。

 

 絶世の美人と評判の第一王女、妖精のように可愛らしいと謳われる第二王女、二人は王家の輝かしい花々と絶賛されていますが、この科学と錬金術の国において本来王族が備えなければならない資質を持って生まれたのは第三王女のローラなのだろうと、ビバレイは考えていました。


 しかし、王家の威厳を保つためか、現在持て囃されているのは華やかな外見を持つ第一王女と第二王女でした。ローラは、誰にもその豊かな知識と錬金術師としての才能を認められないまま、毎日こうしてコツコツと一人で研究を続けていたのです。


「ローラ様、第一王女殿下の王配様が決まりましたら、一度国王陛下に王都のアカデミーへの入学についてご相談されてみてはいかがですかな?」


「……ぇ?」


ビバレイから貰った薬草を薬学辞典で調べていたローラは、何度目かもう分からないビバレイからの誘いに困ったように目を伏せました。


「……ビバレイ教授。私はこうして一人で薬草の研究をしているだけで幸せです……」


「ローラ様……」


ビバレイがローラの資質を認めているからこそ、王都のアカデミーで学ばせたいと説得してみても、ローラはアカデミーへの入学を拒み続けていました。それは、二人の姉の輝かしい活躍と貴族たちの派閥により、権力や政治に関わりたくないと考えているからでした。次期女王とされる第一王女を支持する王族派の貴族と、王配次第では自らが次期女王の座に就こうとしている貴族派の第二王女は、政敵関係に発展しつつあったのです。


 国庫から捻出される王族の維持費を浪費している二人の姉の姿に、ローラは疑問を感じていました。また、わずかな危機感さえ抱いています。それでも、ローラは二人の姉と違い、社交界において積極的に人脈を作っているわけではありません。あくまで目立たないように、ひっそりと研究に没頭しているだけでした。そのため、王族が集まる晩餐会で問題提起したくとも、誰も聞く耳を持たないと分かりきっているため、あえて発言しなくなってしまったのです。


 王族としての地位も第三王女と低い位置にあるローラは、いつもただ黙って晩餐会に参加しているだけでした。


「ローラ様、私はただのアカデミーの教授ですが、同じ研究者としてローラ様の研究に対する姿勢や熱意にはいつも感心しております。気が変わりましたら、いつでもアカデミーへの入学を歓迎しますので、私を呼んでください」


ビバレイは穏やかな口調でそう告げると、希少な薬草を熱心に調べているローラを見つめて微笑みました。


それから数時間、ローラとビバレイは薬学について議論を交わし、ローラが新たに作成を試みている鎮痛剤に使用する薬草について話し合っていました。


「ビバレイ教授、今日お持ちいただいたこの『夢見野草』についてですが、自生しているのは神秘の森にある『息吹の鏡池』の周りで間違いないのでしょうか?」


「そうです。ローラ様、神殿の裏側にある森の中に息吹の鏡池という池がありますでしょう。その池の周りに夢見野草が自生しておりますな」


 ビバレイの言葉に、ローラの表情が若干曇ります。神殿の敷地内とされる通称・神秘の森に入らなければ息吹の鏡池に行くことができないとなると、まずは神殿を管理している神官から立ち入りを許可してもらわなければなりません。


「……ビバレイ教授、私も何とかその息吹の鏡池に行きたいのですが、どうやって神官に神秘の森への立ち入りを許可してもらえばよろしいですか?」


ビバレイから渡された夢見野草の量だと、新たな鎮静剤のサンプルを作成できたとしても少量になってしまいます。ローラはどうしても、今手元にある夢見野草の倍は用意したかったのです。


「そうですなぁ。本来は王宮の文官へ神殿への申請を上げる旨を伝えてもらうものですが、ローラ様からの申請では手続きに時間がかかりそうですから、私の方から神殿に上げておきましょう。いつ頃、神秘の森へ散策に向かうつもりですかな?」


「本当ですか?! ありがとうございます、ビバレイ教授! それでは早速、来週神秘の森へ向かいます!」


ビバレイの気遣いに、ローラの顔がパァッと明るくなりました。


「それでは私は明日にでも神殿へ申請を上げておくとしましょう」


ローラとビバレイは、新たな薬草の研究に喜びを分かち合いました。


 一週間後、ローラは地味な外出用のドレスにフードを被り、薬草採取に使用するリュックを背負い、大きな眼鏡をかけて離宮から馬車へと乗り込みました。ローラの護衛騎士二名がどうしても同行すると言って聞かないため、仕方なく後方の離れた位置から護衛すること、ローラとは完全に出発のタイミングをずらし、別の移動手段で神殿に来ることを承諾させました。


「ローラ様、本当に私たち侍女は必要ないのですか?」


ローラの専属侍女が心配そうに声をかけます。ローラは侍女の付き添いは不要と首を横に振りました。


「目立ちたくないし、ビバレイ教授が神官に連絡してくれているから大丈夫だよ。薬草を採取してくるだけだから心配しないで」


ビバレイは先日、ローラへ薬草を届けた際に神殿へ連絡すると約束を交わした後、わざわざ神殿から立ち入り許可証を発行してもらい、ローラへの手紙に同封してくれていたのです。これさえあれば、王都アカデミーの教授と名高いビバレイが推薦した者が研究のために森へ立ち入ろうとも、不審に思われることはありません。


「ローラ様、くれぐれも危険なことはしないでくださいね!」


仮にも王族であるローラに付き添いの侍女をつけないなどということは、本来であれば絶対に許されないことでした。


 しかし、場所が王都内の神殿内であるため安全なこと、事前にビバレイからの連絡が入っており神官が確認すること、神殿と離宮の移動は馬車であるため安全だと、ローラは侍女を説き伏せました。しかも薬草採取となれば、知識のない侍女がついてきては邪魔になるのは明らかです。早めに帰ると約束を交わし、侍女は大人しく離宮でローラの帰りを待つことにしたのです。


神秘の森、そこは神殿の建物の裏側にある、小動物しか生息していない安全な森でした。普段は神官見習いが森の管理を行っています。

その緑が生い茂る森の中に、『息吹の鏡池』と呼ばれるコバルトブルーの池がありました。一説によれば、使徒様が降り立つという伝説がある神聖な池です。


ローラが採取したい薬草は、限られた水辺にしか生息しないと言われる『夢見野草』でした。雨に濡れると茎から葉まで透明に変わることからそう呼ばれています。


神殿に到着したローラは懐中時計を手に御者へ迎えの時間を告げると、神殿に入り、神官へビバレイから受け取った許可証を見せて、推薦されて薬草採取に来た旨を告げました。


「それでは、暗くなる前には必ず神殿にお立ち寄りくださいませ」


「はい。分かりました」


小柄なローラの姿に、アカデミーの学生だと勘違いしたのか、見習い神官は許可証の確認を済ませると付き添うこともなく、あっさりと神秘の森への立ち入りを許可しました。


ローラは内心で、神官が付き添わなくて楽だと胸を撫で下ろします。薬草に詳しい者なら手伝ってもらうことも可能ですが、知識のない人間に貴重な薬草を乱雑に扱われては困るからです。彼女は足取り軽く、息吹の鏡池へと向かいました。


サワサワと爽やかな風がローラの前髪を攫います。さすが神秘の森と言われるだけあり空気は澄んでいて、柔らかな日差しを浴びながらの散策は心地良いものでした。時折リスや小鳥の鳴き声が聞こえてくるのも、ローラにとってはリラックス効果があります。頭から被っていたフードを脱ぎ、目的地の息吹の鏡池に到着すると、彼女は薬草採取の準備に取り掛かりました。


薄いビニール手袋、ハサミ、マスク、薬草を入れる密閉型の瓶を用意し、池の周りに自生している夢見野草を採取していきます。


ジャキン、と小気味良い音がして、ハサミで切り取った茎と葉を瓶に詰めました。鮮度が命のため、小さな平たい花びらを折りたたむようにして蓋を閉めます。


「わぁ、綺麗っ!」


透明な小瓶に入った夢見野草は、日の光にかざすと細かな光を受けて淡い光沢を帯びていました。ローラは満足そうに瓶をリュックにしまうと、用意していたもう一瓶を手に取り、再び夢見野草を採取するために池の反対側へと向かいました。


先ほどよりも大きな葉をつけているのを確認し、ローラはハサミを手に慎重に夢見野草の茎を掴みます。ただでさえ希少な薬草なため、彼女は細心の注意を払っていました。それなのに、あまりの希少さに気を取られてしまったのか、一瞬の隙が生まれ、ローラの足がズルッと滑ってしまいます。


「危ないっ!」


と思った瞬間。


バッシャーン! と勢い良く、ローラは息吹の鏡池へと落ちてしまいました。


ぶくぶくと小さな気泡が立ち、ローラの視界を、陽の光を浴びて輝くコバルトブルーの水面が覆います。その幻想的な美しさに、彼女は思わず見惚れてしまいそうになりました。


まるで時が止まったかのように、ゆっくりと水の底へと沈んでいきます。


(このままでは溺れてしまうかもしれない……!)


ハッとしたところで、ローラは慌てて水面に出ようともがきました。懸命に手足を動かして水をかき、バシャバシャと手をばたつかせて這い上がろうとします。


しかし、だんだんと息が苦しくなり、一旦水面に顔を出したものの息継ぎがうまくできず、ガボッと水を飲んでしまいました。徐々に視界が霞んでいき、ローラは成すすべもなく水の底へと沈んでいく自分の姿に絶望的な気分になりながら――夢見野草を満足に採取できなかったことを、どこか悔やんでいました。


その時、まったく別の国で、一人の騎士が息吹の鏡池へと駆け寄っていたことを、ローラはまだ知る由もありませんでした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ