2
予想に反し、エイミーは泣き言を言わなかった。
何なら寝ていた。
マキシムをいつもより遅く走らせてはいたが、それでもこの状況で寝るとは。剛胆な子だ。
エイミーが静かなことに甘えて、少しの休憩だけで済み予定よりも随分早く街に着けた。
「先行していた騎士が宿を取ったそうです。」
「そうか。何かこの子が食べれそうなものを買ってから行こう。エイミー、起きてくれ。」
腕の中で健やかに眠るエイミーを揺り起こす。
「んぅ?」
「街に着いた。なにかパンでも買おう。」
まだ瞼を重そうにするエイミーの髪を撫でる。
「エイミー、くるみのパンすき。」
「そうか、一緒に買いに行こう。」
「いく。」
寝起きが良くて何よりだ。
露店が建ち並ぶ広場に行き着くと、エイミーは溢れ落ちそうな程大きな瞳を輝かせた。
「ふわぁあ!いぃにおい!」
「そうですね、ご飯屋さんがいっぱいありますから!」
興味が引かれるのか、興奮した様子のエイミーにマークスが満面の笑みで説明する。
「エイミー、あれ、あれたべたい!」
エイミーが指差したのは串焼きの店だった。
「くるみのパンはいいのか?」
「くるみのパンもたべる。」
「そうか。」
後ろに控えていた部下にパン屋に行くよう指示し、エイミーと串焼き屋に行く。
「店主。豚、鶏、牛、羊、魚、全て十本ずつくれ。」
「閣下、流石に買いすぎでは?」
「これはお前達の分もはいっている。」
「「閣下…!」」
何やら言いたげなマークス達を無視し会計をする。
むず痒い。
「お子さんに串は危ないので横から食べさせるか、取り分けてあげてください。」
「ああ、ありがとう。」
串焼き屋から宿に戻りながら露店を見ていると近くの店主に声をかけられた。
「可愛いお嬢ちゃん、ヒヨコまんはどうだい?」
「ひよこ…?」
店を見るとヒヨコの形をした蒸し料理だった。
「中にクリームが入っているよ。甘くて美味しいぞ。」
「くりーむ?くりーむはママがだめって…」
小さな口には危ないと止めていたのだろう。
「ひとつだけ買って私と一緒に食べよう。それなら大丈夫だ。」
「いっしょ…そーする。」
嬉しそうな顔はすぐに隠されてしまった。
私の肩に顔を伏せているが、疲れてしまったのか?
「器量の良い父ちゃんに照れるなんて可愛い子だな!親父冥利に尽きるな!」
「冗談は止してくれ。店主、それをひとつ。商売上手だな。」
「へい、毎度!お陰さんで。」
商品を受け取るといつの間にか顔を上げたエイミーはそれに釘付けだった。
「嬉しいか?」
「うん!ありがと!」
「どういたしまして。」
宿に着いて買ってきた食事を並べる。
数種類のパンに串焼き、他に買いに行かせていた者が野菜スティックと、牛の肉が入った汁物を並べたのでなかなかの量だ。
部下たちも同席しているが、隣に座るエイミーが怯える様子はない。
「遅くなって悪かったな。さあ、食べようか。」
「うん!」
「ほら、エイミー。くるみのパンだ。それに、食べたがっていた串焼きだ。好きなものを選ぶといい。」
「ありがと!エイミー、それがいい!」
指差したのは鳥の串だった。
「鳥か。今串から取るから少し待て。」
宿から借りた木の器に一つ一つ串から外し、木のフォークを刺してやる。
エイミーはすぐにフォークを手に取り肉を口に運んだ。
「美味いか?」
「おいしっ!」
「そうか。」
エイミーの笑顔に顔が崩れてしまう。
「閣下が幼女に微笑んでいらっしゃる…!」
「なんて神々しい光景なんだ。」
「閣下が手づから、ここまで面倒をみるなんて…!」
部下たちの戯言を聞き流し、私も自分の食事を開始する。
肉とパンだけでは心配で野菜も食べさせた。エイミーは嫌がることなく食べてくれた。好き嫌いもなくとてもいい子だ。
「カタロフも、あーん。」
いつの間にか椅子の下にいたカタロフに人参のスティックを落としてあげていた。
「こら、エイミー。カタロフにご飯をあげるのはいいが、食べ物を床に落としてはいけない。」
「で、でも、カタロフ、ごはんほしいって。」
叱られたのがわかったようで涙ながらに弁明してくる。
ぐぅ。負けそうだ。思わず下を向いてしまう。
いや、しかし。
そう気持ちを新たにもう一度説明しようと、下げた顔をそのまま目を開けると先程いたカタロフと人参が無くなっていた。
な、何が…
いや、今はエイミーだ。
「ああ。ご飯をあげるのはいい。これからはカタロフも食卓に席を用意しよう。そうすれば落とさなくてよくなるだろう?手づからあげなさい。さ、ヒヨコまんを食べるだろう?」
「うん、ごめんなさい。たべる。」
「謝れて偉いな。エイミー。ほら見てみなさい。ふわふわだ。」
そう言ってエイミーの分を気持ち小さく割ってやると泣かれてしまった。
理不尽な。
食事を済ませるとすぐにエイミーは寝てしまった。昼寝が必要な年齢なのと、寝ていたとはいえ乗馬での移動に疲れてしまったのだろう。
「寝てしまわれましたね。」
「そうだな。汚れた服で寝かせるのは可哀想だ。着替えさせよう。」
「服も用意させましたよ。既製品ですが。」
「構わん。お湯と布も用意してくれ。拭いてあげよう。」
お湯と布を持ってきたマークスを部屋から追い出してエイミーの服を脱がせる。
いくら娘になるとはいえ貴族の娘だ。あまり体を見ないように手を進める。
しかし、一点に目を留めてしまった。
「これは…」
エイミーの鎖骨の下には女神の紋章が輝いていた。
ここまでお読みくださりありがとうございます!!
この作品を面白い、続きを読みたい!と思っていただけたら嬉しいです!
よろしければ、ブックマークと下の☆☆☆☆☆をポチポチして★★★★★にしていただけますと、今後の励みになります!