第六十七話 影
「わかった。ゼクルの捜索を優先しよう……アイツもきっと、手がかりを残しているはずだ。それを見つけよう」
「ええ」「うん」
決断にはどれだけの迷いを振り切らねばならなかっただろう。
一刻も早く再会したいはずの相手を後回しにするなんてこと――――俺に出来るだろうか。
だから――――俺は迷いを捨てる。
リーシャの決断を無駄にしないために。
皆でまた歩くために。
「……ゼクルの部屋に行ってみよう。アイツが手がかりを残すとしたら――――探しに来る人間のことを考えて、きっとそこに仕掛ける」
二人を連れて二階へと上る。
ゼクルの部屋の前に立ち、ドアノブに触れる。
「……鍵がかかってない。意図的に開けたままにしてる……?」
ノブをひねり、部屋に入った。
ゼクルの荷物はほとんど残っていなかった。元々持ち物が少ない奴だったし(拳一つで戦うから)、みんな持って出ていったのだろう。
「……あった」
文机の上に紙片が残されている。
「『エレンド王国へ行く』……だってさ」
「エレンドって確か……西の方の国よね?」
リーシャが顎に手を当てて訊いてくる。
「ああ。イリエスとも良好な関係を築いてるから、逃げる先としては正解だと思う」
「じゃあ、当面の目標はエレンドに向かうって事になるかな」
「そうだな……あと、ガイシュ様の行方も分かるといいんだけど……」
王の間。そして書斎。
隈なく探索してみたが、ガイシュ様の居場所につながりそうな手がかりは得られなかった。 あの夜何が起こったのかも……未だに分からないままだ。
「二人とも……ちょっと、付いてきてくれるか」
そう言って、俺は一階に下りた。
罪悪の回廊で見た地下室――――そこへ向かおうと思っていた。
けれど。
その瞬間だった。
振り返り――――叫ぶ。
「逃げろッ! 二人ともッ!」
剣を抜いて床を蹴る。
左右に身を躱した二人の間を抜け――――男の剣を受け止めた。
顔を遮るような物を身につけているわけではないのに、顔を認識することが出来ない。男の頭部には、影のように均質に黒色が広がっている。
「城を出ろッ! エレンドへ向かう!」
俺が叫ぶと、二人は頷いて走り出した。
男が放つ雰囲気は夜明けの神殿で出会った影と同質のものだった。ファレス火山で出会った奴とは違う……。
剣を振り抜き、距離をとる。
「……ッ」
男の右手には紋章が宿っていた。
俺と同じ――――月に寄り添う剣の紋章が。




