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第六十八話 痛み

 剣が衝突する度に火花が舞い、周囲に衝撃が駆けていく。

「――――おおッ」


 自然に身体が動くような感覚がある。相手の動きが鈍化して見える。次の動きが予想できる。剣戟によって生じた世界の微かな乱れさえも視界に映る。


 ――――これが、剣聖の能力……?


 意識が加速する。脳の演算量は劇的に増加しているはずなのに、頭はずっと冷えたままだ。音が耳に入らなくなる。


 隙だらけの胴体に向かって剣を振った。

 一閃。世界に消えない傷が刻み込まれる。


 跳ね返るように剣を引き戻し、もう一度。

 青色の斬撃が男を吹き飛ばす。



 このまま――――アイツを……。



「ユキヤ!」

 リーシャの声を聞いて我に返る。

 ……何を考えていた? 俺は――――一体……。


「逃げるよ、ユキヤ!」

 二人の元へと駆け出す。

「【封じよ】ッ」


 リーシャの魔法が男を縛り、男の身体が淡く発光する。

 封印魔法……。


「今のうちに!」

 右手の紋章の疼きを堪え、王城の出口に向かって駆け出す。


「三十分近くは抑えられるはずだから、遠くに逃げましょう」

「ありがとうリーシャ。エレンドへ向けて走ろう――――」

 俺がそう言おうとした瞬間。


 上空で風を切る羽ばたきが聞こえた。


『乗れ! 賢者たち!』

 声に従って――――レスカディアの背に飛び乗った。


『全く……なんてことだ……』

「レスカディア! ファレス火山に向かったんじゃ……?」


『向かったさ。王城に奇怪な魔力が生じるまではな……。お前達、アレは一体なんだ?』

「分からない……王城を探索していたら急に現れたんだ……」


 影を塗り込めたような、不自然に曖昧な頭部。

 しかしその剣術は”剣聖”にも及ぶほどの力で――――。


『私から見れば……剣聖と似た波動を感じるのだがな』

「ユキヤと?」


 レスカディアの言葉を受けてシルヴィアが訊ね返す。


『ううむ……ユキヤを剣聖と呼ぶのはあまり適切でないな……。そいつの本質に近いのは賢者だからな』

「なるほど……?」

『”剣聖という力そのもの”と言った方がいいか。つまり女神から生じた力に近いということだ』


 女神。

 右手の紋章が悶えるように疼く。焼け付くように。


『それで、王城で仲間の手がかりは見つけられたのか?』

「ええ。エレンド王国に居るみたいなの」


『お前達が走っていた方向に飛んでいるが、この方向で合っているのか?』

「合ってるわ……えっと、王国までお願いできる?」



 リーシャとレスカディアの会話を聞きながら、俺は右手の痛みに耐え続けていた。

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