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ジュリエットはロミオの夢を見ない  作者: 穂兎ここあ
ジュリエットはロミオの夢を見ない
10/13

最終話 喜劇のジュリエット

「よかったぁ……」


 鏡の前で自分の顔を見て、素直にそんな感想が浮かぶ。

 さすがに泣き腫らした顔で学校に行きたくはなかったから。

 鏡に映る自分が、いつもとそれほど変わりない姿をしてることに安心した。

 顔を洗ってサッパリして。


「よし、大丈夫」


 両頬をパシパシと叩く。

 今日もいつもと同じように笑える。

 ううん、笑わなきゃ。

 才上くんにこれ以上迷惑をかけないように。




▽▽▽




「あれ? 珠莉ちゃん。お昼、ここで食べるの?」


 お昼休み、いつもは才上くんと中庭で過ごす私だけど。

 今日は教室でお弁当を広げようとしていた。

 そんな私を、ルリちゃんが不思議そうに見つめる。


「うん。今日からは、こっちで食べるよ」

「え……殿下は? もしかして、ケンカ……?」


 そういう返事になることはわかってた。

 だから私もちゃんと答えは用意してる。


「ううん。ケンカじゃないよ。ただ……もう才上くんに迷惑かけたくなくて」

「迷惑かけたくないって……まさか」

「才上くんを、諦めることにしたの」


 私のその発言に、教室が静まり返った。

 何気ないルリちゃんとの会話を、なぜかみんなが聞いていたみたいで。


「桜井、それマジ?」


 最初に反応したのは隣の席の高橋くん。

 そして、次に中村くん、他のクラスメートもみんな「ウソー」とか「やっと?」とか。「やったー!」っていうのにはさすがに笑っちゃうけど。

 反応は、本当に様々。


「珠莉ちゃん、それでいいの? ていうか、大丈夫?」

「うん。大丈夫。なんだかスッキリしてるくらいだし」


 そんなの、嘘だけど。

 本当に清々しいくらいに笑顔の私を見て、みんな騙されてくれる。

 それはとっても都合がいいのに。


「桜井、それは正解だ! 才上なんて忘れろ忘れろ!」

「それなー、俺も嬉しい!」

「なんで中村くんが喜ぶのー」


 みんなが思ったより、腫れ物扱いしないでいてくれることが嬉しいのに。


「じゃあ珠莉ちゃん、放課後パァーッと遊びに行こうよ!」

「あ、それ俺も行きたい! 才上からの解放パーティーしようぜー!」


 なぜか、虚しくて。

 才上くんのことを好きでいた時間が、簡単に消えていくみたいに思えて。


「うん、そうしよ……」


 笑わなきゃ、って。そう思ったのに。

 私の視界がぐらりと揺れた。


「ごめんね、宮下さん。珠莉の放課後は今日も俺のだから」


 この声は、間違うわけない。

 私の腕を掴んで引っ張った、この手を、私は知ってる。

 でも、なんで……。


「うわっ、何しに来たんだよ、帰れよ、才上! 桜井はもうお前のことなんか」

「好きだよ。珠莉は俺のこと」


 顔を上げれば、いつもの才上くんがいる。


「……なん、で」

 

 クラスのみんながこの状況を唖然とした表情で見てる。


「中庭、昨日の雨でまだ少し濡れてるから……どこで昼食べるか聞きに来たんだけど?」

「……お昼って……だって、私……」

「珠莉は俺といたくない?」


 その聞き方は、ずるいよ。

 ほら、断れない私を……みんなが哀れなものを見る目で見てる。




▽▽▽




 あのあと、才上くんと何の話をして、どんなふうにお昼を食べたのかは正直覚えてない。

 ただ、才上くんの態度は昨日と何も変わらなかった、ってそれだけは覚えてる。

 それもそのはずで。

 私と才上くんのあいだで変わったことは……私が才上くんに、もう二度と好きと伝えないだけ。

 才上くんにとっては、何も変わらないんだ。


「……莉、珠莉!」


 放課後、校門へ向かって歩いていたら大きな声で名前を呼ばれた。

 声がした方を振り返れば、心配そうな隼汰くんがいた。

 脇にバスケットボールを抱えて。


「隼汰くん、どうしたの? 部活は?」

「体育館で練習してたら、珠莉が見えたから」

「それでここまで来たの?」

「いや……だって、美術部はこの時間に終わるけど……いつもはまだ帰らないだろ」


 隼汰くんは私が今まで待っていた人の名を口にしない。

 私と才上くんのことは学校内でも有名だったから、私が才上くんを諦めたことはすぐに広まっていて。

 たぶん隼汰くんも、事情は知ってるんだと思う。


「……大丈夫、か?」

「あはは、大丈夫だよ。それより部活戻らないと、志倉さんにまた怒られるよ?」


 いつも通りの笑顔を返す。

 でも隼汰くんの心配顔は変わらなくて。


「……噂、聞いた」

「うん」

「あれって……本当?」

「うん。だから、待たずに帰るんだよ」


 隼汰くんが聞きたくて、聞けずにいることを私は教えてあげる。

 才上くんはお昼同様、帰りも一緒に帰ろうとしてくれるんだろうけど。

 やっぱりそれは……いつも通りでいることは、私の心がまだ無理だって、お昼に一緒に過ごして分かってしまったから。

 才上くんが迎えに来る前に帰ることにした。


「珠莉」

「じゃあ私は帰るから」

「待て。俺も一緒に帰るから」


 隼汰くんが心配してる。

 もっと、もっとちゃんと笑わなきゃ。


「まだ隼汰くん、部活でしょ?」

「もう少しで終わるし。美術室にいたくないなら体育館来ていいから」

「何か用でもあるの?」

「珠莉」


 強い声音。隼汰くんの顔が少しだけ怖い。


「無理して笑うなよ。俺の前で」


 気づいてほしくないのに、一緒にいた時間はこんなときに私たちの関係を裏切らなくて。

 隼汰くんを騙すことなんてできなかった。


「隼汰くん、ごめんね。才上くんのことだけは……誰にも慰められたくない」


 きっと隼汰くんは優しく、私の傷を癒そうとしてくれる。

 才上くんを忘れられるように。

 でも、それを私は求めない。

 才上くんを諦めても、私は才上くんとの思い出を忘れたくはないんだ。


 でもその気持ちすら、私は隼汰くんの優しさに甘えてることに気づいてなかった。

 この考え自体が、隼汰くんの気持ちを無視した、身勝手な私の意見だってこと。


「俺は、珠莉に才上のこと忘れてほしいよ。諦めるっていうなら完璧に」


 隼汰くんは顔色を変えない。

 そうまで才上くんが嫌い? って、そう聞こうとしたのに。


「ずっと、珠莉は俺の前で笑ってた」


 隼汰くんの手が私に伸びてくる。

 頬に触れた隼汰くんの手が熱くて、驚いた。


「一年……俺が才上に貸しただけ」

「……隼汰くん?」

「また、俺の前で笑ってればいいよ。一年前の珠莉に戻ればいい」


 隼汰くんの真意はわからない。

 分からないほうが、幸せな気がした。

 一年前の私は、意味は違えどたしかに隼汰くんのものだった。


「でも隼汰くんには志倉さんのほうが……」

「本気でそう思ってるなら俺は怒るぞ」


 頬に触れた手が後頭部へと滑り込む。


「珠莉。俺はお前が……」


 隼汰くんの頰が赤い。

 でもどうしてか、胸が全然高鳴らなくて。


 真っ暗になった視界に、安心してしまった。

 それが、答え。


「……才上」


 私の視界を遮ったのは、才上くん。

 私と隼汰くんのあいだに割り込むように、腕を差し入れて、もう片方の手で私の目を塞いでいた。


「バカだな、笹川。あいつがお前のこと放っておくわけないだろ」


 あいつ、っていうのはおそらく志倉さんのこと。

 いつかと同じように、才上くんは志倉さんから連絡を受けてここに来たのだ。

 視界がひらけたら、弓道着姿の、才上くん。


「才上……もうお前には、珠莉に男が近づくのを妨害する権利はねーだろ。つーか、もともと……」

「あるよ」


 才上くんは自信を持って答えた。

 私に男子が近づくのを妨害してたなんて、そんな話は初耳で、耳を疑うけど。

 才上くんはそれを否定しないどころか、肯定した。


「珠莉は……俺のだよ」


 そう口にして、才上くんが私の手を握る。


「才上くん、待って」

「珠莉!」


 私が才上くんに繋がれた手を引くのと同時に、隼汰くんが空いてる方の私の腕を掴んだ。


「才上のとこになんか、行くな」


 隼汰くんの瞳がまっすぐに私を見てる。

 でも私は、私を呼び止める隼汰くんの気持ちより……私の手をぎゅっと握りしめる才上くんの気持ちのほうを知りたいと、どうしても思ってしまう。


「隼汰くん……ごめんね」


 選んだからにはもう、隼汰くんのところにも戻れないけど。

 選べと言われたら、私は才上くんを選ぶの。


 選んだ先で、才上くんと本当に本当のお別れをすることになっても。




▽▽▽




「あれ? 桜井さん、まだ才上くんにつきまとってるの?」


 才上くんに手を引かれて後ろをついて歩く私の姿を見て、通りかかりの女子グループの誰かがそう口にした。

 もちろん私に話しかけてるんじゃなくて、そのグループ内の女子への問いかけ。


「ちょっと聞こえるって! でもほんと、諦めたんじゃなかったっけ?」

「才上くんがかっこいいのは分かるけどさぁ。さすがにしつこくない? 才上くんがかわいそう」

「えー、でも才上くんもひどくない? あんなに優しくされたら私が桜井さんなら絶対勘違いするし」


 私は何を言われてもかまわない。しつこいのだって自分が一番わかってるから。でも私がそばにいる限り、才上くんの評価まで下げてしまうのはやっぱり嫌だ。


「珠莉」


 才上くんはたぶん弓道場に向かってるんだと思う。

 まだ部活中のはずだから。

 でも、そこに私の居場所はないから。結局才上くんが何をしたいのか、私には分からない。


「なんで先に帰ろうとしてんの?」


 お昼もそう。才上くんは本当に何も変わらない。


「才上くんのことを、諦めるからだよ」


 私がそう答えると、才上くんの手に少しだけ力がこもった……っていうのは、私の都合のいい勘違いかな。


「友達としての可能性しかない俺はいらない?」


 才上くんは私を振り向かない。

 ただ、手を引くだけ。


「今までと同じでいたら、私は才上くんを諦められないから」


 せめて友達でいたいけど。

 今までだって友達で。

 今までと同じ関係なら、どうしたって諦められるわけなくて。


「だから、もう才上くんと……一緒にいたくないよ」


 一緒にいたいよ、本当はね。

 でもお昼に私のところに来てくれた才上くんに、私はまた好きだって思ってしまったの。

 今だって、隼汰くんの前から私を連れ去る才上くんを王子様みたいって馬鹿みたいに思ってしまうの。


「手、離して」

「嫌」

「才上くん……っ!」


 身体がバランスを崩した、と思ったら。

 薄暗い、少し埃っぽい倉庫みたいな部屋の中。


「ここ……」

「弓道部の所有してる部屋」


 ほとんど使わない道具とか、新入生に試しに使わせるための予備の弓を置いてるだけの部屋で、ほとんど誰も来ないと才上くんは言った。

 言いながら、部屋の鍵を閉めたのを、私は見逃さない。


「なんで……こんなとこに」

「ゆっくり話せる場所なんて、こんなところくらいだろ」

「私は話すことなんか……」

「ないわけないよな?」


 才上くんの手が私の顔の横を通り過ぎて、壁についた。ああ、これが壁ドンってやつか、なんて気を紛らわせるために考えてみたけれど。


「……やだ、才上くん顔近い」


 整った顔が至近距離にあるのが耐え難くて、気なんてどうしても紛らわせられない。


「顔真っ赤。……珠莉、俺のこと嫌いになれるの?」

「……嫌いにはなれないよ」

「じゃあ……」

「でも才上くんよりもっと好きな人を見つけるよ」


 才上くんの目を見て、宣言した。

 次の恋をする。いつかこの気持ちをいい思い出だって笑えるように。

 そんなの無理だって、私が一番思ってるけど。


「無理だよ」

「無理じゃない……っ!」


 才上くんを押しのけようとした私の腕を、才上くんが掴んで。そのまままた身体は壁に縫い付けられた。

 そして、才上くんの顔が私の首筋に埋まった。


「ちょ、っと、才上くん、なに……っ!」


 チクッと首筋に痛みが走る。

 そうしたら才上くんが私の首筋から顔を上げて、私の首筋を満足げに見つめてなぞった。


「……俺がさせないよ。そんなこと」


 どうしてそんなことを言うんだろう。

 想いには決して答えてくれなかったのに。


「珠莉が好きなのは……俺だよ。これからもずっと」


 才上くんは、私が才上くんを好きでいることを疑わない。

 それが悔しいのに、真実で。


「私はもう……才上くんのこと好きでいたくないよ」

「嘘」

「……才上くんを好きじゃなくなるって思ったら、心が楽になったの」

「それも嘘」


 どうして、少しも動揺しないんだろう。

 どうして、嘘を見抜くんだろう。

 才上くんにはこの嘘を信じてもらわないと、都合が悪いのに。


「珠莉。そろそろ言ってよ。いつもみたいに……」


 とても嬉しくて。


「言わない。言えないよ。……言いたくないんだよ、私は」


 才上くんが好きだよ。

 頭の中ではもう何回も繰り返してる。

 でも、私はもう、言わない。


「そっか」


 これで、いいんだ。

 才上くんは私で遊んでるだけ。

 でも楽しめなくなったおもちゃは、もういらない……はずだから。


「じゃあ……100回目は俺がもらうよ」


 100回目、そのカウントを……私は一番聞きたくなかったはずなのに。

 一瞬、何が起きてるのか……分からなかった。


「珠莉が、好きだよ。初めて会った時からずっと」


 私の唇に、才上くんの唇が重なっていた。


「才上、く……んっ! んんっ」

「かわいい。……もっと、ちょうだい」

「ちょ……待っ、意味わか、な……っ」


 才上くんはキスを繰り返す。

 意味がわからない私は、されるがままで。

 それよりも息ができなくて、そっちのほうが必死で。


「……っと、珠莉。大丈夫?」


 腰が抜けたことで、才上くんが止まってくれた。

 大丈夫じゃない。全然、全然大丈夫じゃない!


「大丈夫なわけ、ないし……わかん、ない……意味わかんないよ、全然わかんない!」


 頭が回らなくて、大きな声を出したら必死にこらえてた涙まで溢れた。


「怒っても泣いてもかわいいよ、珠莉は」

「誤魔化さないで!」

「誤魔化してないよ。全部本音だから」


 そう口にして、才上くんはまた私の唇を舐めて、合わせた。

 今度は数秒。唇を離したら、私のことを抱きしめてくれた。


「……好きだよ、珠莉のこと」

「うそ」

「嘘じゃないよ」

「私は99回フラれたもん!」

「そういう長期計画だから」


 長かったなぁって笑う才上くんは、さらに意味が分かんない。


「飽き性の珠莉が、俺を好きでいることには飽きないってことの証明が、今されたんだよ」

「……なにそれ」


 才上くんは苦笑しながら教えてくれた。

 この100回目の告白が、才上くんの仕向けた意図的なものだったこと。


「まあ、やっぱり珠莉は俺の思い通りにはならないから……100回目の告白は俺がすることになったけど」


 99回の玉砕が、本当に才上くんの掌で転がされてただけだったってこと。それを怒ればいいのか、悲しめばいいのか……それともいっそ喜べばいいのかも分からない。

 なにを言われたって、納得なんてできない。


「才上くんの……バカ」

「それ、言うと思ってた」


 そんなふうに言って才上くんは楽しそうに笑う。

 笑顔がいつもより無邪気な気がするから、きっとそれは嘘じゃないんだと思うけど。

 信じるにはあまりにも現実離れした話……っていうか、普通の人なら絶対そんな計画たてるわけなくて。


「……普通、100回も告白なんてしないし。してくれるなんて考えないよ」

「うん。だから、珠莉が俺に好きって言いたくなるように俺が行動してただろ?」


 さらっと笑顔で言うことなのだろうか。

 その笑顔もかっこいいから悔しいって思うのは、やっぱり私が才上くんを好きすぎるからなのだろうか。


「……最低」

「嫌いになった?」


 ああ、またこうやって……言わせようとするんだ。

 99回騙されて。

 99回私だけが才上くんの気持ちを知らずに、想いを伝え続けて。


「……私は、もう言わないもん」


 絶対不公平だ。


「なんで。聞かせてよ」

「才上くんが99回好きって言ってくれたら……才上くんの嘘を信じる」

「だから嘘じゃないって」

「才上くんも追いかける側の気持ちになればいいんだ!」


 いつもより強気な態度でいられるのは、きっともう才上くんの言葉を信じてるから。

 たぶん、嘘でも信じたいんだと思う。

 だって99回望んだ言葉を、聞けるんだから。


「じゃあ、俺が99回伝えたら……そのときは、とびっきりかわいい告白してくれる?」

「……それは、自信ないけど」

「ははっ、すでにそれがかわいい」


 才上くんが私の頭を撫でる。その手が後頭部に滑って、また才上くんの唇が私の唇に重なった。


「……珠莉、顔真っ赤」

「キス、しながら……しゃべ、な、で」


 こんなに幸せでいいのかなって、不安になるくらい。

 この時間が愛おしい。

 才上くんはたぶん部活に戻らなきゃいけないはずだけど、行って欲しくなくて私は才上くんの弓道着をつかんだ。


「大丈夫。……まだ行かない、っていうか……こんな珠莉放って行きたくない」


 それがたとえ嘘でも、才上くんと今こうして本当に愛し合えてるような感覚が嬉しくて。


「ね。まだ……疑ってる?」


 キスの最中にそう尋ねる才上くんの顔が、人のこと言えないくらい真っ赤だから。

 もうどうしたって信じちゃうの。

 でもそれを素直に言わない私は、やっぱり少し才上くんの身勝手を恨んでるのかな。


「うん。……まだ、信じない」

「こんなに珠莉のことが好きなのに?」

「……もっと、言って?」


 才上くんの首に腕を回した。

 恥ずかしいけど、好きって気持ちの方が勝るから。

 才上くんのことになると、やっぱり私は本当にバカになる。


「珠莉……好き。好きすぎて、本当……どうしよ」


 才上くんはたぶん本当に困ってるんだと思う。

 キスが止められなくて、お互いたぶんこういう時の止め時も分かんないから。


「……ごめんね、才上くん」

「なにが?」


 少しだけ息の荒い才上くんの……余裕のない姿を、どうしても私は独り占めしたくて。

 きっとこんな姿見たらまた女子は才上くんに夢中になっちゃうから。


「まだ……才上くんと、チューしてたい」


 せめて今だけは才上くんを独り占めしたくて。

 引かれるかなって、少し不安になったけど。


「……ほんとバカ」


 才上くんが少しだけ乱暴に私の肩を掴んで、壁に押し付けた。

 痛いな、なんて思ったのはほんのわずかで。


「もう、部活戻れる気しないから……あとで珠莉も一緒に部長に怒られて」


 潤んだ瞳の才上くんが、とっても綺麗で。

 頭の中がおかしくなりそうなくらい、かっこよくて。


「好き。……ほんと、かわいすぎて……たまんない」


 やっと、届いた。

 目を閉じれば、才上くんの顔が浮かぶ。

 才上くんを夢に見ることはこれからもないのかもしれないけど。


 でも目を開ければ。


「好きだよ。……これからも、ずっと」


 そこには私の大好きな才上くんがいてくれるから。

 もう私は、笑顔で目を閉じることができるよ。

 



 ジュリエットはロミオの夢を見ない。【完】



珠莉視点終了でひとまず完結ですが、

なぜか最後はこれでいいのかというくらいなし崩しな結果に……。

才上くんが本当に珠莉を好きなのか全然伝わった気がしないので(笑)次話から才上くん視点のお話と、後日談を掲載していきます!


ひとまずこれにて完結です。

更新停滞してて、長引いたうえに最後グダグダで申し訳ないですが、作者はやっぱり書いてて楽しかったです!ありがとうございました!

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