2人目
あれから大急ぎで陽蘭亭に行き魅了抑制眼鏡の修理の依頼と予備を買い与えた
主人は相変わらず食えない顔でによによと笑っていた
「オホホホ、冒険者ギルドでそんなことが!流石はお客様ですね
私もその場におりましたらもっと楽しめましたものを」
「ですが、魅了の効果はこの眼鏡で抑制されておりますので
今頃は冒険者ギルドにおられた方々も正気にもどられているのでは、ないでしょうか
ああ、ただ魅了にかかりやすい方はこれに当てはまらない場合もございますが
そうです、お客様もう1体奴隷を如何ですか?」
「いや、セレスがいればいい」
「おやおや、そうでございますか。それは残念
またご入用の際はいつでもお声がけくださいまし」
陽蘭亭を出た後
「いやいや、久しぶりにあんな波乱の相を見ました。また何かありそうですね」
翌日、昨日のことを思い出して朝から最悪の気分だったが
セレスはそうでもなかったようで朝食もしっかり食べていた
私はというと胃が痛くて朝食が喉を通らないというのにだ
「ご主人様、何処か具合が悪いのですか?」
「昨日の件だ。ああもう恥ずかしい!」
「でも陽蘭亭からの帰り道も普通でしたし」
「そうなんだけど、なんだか嫌な予感がするんだよ
セレス、初心者講習は半日かかるから終わった頃に迎えに行く」
「ご主人様はおひとりで大丈夫ですか?」
「今日はこの部屋で薬を作っているから問題ないよ」
「薬ですか?ご主人様は錬金術師なのですか?」
「……余計な検索はしない
……錬金術師じゃない……薬師の真似事が少し出来るってだけ」
「はあ」
宿でセレスを見送ると部屋で薬を煎じ始める
必要な薬草はカバンの中に入っているし調合も問題ない
セレスの言う通り錬金術師ならこの薬も錬成して終わりだ
でも、適性のない私はこうして煎じなければならない
薬がいくつか完成した頃、セレスを迎えに冒険者ギルドに入ろうとしたその時だ
「そこのお前、お待ちなさい!」
「…………」
「そこのみすぼらしいお前、待ちなさいといっているでしょう!」
やけにキラキラしい連中に囲まれた
セレスまでとはいかないがそれなりに整った顔の男たちの真ん中に
金髪ドリルの冒険者が先ほどから声を荒げている
まいった貴族だ
関わるとロクなことにならない
「何か用でも?」
「お前がサクラなのでしょう!セレス様の!」
セレス関係か
「昨日、冒険者ギルドでセレス様をお見かけしてから
胸の高鳴りが止まらないの
あの方が奴隷だなんて何かの間違いよ!
それにお前のようなみすぼらしい娘が主人だなんて認められないわ!」
魅了がとけにくい体質なんだろうが
周りの男たちも
「お嬢様の言う通りです」
「その通りです」
「お嬢様は今日も美しい」
「あっそこの美人なお姉さーん、オレとお茶しない?」
最後のやつだけなんか違うけど
お嬢様を焚き付けてる
ちょうどこのタイミングでセレスが出てきた
ここはセレスになんとかさせよう
「ご主人様、講習終わりました
やっぱり冒険者ギルドの人達もう何ともありませんでしたよ
って、え!?」
「セレス様、お待ち申し上げておりましたわ!
ほら、そこのお前、セレス様を解放しなさい」
「断る」
「何ですって私の言うことに逆らうの!?私を誰だと思っているの私は!」
「お嬢様、気をお沈めください」
「お嬢様がこう言っておられるのだ、その奴隷を解放しろ小娘」
「ああ、お金ですか?お幾らですか私達が代わりに支払いましょう」
「いやー、君可愛いね。オレと遊ばない?」
「アイザック!今は仕事中ですよ!」
相変わらず1人行動が違う
「んー、だってさ
金と権力に物言わせてこんな可憐な女の子から奴隷奪うだとかさ
オレそういうの嫌いなんだよね」
「なっ!」
「……確かにアイザックのいうことも一理ありますわ
小娘、決闘を申し込みます!」
金髪ドリルは足元めがけて手袋を叩きつける
「…断る」
「何故ですの!?
さてはお前もセレス様のことを!」
頭が痛くなってきた
「1つ、決闘をしたところで私にメリットがない
2つ、私は冒険者じゃないので戦えない」
「あら、そんなことですの?
それならお前が勝ちましたら私の奴隷の中からひとつ差し上げますわ
まあ、勝つことなどあり得ませんでしょうけど!
それに奴隷を賭けての決闘は奴隷同士で行うのが常識ですわ
お前はセレス様を、私は誰にいたしましょう?」
「お嬢様、ここは私が」
「いえ、私におまかせください」
「フッ、私ならものの3秒で倒して見せましょう」
「はいはーい、オレ!オレ!」
「そうですわね、今日はアイザックにいたしましょう!」
「セレス、今レベルは?」
「今日は座学だけだったのでまだレベル1です
ご主人様、短い間でしたがお世話になりました」
「……まだ手放す気ないから」
鑑定スキルをセットし発動させる
相手のLevelは12~31!?
あのアイザックというやつがLevel31!?
しかもエルフ!?
対してこっちはLevel1
無理ゲーにもほどがある
もっと鑑定の精度を上げる
何か弱点は…………!?
右の脇腹が赤く点滅している
怪我をしているということ?
げっ!?魅了耐性スキル(小)Level1持ってる
……ということは勝ち目ないじゃない
残るは…………
「セレス、試合が始まったら眼鏡を外して
あといい?顔を切られること
転ぶなり何をしてもいいから血を流して
そして何があっても参ったと言わないこと」
「え?本気でする気ですか?っていうかその作戦?」
「本気、だから勝ってこい」
冒険者ギルドの職員立会いの元、決闘が行われることとなった
ルールは相手にまいったと言わせた方の勝ち
「アイザック遊ぶんじゃありませんわよ
なんとしてもセレス様を解放して差し上げなければ!
そうして私の部屋でウフフ」
「はいはーい」
「ご主人様、今背中がゾクッとしたんだが……」
「負ければあのお嬢様のお人形さんと化すわよ。勝てばいいの、どんな手を使ってもね」
決闘が始まろうとしていた
「それでは只今よりナターシャの奴隷アイザックとサクラの奴隷セレスの決闘を始めます」
指示してあった通りセレスが眼鏡を外す
「ッツ!はじめ!」
一振りでアイザックの剣にセレスが弾き飛ばされる
「……てんで話にならないね
さあ、早く参ったって言わないとその綺麗な顔に傷がついちゃうよ
なーんてね」
「きっ傷ですって!?ダメよダメ!アイザック!
セレス様の尊いお顔に傷をつけるなんて絶対にダメ!命令よ!」
「ええー?何それー?」
「なら、体なら尊くないと?」
向かっていっては撥ね飛ばされるセレスを横目に見ながら
金髪ドリルに畳み掛ける
「ああ!あれは痣になるね」
「あっ痣!?何を悠長な!セレス様が傷ついても何とも思わないの!この人でなし!」
「セレスを傷つけてるのはあなただ。私じゃない
ああ、また吹っ飛んだ」
「セ、セレス様を傷つけてるのはわっ私なの?」
金髪ドリルは涙目になりながら混乱している
正常な判断能力がなくなってる
「このままいくと骨の1本や2本折れてるかもね」
「骨!?やめてアイザック!セレス様を傷つけないで!」
「ええー?どっち?勝ちたいんじゃないの?」
セレスを見るとHPが殆どなくなっている
ヤバイな畳み掛けないと
「ああ!セレスが死んじゃう!!」
「いやぁ、セレス様死なないでぇ!アイザック、参ったって言いなさい!」
「ええー!?」
「言いなさい!」
「ま、参った?」
「サクラの奴隷セレスの勝利!」
ギルド職員の声にもセレスは立ち上がることも出来ない状態だった
近づいて今日煎じたばかりの傷薬を飲ませる
「ガハッゴホッ、…マズイ
ご主人様?……俺、勝ちましたか?命令通り参ったって言いませんでしたよ」
眼鏡をかけてやりながら、頭を撫でた
「頑張ったね、セレスの勝ちだよ」
「あーあ、負けちゃった!」
「え?私は何を!?」
眼鏡を掛けさせたことで金髪ドリルやギルド職員が正気に戻っていく
「っここんなの認められませんわ!?インチキじゃありませんの!?」
「これはギルド職員立会いの元に行われた正式な決闘です
いくらナターシャ様とはいえ覆すことは出来ません」
「そっそんな……」
その場から崩れ落ちる金髪ドリルとそれを受け止める男たち
「「「お嬢様!」」」
「こっこんなことって……っく、約束は約束ですわ
奴隷をひとつ連れて行きなさい
ここにいるもので不満なら屋敷に別の奴隷もいますわ」
欲しい奴隷なら決まっていた
アイザックと呼ばれた奴隷を指差す
「んー、オレ?うん、まあいいかな
よろしくねハニーちゃん」
こうして私は2人目の奴隷を手に入れた