宴会と忍び寄る影
夢見草に帰るとキキルが出迎えてくれた
「おかえり主人殿
その顔だと霊薬は手に入れることができたみたいだね」
「ああ、アイザックは?」
「……奥で寝ているよ」
キャッスルの奥、家の方へと入って行く
『アイザック様、おやめください』
「ははは、ロージーさん、この程度でへばってたらハニーちゃんに笑われちゃうよ」
そこには転んでいるアイザックとアイザックの周りに散らばる家具の残骸達
『アイザック様が歩く練習をされると……』
アイザックの手に触れる
ゴツゴツしていてそれでいていつも守ってくれる優しい手だ
「アイザック、ただいま
霊薬を持って来たよ」
「おかえりハニーちゃん!って霊薬ってあの!?
どうしたのよ?お兄さん、このままでも充分大丈夫よ?」
「今までエルフの里に行って来たんだ
アイザックの霊薬手に入れられたよ」
「エルフの里!?」
エルフの里と聞いてアイザックの雰囲気が変わった
「エルフの里で何もされなかったかい?
あいつらは余所者をひどく嫌うから
ああ!こんな時に目が見えないなんて!
ハニーちゃん本当に大丈夫なの?他のみんなも?」
「大丈夫だよ
だから、飲んで」
「でも、俺なんかの為に霊薬なんて……
……しかも、あの里の霊薬なんざ……」
オイ、ちょっとイラっとしてきた
「ティルト触手を喚んでもいいからアイザックを押さえて」
「りょーかいなのだ!」
「え?ハニーちゃん、お兄さん怪我人よ!?」
「なら、つべこべ言わず飲め」
「…………えっと、ハニーちゃんが口移しで飲ませてくれるなら」
いつもの軽口は健在らしい
「ティルト」
「エリザベス、来るのだー!!このエロ星人に鉄槌を下すのだ!」
鉄槌は下さなくてもいいが……
霊薬をアイザックの口の中に放り込む
アイザックは暴れるが、エリザベス?が押さえてくれている
パアアアア!!
霊薬を飲み込んだ途端、アイザックの姿が光に包まれていく
「あ、あれ?」
ドロドロに溶けていた部分が元に戻って行く
「見える、見えるよ
ハニーちゃん!」
アイザックは抱きつこうと手を伸ばすがエリザベスに手足を掴まれ
かなり間抜けな感じとなっている
「痛みとかはないか?」
「全然!……ティルトくーん、お兄さん離してほしいな
今はハニーちゃんに抱きついてお礼という名の愛を囁く時間でしょ」
「囁かなくていいのだ!
ティルトとミコに心配をかけた罰なのだ!
そのまま宙ぶらりんでいればいいのだ!」
「そりゃ、ないよ」
いつものやり取りに笑みが溢れる
「そそれじゃ、アイザックどんの快気祝いにどーんとご馳走を作るだ!」
『そうですわね、久しぶりに皆様が揃ったのです
腕によりをかけますわ、行きましょうホーリー』
「はい、ロージーどん!」
ロージーとホーリーが厨房に消えて行く
「なら、私はここの片付けを致しましょう
こんなに散らかっていては食べるどころではありませんからね」
「オレは充電を必要としている」
片付けるために箒と塵取りを用意するミズチに
地下室へと足を進めるクラウド
「ご主人様、俺と奴隷契約をもう1度結んでいただけませんか?」
セレス……
「セレスには今までよくしてもらった
だから、無理に奴隷に戻らなくてもいいんだよ」
「いいえ、まだご主人様の傍にいたいんだ
だから、もう1度結んでほしい」
「分かった
後でキキルに頼もう」
「ありがとうございます」
その晩は賑やかな宴会となった
相変わらず触手エリザベスに捕まったままのアイザックが「あーん」してくれと騒ぎ
空気を読んだクラウドが「あーん」してあげると
男にされるなんて!とショックを受けていたり
キキルがティルトに酒を飲ませて触手が大量発生したり
ミズチが意外に大食らいだということが判明したり
ホーリーも酔っ払って腹踊りを披露したり
セレスが甲斐甲斐しく世話をしてくれたりと久しぶりに賑やかで楽しい食事となった
中の熱気が凄いので
少し風に当たりたくなりベランダに出る
「横、いい?」
いつのまにエリザベスから解放されたのかアイザックがそこにいた
「……どうぞ」
「うん、セレスくん達から聞いた
エルフの里では無茶したって……
ああ、こんなところに傷ができてる」
「自分で選んだことだから、アイザックのせいじゃないよ」
アイザックが気に病む必要なんてない
「そうは言ってもねハニーちゃん
自分より幼くか弱い女の子が俺なんかの為に顔に傷なんかつけちゃって
男として気に病むなって方が無茶よ」
「…………」
「……?」
黙ってアイザックがうずくまる
どこか痛いのかと覗き込むと
「俺、アイザックはサクラ・カツラギ様に永遠の忠誠を誓います」
騎士の礼をとられた
「この先、何があろうと俺はサクラ様を守り抜くことを誓います」
「…………」
「よし!お兄さんの決意表明おしまい!
独り占めはこれくらいにしとかないとまたエリザベスに捕まっちゃうしね!」
ウィンクを飛ばして来るアイザックはいつも通りだった
もしかしたら、さっきの真面目な表情がアイザックの素なのかもしれない
「あ!あと、アイザック!
エルフの里の長が、いつか顔を見せてほしいって」
「……へぇー、あのジジイがね
うん、でも、まあ、ハニーちゃんと一緒なら悪くないかもしれないな
2人で婚前旅行とか行っちゃう?」
「い・か・せ・る・か!」
「絶対ダメなのだ!」
「あはは、次はぼくも主人殿と一緒に出掛けたいねぇ」
「次はエルフの里の観光もしたいものですね」
「美味しいものをもっと研究したいだ!」
「ナビは任せろ!」
「あーあ、見つかっちゃった!
ハニーちゃん、中に入ろう」
アイザックの手を取り、中へ入る
この暖かで優しい空間へ
その頃、騎士団牢屋
「セレス様 セレス様 セレス様 セレス様 セレス様 セレス様セレス様………………………………」
聖女が壁に向かって呟いている
もはや焦点は合っておらず正気でないことがうかがえる
『セレスとかいう奴隷がそんなに欲しいのか?』
「セレス様は私の恋人よ?」
『その恋人と引き裂いたあの女が憎いか?』
「あの女ユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイユルセナイ………………」
『なら、我と共に来い
力を授けよう
愛しい男を取り戻すのだろう?』
「ふふふふふふ、そうね
うふふふふふ、セレス待っていてね
すぐ、取り戻して見せるから
うふふふふふっふふ」
そうして影も消え聖女も消えた
残ったのは蝋燭の灯りのみ ……




