食人花フランシーヌと真実と抱擁
その翌日のことだ
あの執事……ワトソンが死んだと聞かされたのは……
執事が呪術を行なった張本人ならば呪術は解かれるはず
だが、相変わらず母親の呪術は続いていた
怪しい大奥様に話を聞くか
でも、今のままじゃ証拠も何もない
ワトソンが持っていたという藁人形が見当たらないのだ
母親は弱っていくばかりだし……父親は一向に姿を現さない
一体この家はどうなってるの?
「姉ちゃんこのままじゃ母さん死んじゃうよ」
ヴァンのいう通り、母親は昨日と今日でだいぶ弱っていた
「ティルト、フランシーヌを用意して」
「了解なのだ!」
それからは見た目は非常にグロテスクだった
ティルトが拳大の種を地面に植えると
ニョキニョキと茎が現れ葉が揺れ、不気味に大きな花の中に大きな口が現れた
そして、母親を器用に葉で摘まむと口に放り込んだのだ
そしてモゴモゴと口を動かしぺっと母親を吐き出した
すると、花の模様にドクロマークが浮かび上がってきた
「成功なのだ」
粘液でベトベトな母親をタオルで拭うと
さっきまでの苦しそうな表情とは違い安らかな寝息をたてている
「な、なんだぁコレは!?」
その時だ、男の声に振り向くと
「バケモノめぇ!」
と木の棒を振り下ろしてきた
あれ?この男……どこかでみたことあるような……
「はいはーい、化け物じゃないよ
治療でーす」
アイザックが木の棒を受け止める
「う、嘘をつけ!アリシアに何をしたんだ!」
「うん?……旦那様?」
「ああ!アリシア!目が覚めたんだね!今、君を苦しめた化け物を僕が退治するからね!」
「え?キャア!バケモノ!?」
母親はフランシーヌを見ると再び気絶した
「やめてよ!父さん!この姉ちゃんが母さんを助けてくれたんだよ!」
「そうだよ、お父さん!」
「何をバカなことを言ってるんだ!
こんなバケモノが助けてくれるはずなんかないだろう!」
なおも木の棒で襲いかかってくる父親をアイザックが取り押さえる
状況が状況なので
ティルトにフランシーヌを小さくするように命じ
1度、夢見草に戻ってきた
「ねえ、ハニーちゃん
さっきの見た?」
「見た
あの父親、ヴァン達にお父さんって呼ばれた時、顔顰めてた」
一瞬だったが、父親は確かに「お父さん」よ呼ばれて顔を顰めていたのだ
「あの父親行動おかしくない?ちょっと探って見てもいい?」
「お願い」
「うん」
アイザックが街中に消えると私はキキルを探した
あの貴族の家について聞く為である
「ああ、あの家ねぇ
あの家は大奥様が取り仕切ってるはずだよ
あそこの盆暗息子は有名な話だよ」
昨日、今日で見てきたことを話すと
「それはおかしいなぁ
あの盆暗息子が奥方を助ける為にフランシーヌに向かっていったっていうのが
腑に落ちないなぁ
あの、息子なら妻と子供見捨てても自分の身を守るタイプだよ
……まあ、愛の力で全てを乗り越えたっていうなら別だけどねぇ」
「なあ、それってマチルーズ家の話か?」
珍しくミツキが顔を出す
「ええ、そうですよ」
……あの家マチルーズ家っていうんだ……
「あそこの息子なら弥生の常連だよ
サクラも何度かあったことあるんじゃないか?」
それで、どこかで見たことがあったんだ……
アイザックは明け方近くに帰ってきた
「おかえり」
「ハニーちゃん、起きてたんだ」
アイザックはいつものふざけた様子ではなく、どこか疲れた様子だった
「まあね」
「あの父親、蔭間に通ってた」
「うん」
「しかも蔭間の大夫に聞いたらさ
明野って大夫に相当入れ込んでるらしいんだよね
しかも、愛人にするって風潮してるらしいし……
なんか、子ども達の言ってた話とは違うみたいだよ」
「そうみたいだね」
「……父親が母親を呪ったのかな?」
「……かもしれない」
父親にも動機は十分あった
でも、大奥様にも動機はある
「お兄さん、しばらくあの父親に張り付こうか?」
「いや、うちにはうってつけの人物がいるだろう?
彼等に頼もう」
「うん、今回はお願いしたいな
本当に父親が母親を呪ったのならあの子達が可哀想すぎるよ」
翌日、セレスとミズチに頼んで父親を誘惑してもらった
セレスからはご褒美を要求されたが、今回はあの嫌がっている色仕掛けをさせるのだ
叶えてやらなくてはならないだろう
誘惑したセレスとミズチは父親を弥生に連れて行った
弥生の店主には事情を話し1室を借りてある
襖越しに私とアイザック、録音役にクラウドが見張っていた
そこで話されたのは
今回の全ては父親の犯行であった
父親は元々女の人より男の人の方が好きなタイプの人間だったようだ
気まぐれに抱いたメイドが妊娠したが、
母親が追い出してくれたのでこれ幸いと男遊びに勤しんだ
それに腹を立てた母親が政略的に嫁を当てがったが、
男は気にせず男遊びを続けた
男遊びを止めようとした嫁を男は呪術師に依頼し殺させた
そして、男遊びを再開した
だが、そんな時に街中でメイドと再会する
愛など最初からなかったが、自分のそっくりの息子に目がいった
世継ぎ世継ぎとうるさい母親を黙らせるにはコレが1番だと
そうして邪魔な女と女の子どもは消せばいい
前と同じ方法で……呪術師に依頼し藁人形を隠したまでは良かったが
今回は執事に見つかってしまった
執事は自首するように進めてきたが、自首などするはずがない
階段から突き落とせば、執事はあっさりと死んでくれたよ
男は夢見心地にセレスとミズチに話して聞かせた
セレスが呪いを解くように命じると
ふらふらと夢遊病者のように歩き出した
術者のところへ行くのだろう
それをアイザックと追いかけていき、術者を捕まえた
多少力に訴えた上で呪いも解かせた
未だ魅了の力で夢見心地の父親と術者を捕まえた後のことだ
「ハニーちゃん、これからどうするの?」
「黙っているわけにはいかない
こいつ2人も殺しているわけだし
それに、あの子達には知る権利があるでしょう?」
「知りたいと思う?
父親が母親を呪っただなんて?」
「私なら知りたくない」
「なら!」
「でも、コイツを放置したらまた誰か死ぬよ」
「……それは」
「騎士団に突き出す
その後のことは知らない」
「そんな無責任な!」
「それが私なの!」
「……っ」
アイザックはまだ何か言いたげだったが
暫くして、男を騎士団の詰所に突き出した
騎士団で魅了の力を解かれた男は暴れたが
クラウドの録画と録音がある
それに術者の証言もある言い逃れはできない
そして、その足でマチルーズ家にも顔を出した
事実を説明するためだ
今度は大奥様も呼んでもらった
随分、想像していたより小さなご婦人だった
ただ、目の力だけは衰えていないことが窺えた
大奥様に母親にヴァンとチャミの4人に今回の事を伝えた
大奥様は俯き手を固く握っていた
母親は気を失い
ヴァンとチャミも顔色を失っていた
帰る時にヴァンに石を投げられた
「助けてくれっていったけど
こんなの望んでなかった!!」
こんな時でも石は私の体を通り抜けた
私だって望んでなかったさ
でも、これが真実で……どうしようもない
翌日、大奥様が夢見草に私を訪ねてこられた
「何のごようですか?」
「息子のことでご迷惑をお掛けしました」
「いえ、……それでヴァン達はどうなりましたか?」
それだけが気がかりだったのだ
「あの子達は……私の孫です
私が育てます」
「あの子達の母親は……」
「あの子達にはまだ母親が必要でしょう
うちで預かることにしました」
「そうですか、知らせて下さってありがとうございます」
「いえ、今回の件では本当にご迷惑をお掛けしました」
そう言うと、老婦人は去っていった
「あの子達、母親とは一緒に暮らせるんだよね?」
アイザックが老婦人を見送りながらそう言った
「そうだね」
「今回は後味の悪い事件だったね」
「そうだね」
「ハニーちゃん、さっきから『そうだね』ばっかり」
「そうだね、アイザックは頑張ったよ」
「ははは、ねえ、ハニーちゃん今だけぎゅーってしていい?」
ぎゅーっとアイザックを抱きしめる
「わお!ハニーちゃんの方からなんて熱烈ね
なんだろうね?父親と母親って?俺にはいないから分からないや」
「うん……」
「でも、俺にはハニーちゃんがいるもんね
よし!充電完了!
ありがとうねハニーちゃん、愛してるよ」
ウィンクを1つしてアイザックは屋敷の中に入って行った
じー
「アイザックばっかりズルいのだ」
「俺も色仕掛け頑張りました」
「ぼくもたまには飴が欲しいところではあるねぇ」
「私も抱擁していただきたいものです」
「ご主人、お、オラ何も見てないだ」
「スリープモード移行中」
本当にうちの奴隷達は
「仕事をしなさーい!!」




