夢見草
それは何気ない食事中の一言だった
「女の人も蔭間に来れるようになるといいのにね」
ミツキに会いに蔭間に行っていたことで破廉恥だの阿婆擦れだの言われていたので
そう言っただけだったのだが……奴隷達は別の意味にとったらしい
「ご主人様……それは蔭間に行きたいということでしょうか?」
「なぁにハニーちゃんそうならそうと言ってくれれば
お兄さん、ハニーちゃんのためにいつでも準備はOKよ」
「ミコ、カゲマとはなんなのだ?」
「女性もですが……女性をターゲットとすると……
いや……最初は貴族に焦点を当てて……そうすると内装は……いや、ここは」
「ああ、蔭間に行きたいとかではないから
ミツキには枕になってもらってただけだし
今は……その……みんなが……いるし」
奴隷達の注目が集まっているせいか声が小さくなるが
言いたいことは伝わったらしい……約1名を除いて
「主人殿、女性用の蔭間についてのアイディアを聞きたいんだが!
何故、そう思ったのか教えてくれないか!」
「え?いや、ただそう思っただけで……」
「何故、そう思ったかが重要なのだよ!」
「キキルくん、目がお金になってるよ」
アイザックが茶化すがキキルはそれにも目をくれない
「なるに決まっているだろう!主人殿の一言にはそれだけの価値があるのだよ
さあ、そうと決まれば主人殿、部屋でアイディアを聞かせてもらうよ!」
ひょいっと私を横抱きにするとキキルは部屋へ運んで行く
……アイザックの言う通り目が金になっている
下心の一切ない見事な金の亡者だ
「いや、だから、蔭間に行くと破廉恥だとか阿婆擦れだとか散々言われたから
そんな風に言われない場所があればいいのになと思っただけで……」
そういえばこの世界にはホストクラブもないよな
「主人殿、今何を考えているのかな?」
「いや……昔住んでいた場所に……」
キキルに簡単にホストクラブについて説明する
地球でも実際に行ったことはないので聞きかじった内容も入ったが話すごとに
キキルの頬が高揚していくのが分かった
あ……ちょっとマズいかも……と思った時には
「素晴らしい!早速事業展開するとしよう!名前を何にしようかな?
また主人殿の名前からとって夢見草にしよう!」
と、走り出してしまっていた
まあ、キキルのお金だし潰れても仮に上手くいかなかったとしても問題ないやと
その時はそう考えていた
まさか、貴族相手に大当たりするなんて誰が思う?
キキルだけが
「主人殿は金の女神だねぇ」
なんてご機嫌で言っていた
夢見草は女性を相手にするということで他の蔭間にも手を回して軋轢をなくしたらしく
新規事業だというのに順調に売り上げを伸ばしていた
夢見草で気になった奴隷と話し……まあ、話すだけで済まない客も多いけど……
その後、桜月亭で奴隷として買い上げるというのが流れになっている
夢見草では奴隷との行為は禁じていないけれど
加虐的なものや被虐的なものは禁じてもらっている
おかげで夢見草の方には日々嬌声が響いている
「ねえ、ハニーちゃん俺たちも……」
なんて私の腰に手を回すアイザックには久しぶりに従属魔法を発動しておいた
ミツキは夢見草で男達の世話をしてもらっている
ユーリさんも毎日リハビリに励んでいるらしい
この間、惚気を聞かされた
……ごちそうさまです
夢見草の方で働いている奴隷達の中には私の奴隷になりたいという変わり種が
少なくないらしいがセレスが直接の接触を禁止してくれたおかげか
今の所、直接的なアプローチはない
「そういえば主人殿、聞いたかい?」
「何を?」
相変わらず、ロージーの食事に他愛ない話をしていた時だった
「王族が今度聖女を召喚するらしいね」
聖女……
あとで知った話だが、この国は私を召喚した国の隣にある国なんだそうだ
また誰かが喚ばれるのか……?
「聖女ですか?」
「えー、性女ってなんかいかがわしい響きだね
お兄さん、好みかも」
「アイザック、食事中」
「聖女を召喚するなんて意味がないのだ」
「聖女が夢見草の常連になってくれれば箔がつくんだけどねぇ」
「………………」
「ご主人様、大丈夫ですか?」
「え?ああ、セレス……何だっけ?」
「…………」
「…………」
「ハニーちゃん、そこまでお兄さんのことを!
お兄さん嬉しいよ
この胸に飛び込んでおいで!」
「1人で飛び込んでおいて」
茶化すアイザックに突っ込みながら席を立つ
夢見草にも薬を卸すようになって前より少し忙しくなった
「あれ?やっぱりハニーちゃんも聖女なのかな?」
「ミコはミコなのだ」
「うーん、ミコってことはやっぱり召喚されてきたってこと?」
「……それは……」
「召喚って?」
「ああ、セレスは知らないのかい?
5年程前に隣国が大規模な勇者召喚を行ったんだよ
魔王と魔族を倒すとかいう建前でね
主人殿はおそらくその時に喚ばれたんだろうねぇ、あの調子じゃ」
「喚ばれたって……帰れないのか?」
「帰ったって話は聞かないねぇ」
「…………」
「まあ、ぼくらは主人殿の奴隷だからね
主人殿の意向に従うさ」
「その割にはキキルくん自由にしてない?」
「はっはっは、自由な発言をしているアイザックに言われたくはないねぇ」
「まあ、ハニーちゃんなんだかんだ言っても優しいしね」
「主人殿は子猫のような愛らしさがあるね」
「ご主人様が猫?」
「おや?セレスは異論があるようだ
主人殿の可愛さが分からないとはまだまだだねぇ」
「……そういう訳では……」
「ミコは愛らしいのだ!」
「ふふふ、ティルトの方が分かっているらしいね」
「…………」
「さて、ぼくも店に行くよ
今日も繁盛させないとね
我らが主人殿の為に」
「それじゃ、お兄さんは久しぶりに鍛錬でもしようかな
ハニーちゃんの無茶に応えられるようにね」
「アイザック……俺に稽古をつけてほしい
俺も……ご主人様の役に立ちたい……あんなのはもう御免だ……」
「いいよーセレスくん
その代わり、今日は厳しくいくからね」
「ティルトはブリリアンヌの強化をするのだ
今度はアンテッドにも勝てるように光属性を加えるのだ!」
全員が席を立つと
壁からロージーが姿を表す
『あらあら、サクラは愛されているようですよ
安心してくださいねマスター』
食器を下げるとまた消えていった




