パーティー
その日は、朝から雨が降っていた
蔭間 弥生の男大夫 ミツキの水揚げの日だった
ミツキにとってユーリさんと再出発する日
そして、私にとってミツキとの別れの日でもある
「ご主人様」
「ハニーちゃん?」
争奪戦の末勝ち抜いたセレスとアイザックが心配そうにこちらを見ている
「まだ、朝早いよ
ほら、もう少し眠ろう」
アイザックの抱き寄せる腕を外し
体を起こす
「ご主人様?」
「なんでもない、2人はまだ寝てていいから」
モンスターハウスがキャッスル化して以来、奴隷達にも部屋を与えていた
セレスの部屋は最低限のものしか置いていない殺風景な部屋だ
家具を買い与えようとするのだが頑なに拒む
「俺はご主人様とあればいいので」
あの綺麗な顔で真正面からそう言われると未だに照れる
アイザックの部屋は騎士っぽい部屋だ
ベットの下に豊満な女性の雑誌とかが見え隠れしている
……隠すならもう少しちゃんと隠して欲しい
「あちゃー、ハニーちゃん見ちゃった?」
と、オヤジみたいな反応をするのはやめて欲しい
ティルトの部屋は緑で溢れている
そんな中ティルトは触手の怪しげな実験を繰り返している
「ぐふふ、これで今度こそ」
キキルの部屋は和室風に改装されている
畳は落ち着くのでたまにお邪魔している
「おやぁ、主人殿何か御用かな?」
ロージーといえば厨房が大きくなって大興奮である
桜月亭の奴隷達の分も作るとなると大変な仕事なので人を雇った
桜月亭の奴隷の中から料理が得意な者を引き抜いたのだ
始めはゴーストのロージーに恐る恐るという状態だったが
今やロージーの指示の元、毎日料理に励んでくれている
1度、毒をもった奴隷がいたが
毒を食事に混ぜようとした途端、毒はキャッスルが吸収してくれた
その奴隷はキャッスルの効果で苦しみ抜いた後、吸収された
朝も早い時間だが城内を歩く
雨の音が響く
セレスと会ってからミツキには会いに行っていない
それだけの関係だったといえばそれまでだ
でも、1番辛い時期に支えてくれていたのはミツキだった……
「ご主人様、風邪を引くぞ」
振り向くとセレスが
「お兄さんもいるよー」
アイザックが立っていた
今は彼らがいる……
いつか来るであろう別れに怯えるのはやめておこう……今はまだ……
この城には食堂が2つある
1階にある桜月亭の奴隷達が食べる食堂と私と私の奴隷達が食べる食卓だ
ロージー監督の料理を食べながら各自今日の予定を話す
「今日は弥生に行く」
「お伴します」
「うーん、お兄さんどうしようかな?」
「ティルトはミコと行くのだ!」
「ぼくは店があるから留守番させてもらうよ
主人殿、後で話があるんだけどいいかい?」
「構わない」
こうして他愛ないことを話しながら食事をする
食事の仕方も奴隷によって違う
セレスは肉ばかり食べているし
アイザックはバランスよく食べている
ティルトは好き嫌いが多い
キキルは出されたものは平らげる
「ご主人様、どうかしたのか?」
「いや、なんでもないよ」
食事を終えるとキキルが部屋を訪ねてきた
「話というのはね主人殿、弥生に卸している薬を桜月亭にも卸してもらえないかい?」
「桜月亭には必要ないだろう?」
「うーん、それがねぇ
奴隷達の中で主人殿の奴隷になりたいって奴隷達がかなりいてさ
主人殿の蔭間通いも噂になっていて
自分たちで蔭間を作れば主人殿の寵愛を得られるって噂になってるんだよね」
「……くだらない」
「でも、悪い話じゃないんだよねぇ
そろそろ新規事業を展開してもいいかな?って考えてたところだし
奴隷達、自ら言い出したことだしねぇ
ぼくとしてはさせてみてもいいと思うんだよねぇ」
蔭間ねぇ……
……どうしたものかな……?
「そもそも私の奴隷になりたいっていう意味が分からない」
「本気かい?主人殿?
桜月亭の奴隷にとって主人殿の寵愛を得れば
今の待遇から抜け出せる上に主人殿は稀に見るお優しい主人殿だからねぇ」
「……馬鹿にしてる?」
「してないよ!まったく、すぐ悪い方にとるのは主人殿の悪い癖だよ」
「私は……あまり目立ちたくないんだ」
「うん……主人殿が目立ちたくないなら仕方ないかな……
まあでも、奴隷達の気持ちもわかるんだよね……ぼくも奴隷だからねぇ」
「…………」
「……分かったよ、奴隷達にも伝えておくからさぁ
そんな顔しないでおくれよ
主人殿の悲しませるためにこんな話ししたわけじゃないんだからさ」
「分かってる……ごめん」
「ぼくの話はそれだけだよ
出かけるんだろう?」
「うん」
「いってらっしゃい」
結局、セレスとアイザックとティルトを連れて行くことになった
ティルトは相変わらず胸ポケットに入り込んでいる
「それで、その男大夫に花でも渡しに行くの?」
「うん、2人にとって新しい門出だしね」
花屋によって花束と果物を売る店で詰め合わせを買う
「美味しそうなのだ!ティルトも食べたいのだ!」
「今度ね」
「えー!今がいいのだ!」
無視するとティルトがブーブー言っていたが暫くすると静かになった
弥生に近づくと、何やら騒ぎになっている
お祝いムードという訳ではないみたいだ
「誰でもいい!助けてくれよ!」
騒ぎの中心を見るとミツキが裸足のまま店の外に出ているではないか!
「ミツキ!」
「サクラか……」
「何があったの?今日はミツキの水揚げの日でしょ?」
「……ユーリがダンジョンに潜ったまま……帰ってこないんだ」
ユーリさんはAランクの冒険者でミツキの幼馴染で片思いの相手でもある
「どういうこと?とにかく店に入ろう」
「っ駄目だ!俺は依頼を出さないと!」
蔭間の男大夫は店主の許可なく勝手に外出することは出来ない
「ミツキ勝手に外に出れないでしょ
とにかく、どういうことか説明して」
話を聞くと、ユーリさんは依頼を受けてダンジョンに潜ったらしい
でも、パーティはバラバラになりユーリさんだけが戻ってこない
……そういう状況らしい
「とりあえす冒険ギルドでも話を聞いて見るから
ミツキはここにいて、分かった?」
「そんな!俺だけここでじっとしているなんて!」
「……ミツキはまだ弥生の男大夫でしょ
勝手に連れ出すことは出来ないの」
「……クソ……」」
壁を殴りつけるミツキを置いて冒険ギルドに急いだ
「おう!サクラ様じゃねぇか、今日は何の用だ!」
茶化してくるオヤジどもを無視しながら受付に聞く
「Aランクのユーリの受けた依頼について教えて」
「申し訳ありません、守秘義務にあたりますので……お答えしかねます」
「おいおい、サクラ様ユーリ探してんのか?
ユーリならダンジョンの中だぜ」
無視したオヤジの中の1人が教えてくれた
「ユーリさんだけがダンジョンに取り残されてるって話を聞いたけど?」
「おいおいそりゃ、どういうことだ?
あいつは貴族の坊ちゃんの護衛でダンジョンに潜ってるんだろ?
なあ?クレア?」
オヤジが受付に話しかける
「ですから、守秘義務だと……」
「オイオイ、仲間の命がかかってるんだ!守秘義務もクソもあるかよ」
ドンッ!
オヤジが拳で受付を叩く
「……ユーリのパーティはユーリを除いて帰還しています
ダンジョン内でトラブルが発生し、散り散りになったと
他のメンバーと護衛対象は帰還しましたが……ユーリは……まだ」
「オイオイ、マジかよ
それは何階だ」
「21階です」
「21階なら今から救助に向かえば……」
「アイアンモンキーの巣の近くで襲撃されたと……もう……」
「アイアンモンキーって……?」
「アイアンモンキーはその名の通り鉄の猿さ
1体自身はそんなに強くない、でも、連携攻撃が得意で
群になればなるほど厄介なモンスターだよ」
私の呟きにアイザックが答える
「アイザックなら勝てるの?」
「1体なら余裕だね
でも、群となると話は違うかな
……そもそもアイアンモンキーの巣は見つけ次第、討伐対象でしょ
なんだって21階なんてところに……普通もっと下の階層で見つかるものでしょ」
「私たちも把握してなかったんです
それを貴族の方が刺激したとかで……」
そんなユーリさん……ミツキ……
「こうしちゃおれん!俺たちはパーティーを組んでダンジョンに潜る
ユーリは仲間だ、仲間を見殺しには出来ん!」
さっきまで酒を酌み交わしていたオヤジ達の雰囲気が変わる
「じゃあな、サクラ様!生きてたら会おうぜ!」
私にも何かできることはないかとアイザックを見るが
アイザックは首を振る
「俺とティルトくんでギリギリだよ
セレスくんはまだ危ないし
ましてやハニーちゃんを連れて行くことは出来ない」
「私は!」
攻撃できないけど攻撃も受けない
「そんなことしたら目立つよ
ハニーちゃん、目立ちたくないんでしょ?」
目立ちたくない……またあんな風に神子だなんだって……目をつけられたら……
でも……
『ユーリ』
ミツキの顔が頭から離れない
……ミツキには世話になったんだ
それを見捨てることは……出来ない
「アイザック、ティルト命じます
ユーリさんを救出にダンジョンに潜ります
自分の身を守りつつユーリさんを救出しなさい」
「俺は」
「セレスはミツキに付いててユーリさんを見つけ次第戻ってくるから
あと、この事をキキルに伝えて」
「……俺は……分かりました」
「分かったよ
ハニーちゃんは仕様がないなぁ
ご命令とあらばってね」
「ミコの頼みなら頑張るのだ!」
「私たちもダンジョンに潜ります」
受付に申請する
「え?あなたは冒険者ではないでしょう?」
「薬師です」
「薬師ですか……確かに必要だけれども
……分かりました、許可します
パーティー名は」
「サクラ様と愉快な奴隷達で」
「分かりました。『サクラ様と愉快な奴隷達』登録いたしました」
は?
「セレスくん、今なんと?」
答え次第じゃただでおかないよ
「あははは、いいじゃん!サクラ様と愉快な奴隷達!
いやーお兄さん、久しぶりにこんなに笑ったわ」
「ティルトもいいと思うのだ!」
……いや、いいわけないでしょ
「ほら、ハニーちゃん早く行かないと!
一刻を争うんでしょ……ぷくく」
アイザックに急かされてダンジョンに向かう
うちの奴隷達は本当に……全く
こうして、のちにSランクになる『サクラ様と愉快な奴隷達』は誕生したのであった




