打算
キキルと契約を結んだ際キキルが薄く笑った気がした
それが気のせいでなかったのは暫く経ってからのことだ
あの日はアイザックとセレスと街に来ていた
セレスと約束した剣を買いにきていたのだ
ティルトは家でお昼寝中でキキルは引き継ぎのことで用があると出掛けていた
「あんたがサクラか!」
酒臭い男が絡んできた
アイザックとセレスがすかさず間に入った
……この男?陽蘭亭で見た……キキルが陽蘭亭の前の店主の息子だったか?
「あんたのせいでな陽蘭亭は!陽蘭亭はな!」
男がいうには陽蘭亭は潰れるらしい
キキルが奴隷達を桜月亭とやらに引き抜いたそうだ
……桜月亭……サクラ・カツラギ……カツラという字には月という意味がある
はは……まさか……と思うがあいつ勝手に人の名前使って商売してるんじゃ!?
「セレス、ごめん!剣を見る約束はまた後にしてもらってもいい!?」
「はい、でも、ご主人様どこに行かれるのですか?」
「キキルのところ!……確かめないと」
陽蘭亭に行くとキキルはもう店を出た後だった
あいつめ……どこに……
ちょんちょん!
「何アイザック?今、忙しいんだけど」
「あれさ、お兄さん達の家じゃない?」
アイザックの指差す先には確かに我が家が
何故、魔の森にあるはずの私の家が街中に!?
入ってる見るとどう見ても我が家である
家具の配置、何一つ変わっていない
『あーら、おかえりなさいませ
今日はお早いお帰りでございましたね』
ロージーもいる
「ロージー、何か変わったことあった?」
『変わったことでございますか?
そういえばキキル様が昼過ぎにいらして何かしてらっしゃいましたが』
キキル!……またあいつか!
『どうかなさいましたの?』
「今、この家街中にドドンと建っちゃってるんだよね」
『あら?それは……サクラが怒りますわね』
「アイザック、セレス……キキルを探して連れてきて
今すぐに!」
「はっはい!」
「りょうかーい」
キキルはといえばすぐに見つかった
商人ギルドにいたらしい
「キキル、これはどういうこと!?」
「おやぁ、主人殿どういう事とはどういう事かな?」
「どうして魔の森にあった家が移動しているの!?」
「それはぼくが移動させたからだよ」
悪びれもせずにキキルは飄々と答える
「どうして移動させたかを聞いているの!」
「必要だったからさ」
「必要?」
「そう、商売にね」
「その商売も……桜月亭、人の名前を勝手に使って商売しているようだけど
それもどういうことなの?」
「おやぁ、もうそこまで知っているなら話が早いなぁ
ぼくは主人殿の奴隷として商売で役に立とうと思ってね
ぼくが役に立てるのは文字通り奴隷商としてだけさ
だから、奴隷商をまた始めたって訳」
「じゃあ、陽蘭亭の奴隷達を信頼できる所に預けてるっていうのは」
「いやぁ、勿論、預けてはいたよ
主人殿に嘘は言わないよ
ただ、ぼくが1番信頼できるのはぼくのところだったってだけだよ」
「………………それで、どうやって家を移動させたの?」
「この家は主人殿と従魔の関係にあるよねぇ
それをちょっと利用させてもらったのさぁ
それで、主人殿にこの家を進化させてもらおうと思ったんだ
ぼくの考えが正しければこの場所にも魔の森にも家を作れるはずなんだ」
………………なんといえばいいのだろう
これを1人で勝手にやってのけたのだキキルは
私のという主人はそもそも彼にとって必要だったのだろうか?
いや、必要などなかった
必要だったのは隠れ蓑になるモンスターハウスを持っている主人で私ではない
……馬鹿みたいだ
必死に頼まれて……断れなくて……あげく利用されて……
「主人殿?主人殿ってちょっとなんだか悪い方に考え込んでないかい?
そりゃ、先走ったのは認めるよ
主人殿の意見を聞こうともしなかった
それは悪かったけれど、ぼくにも事情があったんだ
あの馬鹿息子が思いの外、早く行動仕掛けてきたものだから
奴隷達を戻さなくてはならなくて……て聞いてないねぇ」
「キキル……奴隷契約を解除しよう」
「ちょっちょと待ってよ!
嫌だよ!せっかく縁の繋がったご主人様を見つけられたのに離れるなんて嫌だよ」
「あなたに私は必要ない
だから……」
「必要だよ!誰の為に奴隷商すると思ってるのさ
ぼくが働くのはそれはぼくのためでもあるけれど全ては主人殿に喜んでもらうためさ
これは嘘じゃない本当だ!」
「ぼくにはサクラ、あなたが必要だ
あなたが辞めろというなら奴隷商を辞めてもいい
だから、奴隷契約を解除するなんて言わないでくれ」
…………どうしよう……ここまで抵抗されるとは思わなかった
『仕方ないねぇ、また新しいご主人様をさがすとしますか』
ぐらいのものだと思っていたのに
「でも、私は奴隷として奴隷商としてしか生きてきていないから
それ以外では役に立てないんだよ」
自嘲的にキキルが笑う
セレスが前にこんな風に笑っていた
なんで奴隷は自嘲的に笑うんだろう……
「奴隷商を辞めろとは言わない
キキルが奴隷商をやめたら露頭に迷う奴隷達が多くいるからね
でも、勝手にことをすすめた事は許せない
だから、罰を与える」
罰の一言にキキルの目が輝いた気がするけれど
それは無視……して
罰……何しよう……どうしよう……何も思いつかない!
「罰はその時になったら伝えるわ」
……思いつかなかったとか言えない
「分かりました。許してくださり有難うございます
これから一層忠臣をもってお仕えします」
「それで、この家を進化?させるの?」
「そうだよ、この家は随分なレベルだからねぇ
進化できると思うんだよ」
『まあまあ、この家を進化させるのでございますか!?』
「ロージー何か知っているの?」
『私はこの家に棲み憑いているゴーストですよ
知らない訳ありませんわ
サクラ、まずはステータスオープンと言ってみてください』
「……ステータスオープン」
モンスターハウスのステータス画面が浮かび上がる
『モンスターハウス 魔族 Level51
家そのものが魔物であり、家の主に害意のある者や害をなすものを吸収する性質を持つ』
HP……MPの項目の後に色々と並ぶ中『進化』の文字が
進化の文字を触ると
『モンスターハウスを進化させますか?
進化すると元の姿には戻れませんが、宜しいでしょうか?
はい /いいえ』
はいを触ると家がぐにゃりと歪み出した
『そうでした!進化途中に家の中にいると吸収されてしまうんです!』
ロージー早く言って!
昼寝中のティルトを掴むと急いで家を出た
セレスもアイザックも、キキルも急いで家を出る
ドドドドドド ガガガガガ バババババ
暫く不吉な音がしていたかと思うと
そこにはひどく立派な門が出来ていた
中は城といっても過言ないものが出来ている
…………
「ステータスオープン」
『モンスターキャッスル
魔物でできた城、その防御力は魔王城も凌ぐと言われている
主人に害意をもった者に永遠の苦痛を与え吸収する』
なんか……凄い……師匠、何を思ってこんなモンスターを育てていたんですか?
『進化できたようですわね
中に入りましょう』
文字通り城だった
部屋も沢山ある
これなら奴隷商もできるだろう
城の階段を上っていった先に階段がありその先にモンスターハウスの時の扉があった
開けると
「………………セレス、私には魔の森の家が見えるんだけど気のせいよね」
だって、ここから魔の森までどれくらいあると……
「いや、俺にも見えます」
「ほら言っただろう、モンスターハウスの習性で家を増殖することができるんだ
家同士は亜空間で繋がっているから移動も楽にできるよぉ
主人殿が切り離すことを望めばモンスターハウスとして育てられるよ
レベルは1からになるけれどね」
…………頭がついていかない
ふらついた私をセレスが支えた
その後、城の1部を使ってキキルは奴隷商を再開した
桜月亭は今日も賑わっている
予想外だったのは奴隷達が皆、私に頭を下げるようになったこと
店主の主人は自分たちの主人でもあるらしい……
そんな奴隷をもった覚えはない……
そしてキキルが持ってきた大金である
「こちらが今月の売り上げになります」
「…………」
こんな大金をどうしろと……
「キキルが稼いだ金だ……から……キキルが使ったら……?」
「いやですねぇ、奴隷が稼ぐのは自分のためでもありますが何よりご主事様の為」
やけに色気に溢れた流し目でこちらを見てくる
「主人殿、こんなに稼いだんです
ご褒美をくださいな」
「ご褒美?」
「はい、ぼくにも主人殿の褥に侍る権利をもらいたいな」
「却下だ」
「却ー下」
「駄目なのだ」
答えたのは私ではない
「枕は俺の役目だ」
「えー、今日はお兄さんの番でしょ
お兄さん今日をとーっても楽しみにしてたんだから!」
「駄目なのだ!ミコの隣はティルトのものなのだ!」
「おやぁ?決めるのは主人殿だろう」
「罰を受ける予定の奴隷の分際で何を!」
「ちょーっと新人のくせに生意気じゃない?」
「駄目ったら駄目なのだ!……こうなったらブリリアンヌで……」
一気に賑やかになった部屋に頭を痛めながら
ロージーが淹れてくれたお茶を飲む
……ある意味、幸せなのかもしれないな……なんてことを思いながら……




