閑話 セレス
俺の名前はセレス・ウィン
淫魔の父親と人間の母親の間に生まれた
母は俺の容姿が父親に似てくるのを恐れていた
そして、ある日、幼い俺の陰部を切り裂いた
なんとか一命をとりとめた俺は家を出て冒険者になった
最初は荷物持ちからはじめた
何度か死にかけたが、幸い死ななかった
そこそこ名の知れた冒険者になった
顔なじみ達とパーティを組んで迷宮に潜ってモンスターを倒して
アイテムをゲットしてレベルを上げてと充実した日々を送っていた
ところがあの日、蠱惑の迷宮に入った時だ
思い出せば入った時から嫌な予感がしていた
そこにいた迷宮のボスはラミアだった
通常のラミアと大きさが違い圧倒的に大きい
魅了攻撃を何度もかけて来ては仲間からの攻撃も受けた
結果、俺たちのパーティは負けた
ラミアは1人ずつトドメを刺していった
俺はまともに動かない体を必死で動かして逃げようとしていた
そんな俺を見てラミアは言った
「随分綺麗な顔をしておるのぉ
……お主を殺すのはなんだか忍びない
だが、そのまま帰すのも妾の性に合わぬ
ふふふっ、お主には魅了の力を授けよう
その力でニンゲンを破滅に導くといい」
次に目が覚めた時、後続のパーティに助けられていた
だが、礼を言うと様子がおかしい
その中の1人が襲いかかって来たのだ性的な意味で
そこからは思い出したくない
とにかく必死で逃げたことだけは覚えている
あの後続のパーティの中に貴族の御曹司がいたらしく救助されたのに暴力を振るったとかで
法外な慰謝料を請求された
そんな金、俺にはなく俺は自分の身を売るしかなくなった……借金奴隷になったのだ
それからも俺と目を合わすと様々な奴が言い寄って来た
俺を買い取ったのはキキルという陽蘭亭の店主だった
「キミ、厄介な呪いがかけられているねぇ」
「呪い?」
「アラ?気づいていないのかい?
キミは魅了の呪いがかけられているのさ
そしてえ、魅了した者を破滅へと追い込む
うん、決めた!君には客を呼び込む撒き餌になってもらおう」
こうして陽蘭亭に身を置くことになった
陽蘭亭ではヒラヒラした服を着せられ、客の前に立つ
客は最初俺を指名するが、店主から俺の値段を聞かされると仕方なく別の奴隷を買っていく
そんな日々が過ぎていく中
その女は現れた
顔も見えないほどフードを被った怪しげな女
その女も最初俺を指名してきた
俺はまたかと内心呆れながら相手をすると女は店主に文句を言いはじめた
正直にいうと、こんな奴に魅了の力が効かないとは思っていなかったので驚いた
丁度その頃しつこく俺を指名する客の中にどうも生理的に受け付けない
ガマガエルがいたこともあり女に買われることを望んだ
これぐらいの女ならどうにかなる
そんな考えがあった
女は俺に食事を与えた
そして宿を1部屋だけとった
こいつも性的なご奉仕とやらを求めているのかと思い口付けようとすれば従属魔法を発動された
そこで知った女の呪いに呆れたものの、それだけで済むのならそれに越した事はない
女は俺に名を与えた
正確には名前を取り戻させてくれた
女を抱きしめて眠る
女の体は思っていたより小さいものだった
「師匠?……違う」
時折、涙を流しながら眠る女をなんだか落ち着かない気持ちで見ていた
女は俺に剣を与え、自由にできる時間を与えた
俺は与えられた金額の半分の値段で剣を買うと残りを懐に仕舞い込んだ
俺自身を買い戻す為に必要なことなんだ
こんな大金、渡す方が悪い……そう自分に言い聞かせて
女は俺を冒険者ギルドへ連れて行った
冒険者ギルドに入る前に顔を隠している
そういえば陽蘭亭でも顔を隠していた……隠さないといけない事情でもあるのか?
冒険者ギルドで起きた一件については思い出したくない
あの一件で手に入れた『サクラ教の宣教師』は人に女の魅力を伝わりやすくするという効果があった
これ……なんの意味があるんだ?
俺は女の申し込んだギルドの講習に出かけた
昼食代と渡された金はまた懐に入れていた
腹は減るが背には変えられない
そんな中、アイザックという奴隷と戦うことになった
女は俺には言わなかったがレベルが違いすぎることは俺にも分かった
次のご主人様はあの縦ロールのお嬢様かよ
俺の魅了に当てられていることから破滅へと向かうのが分かっているのに仕えるのは
気乗りしなかったが
女は不敵に笑ってみせた
俺は女に賭けてみることにした
賭けは女の勝ちだった
女は新しい奴隷を手に入れた
新しい奴隷は俺の剣の師となった
新しい奴隷が来たからには俺はお役御免かとも思ったが
女は俺を選んだ
相変わらず眠りながら泣く……涙をを拭ってやると安心してまた眠る
妹がいたらこんな感じだったのかなとも思わなくもない
次の日、女は魔の森に行くと言った
ふざけるなと思った
主人が死ねば契約を解除しない限り奴隷も死ぬのだ
それを分かっているならあんな無茶なことは言えないと思っていたのだが
女をゴブリンメイジが攻撃した時、体が咄嗟に動いていた
かばわなくていいと言ったのにと言った女には頭にきたが
その後、ゴブリンの攻撃がすり抜けているのを見ると確かに……とも思った
女の家に案内されて驚いたのは女にも家があったのだということだった
あちこちから薬の匂いが漂う
でも、清潔感のあるいい匂いだ
風呂場で触手に襲われた時は焦ったが
女が来たことでなんとかなった
あの時、女が気まずそうに目を逸らしていたのが印象にのこった
あの女にもそんな感性があったのか……
ティルトという妖精が女をミコと呼んで怒らせた
アイザックは女のことが気になるようだが
俺は正直どうでもいい
女が俺の主人で俺は女の奴隷であることは変わらないのだからそれでいい
女以外の奴隷に今更なれるかと言われるとそれは無理だと答えるだろう
女はその夜、俺を呼ばなかった
温もりが側にないのはなんとなく落ち着かなかった
次の日、女はフラフラしていた
アイザックが声をかけるが聞こえていないようだった
……女には元気でいてもらわないと困る……あれは主人だ
……本当にそれだけか?という声には蓋をする
夜、女の部屋に忍び込んで押し倒した
以前とは違い簡単に押し倒せた
女は目を見開いていた
その様子に充足感を得る
それでいい……その目で俺を見ていろ
何故かアイザックも部屋に来ていたようで3人で眠ることになった
……狭い
だが、主人は満足そうだった
その日は涙を流さずに寝ていた
朝起きるとティルトを助けるという
主人が助けると決めたなら俺は従うだけだ
主人から許可が下りたので魅了の力を使い情報を集めていく
……以前の俺だったなら絶対しなかったであろうことを今している
あのガマガエルの家にいることが分かると
主人の命令もなく魅了の力を使った
相変わらずのガマガエルは生理的に受け付けない
手を撫でられた時は思わず払いのけそうになったが
ティルトとやらに何かあったら主人は泣くんだろうなと思うとイラっとしたので耐えた
ティルトが無事に主人と奴隷契約を結んだ後、
主人がよろめいた
俺は手を差し伸べて支える
「ありがとうセレス、今回はセレスに助けられたね。何か欲しいものはある?」
……………………
金、自由、酒、色々なものが駆け巡ったが
「剣をご主人様をもっと守れるように」
今度は半額なんかじゃなくちゃんとした剣を買おうと思った
なんで、そう思ったかなんて今はどうでもいい
ただ、この状況をそんなに悲観していない自分を楽しんでいた




