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六芒星の襲撃  作者: 真言☆☆☆
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悪魔のささやき

「腹が減っては 戦が できぬ。」

 何時の間にか、昼過ぎになっていた。

 移香斎は、自然薯を掘りだして、丸かじりしていた。

 移香斎とて人の子、腹も空くし、疲れもする。

 栄養が体に染み渡る思いであった。

『 栗は生では食えぬので、拾って、鶴姫への土産としよう。

  木の実は、森の小鳥たちの物だから、止めておこう。

  ちと、喉が渇いたのう。川へ水を飲みに行くとしよう。』

 腹が満たされた移香斎は、川へ向かうことにした。


 移香斎が川で洗濯じゃなくて、洗顔して水を飲んでいると、

人の気配を感じた。

 川の真ん中ほどの岩に、美しき人魚と見間違うほどの

妖艶な美女が座っていたのである。

 腰まで伸びた漆黒の黒髪、透き通るように白い肌と

薔薇のように赤く濡れた唇、そして妖しく光る瞳。

 今の世で言うスクール水着に似た藍色の衣装を着ていた。

 そのギャップに、並みの男なら一目で魂を抜かれる。

 太ももから下を見せないところが、これまた憎い。


「 移香斎様、お初にお目にかかりまする。

  この水蓮がお相手します。」

 歌うような声が、また一段と素晴らしい。

 鵜戸明神に聞いたことのある南蛮の海の精霊、

ギリシャ神話に登場する悪魔の歌声のセイレンを思わせた。


「 仕方がないのう。相手してやるとするか。

  それで、どう勝負してくれるのかな。

  関係のない者の巻き添えは、ご免こうむる。」

 移香斎は、まったく色気に惑わされることなく、

お前なんか、まともに戦えるのかって言う顔で、

冷たく言い放った。

「 お優しいのですね。それでは、私とサシで水中戦は、

 いかがでしょうか。もっとも、その勇気があればの

 話ですけど。」

 すげない態度の移香斎に少し驚きながらも、

水蓮も挑発した。

「承知いたした。」

 移香斎は、着物を脱ぎ、フンドシ姿になった。

 一見やせて見える極限まで鍛え上げた体、

余計なぜい肉はなく、鋼のよう丈夫でありながら、

しなやかで柔軟な筋肉に覆われていた。

 移香斎は、着物の上に大小の刀を置いた。

 忍び相手に武器を手放すとは、大胆不敵であった。


「いざ!」

「 では。」

 二人は、同時に川に潜った。

 果たして水蓮は、人魚のように泳ぎが達者であった。

 移香斎の周りをユラユラと鯉の如く、華麗に泳ぎ回った。

 攻撃の気が全く読めない。

 かと言って、こちらから仕掛けると、ヒラヒラとかわす。

足には、何やら板製の大きなカエルの足のようなものを

はめている。

『 大口を叩くだけのことはある。

  このままでは、息が続かぬな。 』

 感心しながらも、一度息継ぎに行こうと考えたその瞬間、

水連はスルスルと鰻のようにからんできた。

「 うつ・・・」

 水蓮は、長い両足を肩車のような態勢で、

移香斎の首を強烈な力で締め付けてきたのであった。

 並みの剣術家なら、一瞬で首の骨を砕かれていたであろう。

「ごぼっ。」

 外しようがないほどの恐ろしい力であった。

 思わず、一呼吸分、肺の臓の空気を出してしまった。

 移香斎とて熊野水軍の申し子、海での泳ぎと潜水には

自信があった。

 甲冑立ち泳ぎ、水剣、水書、西瓜切りなど水術の

たしなみもあったが、どうもこの忍び相手には勝手が違う。

「 移香斎様。このまま、絞め殺されたいですか、

  それとも、素直に負けを認め、私の下僕になりますか。」

 水中での忍びの特殊な発声法で囁いてきた。


『 こやつ、悪魔か。』

 移香斎は、覚悟を決めた。

 まだ、反撃する力があるうちに、右手の人差し指に

気を集中させた。

ハアアア~

「破!」

 右手の人差し指を、水蓮の肛門に突き入れた。


「ぎゃあ~!」

 水蓮は、肺の臓の空気を全部吐き出してしまい、

苦悶に満ちた表情で、水面に上がって行った。

 断崖絶壁を素手で登り、畳一枚なら手刀で突き破ることが

できる移香斎のこの攻撃を喰らったら、ひとたまりもない。


「 そこは、あかんやろ~! 卑怯者。

  おまえ、それでも、侍か。」

 水中に顔を出して、空気とはこんなにも旨い物だとは

知らなんだと、感激している移香斎に、水蓮はメデューサの如く、

怒りの言葉を吐いた。


「 忍び相手の戦いに、卑怯もクソもあるまい。

  これでも、攻める急所を考慮してやったのだぞ。

  私なら、金的をつぶされても、己の未熟を恥じるだけで、

 敵に文句は言わないな。」

 平然と涼しい顔をしてのたまう移香斎に、

水蓮は怒りを爆発させた。

「 ぬかしたな。その言葉を忘れるなよ。

  ええい、仕切り直しじゃ。かかって来い。」

「 承知。」

 

 二人は、再び、川に潜った。

 怒りに燃える水蓮は、移香斎の金的目掛けて、

鯱の如く、執拗に攻撃してくる。

 それこそ、移香斎の思う壺であった。

 突っ込んでくるのをかわしながら、水蓮の後ろ頭の上に

馬乗りになり、両足で渾身の力で締め付け、

なおかつ水蓮の両手を胴体ごとで羽交い絞めして

体の自由を奪い、そのまま川底に激突させた。

ズシ~ン

 今の世で言うプロレスの必殺技の脳天杭打ち、

パイル・ドライバーであろうか。

 いくら水中だとて、二人分の体重をかけられては

たまったものではない。

 水蓮は、あえなく気絶した。

 これが、地上の堅い地面であれば文字通り、必殺である。


 水蓮の体を脇に抱えて川から上がった移香斎は、

水蓮を川原に座らせた。

 水蓮の肩を両手で支え、背中の肩甲骨あたりに

右膝を当てて、活を入れた。

「ウツ」

 水蓮は意識を取り戻した。

 あたりをキョロキョロと見廻し、移香斎の姿を認めると

合点した。


「 移香斎様、私の負けでございます。

  さあ、お斬りなさい。覚悟はできておりまする。」

 水蓮は、素直に負けを認めた。

「 女を斬る刀は、持っておらぬ。

  それにじゃ・・・」

「それに、何ですか。」

 途中で言葉を止めた移香斎に、水蓮はいぶかった。


「 女を殺すのは、布団の上と決めておるでな。

  機会があれば、勝負いたそう。」

 水蓮からしてみれば、移香斎の方が、

よっぽど悪魔であった。

 首のうずきよりも、何やら下半身の方のうずきが、

気になる。

 水蓮は、はにかみながら、移香斎を見送った。


「 あと、一人。」

 今までの敵を振り返り、最後の敵は、どのような

奇怪な技を使うのか、とても楽しみな移香斎であった。


 空には、魚のような形をした雲がたくさん流れていた。




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