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楽しいことと、面倒なこと。

 この日、久しぶりに散歩に出た。引きこもりというわけでもなく、自転車で学校にバイトにと出かけていたが、自分の住んでいる場所を散策するのは久しぶりだった。

 特にあてもなく歩き、川沿いの堤防へと出た。

 そして見たものは、

「これはひどい……」

 洪水で流されてきた漂着物、そして、花火の燃えかす。

 漂着物については仕方がないと思う。燃えかすも、片付けろとは思うが、片付ける気になれない。なにより、俺はビニール袋を持っていない。取りに行くのも面倒くさい。

 そのままその脇を通り過ぎようと思ったが、ふとあるものが目に付く。

 『燃えかす入れ』と書かれたビニール袋だった。

「……」

 俺は無言でそれを手に取り、広げる。

 スーパーでもらう、中くらいのビニール袋だった。

 俺はそのまま、手近にあった燃えかすを袋に放り込む。

 自然と口からため息がこぼれた。

 こうなってしまった自分は、もはや自分でも止められない。

 そうして、ゴミを集めだして5分ほど。

 何本も一気に着火させた跡や、草を燃やしたような跡、まだ着火すらしていないロケット花火など、くだらない遊びをした後を俺は延々と片付け続ける。

 そうしたら、その燃えかす入れなるゴミ袋がいっぱいになった。

「さて、こんなところか……?」

 そう言って、後ろを振り返ると、

「……んなわけないか」

 言うまでもなく、未だに大量に残った花火の燃えかす。

 幸せがいくつ逃げたかもわからないほどに大きくため息をついた俺は、花火自体を入れていたであろう厚手のビニール袋に噴出型の大型花火を入れ、踏み潰し、そんな作業を繰り返すうち、周りは少し前と見違える程に綺麗になっていた。

「こんどこそ、これで良し、っと」

 そう言って、2つのビニール袋を持ち上げる。

 さほど重くはないが、持つのが億劫にはなった。

 花火の燃えかすを入れた袋を持って、俺は一度来た道をもどる。

 その間に、一人で考えていた。

 『なんで、こんなふうにゴミを捨てるのか、理解できない』なんて言うつもりはない。俺だって、理解できる。

 ただ、面倒なだけ。誰かがやってくれるだろうと、そう信じておいていく。あるいは、もともとゴミはそうするものだと教えられた。

 様々だろうが、大多数が面倒なだけだろう。

 自分だってそうだ。楽しいことのあとに辛いことが来るのは嫌だ。そんなことは避けたい。当然のことなんだろう。

 人っていうのは、そんな生き物だろう。

 面倒に思うこと、嫌なこと。そんなことから逃げ出したいんだろう。

 でも、

「迷惑する人だって、いるんだよな」

 自分みたいに。

「それに結局、誰かがやらなきゃいけないんだよな」

 自分か、あるいは自然か。

 こんなふうにゴミを放置して帰った人たちの楽しいという感情は、僕にとっては恨めしい。

 ただの自己満足とは言え、こんなふうに片付けをするのは、面倒だ。

 俺だって、このまま歩いてスルー出来たらとも思う。でも、結局はやってしまった。

 楽しいことだけをして、そしてそのまま帰っていく。

 それは、とても楽しく思えるだろう。今のあいだは。

 けれど、そんな生活を続けていたら危ないと、警告してやりたい。自分のようになると言いたい。

 何も選べないような。誰かから蔑まれるような。そんな風になると言いたい。

「ま、どこの誰かもわからないんだけどな」

 そんな風に、周りから見たらどう考えても不自然な独り言も、誰もであるかないような過疎した田舎じゃ、誰も聞く人はいない。

 そのまま、家について、親に事の経緯を説明して、荷物を引き取ってもらった。

 そして、また行って帰って来た道を戻る。

 今度は、ちゃんと散歩に行くために。

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