夢からの目覚め
暖かいコーヒーとほろ苦いチョコレート。ふわふわのパンケーキ。どうやら、この喫茶店は整えられた白髪が特徴的な長身のイケているおじいさんマスターの1人だけでまわっているようだ。
「近頃は特に冷え込んできましたね。風邪を引かないよう気を付けてください。特にここは立て付けが悪いもので...」とマスターは言って、ワインレッドのブランケットを持ってきてくれた。ふわふわで暖かい。あぁ、ここはゆうみも連れてきたいな....
そう思った時、チャイムの音で目が覚めた。
こういった目覚めの時に決まって、「世界よ、滅んでしまえ!」と私は本気で思う。
「ピンポーン」
2回目のチャイム。鬱陶しいぞ。
宅配なら置き配でもしておいてくれ....と思いながら、私は重い足を引き摺って玄関の子窓を覗いた。
そこには全身紫色で数珠のようなものを身に付け何やら分厚い資料をカバンから取り出すおばさんの様子が目に入った。
あぁ。そういうことかと思った。私は興味本位でドアを開けた。「なんでしょう?」
おばさんは、私の顔を見るなり「貴方、凄く辛い思いしているんじゃない?」と言ってきた。
失礼にも程があるだろう。
「まぁ、それなりには。」
「ごめんなさいね。ここから見えるだけだけど、明かりもついてない荒れた部屋に、生臭い玄関、そしてまだ到底大人でもない貴方一人で休日の昼間のチャイムに出るなんて。服もこんなに汚れて。ご両親は?」
「あぁ、帰ってきてないんですよ。」
「...流石におばさんも心配になるわよ。一人で寂しいんじゃない?」
「まぁ、慣れましたけどね。」
「私ね、貴方には、神様が必要だと私は思うの。」
「はぁ。神様。」
「信じる気ないって顔ね。分かるわよ。でもね、どうしようもない時、人は神様に縋っていきてゆくのよ。そして、お力をお借りして、少しでも幸せに近づくのよ。私にはね、○○様という神様が居てね」
「あぁ、大丈夫です。よく分かりました。」
「あぁ、違うのよ。勧誘じゃなくて。貴方にとっての神様、本当の神様じゃなくてもいいの。信じられるもの。自分を否定しないで、裏切らずに見守ってくれる存在。それを貴方に見つけて欲しいなって、私思ったの。それだけよ。」
「私にとっての神様。」
「そうよ。きっと探せばできるはず。その神様は実在してるかしてないかなんて関係ない。居なかったら貴方が作ってもいいと思うわ。私には、これくらいしか出来ないけど、貴方が少しでも幸せになることを願っているわ。」
「そう...ですか。ありがとうございます。...では。」
「えぇ。頼れる人は頼りなさいね。」
終わった。宗教勧誘、というか、途中からただ哀れまれただけだったな。
私にとっての神様。ね。ユメちゃんかな。実在はしないけど。
そしてその信者が私とゆうみ。
だから、宗教みたいなものなんだよね。既に。
ユメちゃんは、絶対に誰のことも否定しない。みんなを優しく包み込んで、いつも見守ってくれている。まさに、私にとっての神様なのだ。
ユメちゃんの配信が私の孤独を癒してくれる。
などと考えつつテーブルに置かれた茶封筒を開ける。その中には3千円。私の1ヶ月分の価値。
私の1ヶ月の命って3千円なんだな。と思いながら、それを財布に仕舞う。今日は6月25日、土曜日。父が居なくなって、5年。母が帰って来なくなって、3年経った。孤独に慣れるには十分な時間だった。
最近は、ユメちゃんがいるし、ゆうみがいるから、あんまり孤独って感じないけど。
今日はどうしよう。ゆうみがそろそろうちに来るはずだから、ちょっとは片付けないとだね。
おばさんにも生臭いって言われちゃったしな...。
ちょっとは片付いた気がする。
そう思い、私はドロドロのゴミ袋をベランダに放り投げる。
ゴミの捨て方なんて習っていないから、このまま。良くないのは知っている。




