4 二回目と二度目ー1
「……ぐわちぃ」
母親の実家にやって来て2日目の昼。汗が流れる顔を団扇で扇ぐ。
上はTシャツに下は短パン。身を隠すのに最低限の服装だけで畳の上に寝転がっていた。
「誰かぁ、アイス…」
首だけ動かして声を発する。周りにいる家族や親戚に冷たい食べ物を要求する為に。
「冷凍庫にいちご氷が入ってるよ」
「おぉ、マジか!」
「昨日買い物に行った時にたくさん買ってきたからね」
「なら1個頼む」
「……自分で取ってきなよぉ。私、忙しいんだからさ」
期待を込めて待っているとすぐ近くに座っていた従姉が反応。彼女はテーブルの上のワークに向かって必死にペンを動かしていた。
「お前、ふざけんなっ! 俺が脱水症状で死んでも良いって言うのか!」
「え~、でもさっきジュースがぶ飲みしてたじゃん」
「あれは水分補給。今したいのは体の冷却。一刻も早くアイスを食べないと倒れちゃう」
「冷たい物ばっかり食べてるとお腹壊しちゃうよ? あとゴロゴロしてたら体にも悪いし」
「おいおい、オカンか」
まるで母親のような態度を振り撒いてくる。同い年とは思えない真面目で遊び心の無い思考を。
「ならお前、代わりに取ってきて」
「いやん、エッチ」
仕方ないので足を動かして近くに寝転がって人物を攻撃。自分同様にダレていた妹の方の脇腹を突っついた。
「冷凍庫からいちご氷1つ。大至急な」
「やだ、私も動きたくない。でもかき氷は食べたいから祐人が2つ取ってきて」
「お前、まだ若いだろうが。若者は年寄りを労らないといけないんだぞ!」
「なら男は女に優しくしないといけないんだよ」
「屁理屈こねてないで早く行ってこいや。暑すぎて意識がヤバいんだっての」
お願いする相手をチェンジする。体には力を入れずに口と足だけを動かして。
「ほら、早く」
「ちょっ……くすぐったいってば」
「あと10秒以内に取ってこい。じゃないと腹にかかと落とし決めるからな」
「やめてって。ならジャンケンで決めよ? それなら公平だし」
「……ったく、しょうがねぇな」
議論中に平凡な打開策が登場。面倒だったがこのまま争いを続けても無駄に体力を消費するだけ。覚悟を決めて勝負を受ける事にした。
「ジャンケン…」
「ホイッ!」
互いに寝たままの状態で手を出し合う。開いた状態の自分に対し、対戦相手は2本の指を立てて。
「いぇ~い、私の勝ちぃ」
「くそっ! 負けかよ」
勝てば楽が出来ると考えていたが結果は敗北。重い腰を上げて台所に向かった。
「ほらよ」
「ぎゃっ!?」
透明な袋を2つ持って引き返してくる。そのうちの片方を寝ている従妹の顔へと落とした。
「葵はいらなかったの?」
「うん。私、まだ宿題終わらせてないし」
「夏休みだっていうのに里帰り先にまで来て勉強に取り組むとか……人生を楽しんでないなぁ」
机の上に置かれた問題集を横から覗き見する。頭が痛くなりそうな計算式が書かれたページを。
「普段は部活もあるからね。だからこういうお盆休みの時に少しでも進めておかないと」
「融通の利かないやっちゃなぁ。夏休みさんが泣いて悲しんでるぞ」
「ゆうちゃんは宿題やらなくて良いの? 昨日までアルバイトで忙しかったんでしょ?」
「え? うちのクラス、宿題とか出されてないけど」
バリバリと豪快な音を立てて氷を破壊。口全体に甘い香りが浸透していった。
「え~、そんなハズないよぉ。だって愛莉ちゃんはあるって言ってたし」
「じゃあ愛莉だけ特別に出されたんだな。普段、真面目にやってる奴は免除される仕組みに違いない」
「なら愛莉ちゃんが出されてゆうちゃんが出されないハズないよね。逆なら私も納得するけども」
「実は持って来るの忘れたんや」
「はぁ……やっぱり」
バッグに詰めてきたのは着替えとトランプ等の玩具だけ。宿題の存在が頭の中から綺麗サッパリ取り払われていた。
「ちゃんとやってる? また去年みたいにやり忘れてたなんて事ない?」
「実は1つも手をつけてない」
「えぇーーっ!? だってもう夏休み半分終わってるんだよ?」
「だが俺の人生はまだまだこれからだ!」
「そんな調子でどうするのさ。残りの時間で間に合うわけ?」
「そだな。裏技を使えば達成出来なくもないかな」
頭の中に1つの作戦を思い浮かべる。誰かの物を丸写しさせてもらう定番のズルを。
「すみれちゃんも宿題持ってきてないっていうし。私だけが1人で勉強かぁ」
「え? お前も忘れたのか?」
横にいる従妹に声をかけた。器用に寝そべったまま袋に噛み付いている中学生に。
「うん。まぁ忘れたっていうか持ってこなかった」
「どうして?」
「だって面倒くさいし。それに夏休み終わる前に奈津紀ちゃんと分からない所を見せ合う約束してるから」
「ふむ。もしかしてその時に全部コピーするとか?」
「ほほほ、その通りでございます」
「なんだ。俺と一緒か」
やはり同じ血が通っているだけあって発想が似ている。いつもは憎まれ口ばかり叩き合っているが珍しく意見が合致した。




