3 迷い人と救い人ー3
「あっ!」
のんびりとコンビニへの道のりを移動中、ある事に気付く。小さなミスに。
「着替え持ってたじゃん…」
サイズぴったりの衣類を持参済み。不必要な貸し借りを行ってしまっていた。
「ま、いっか」
かといって今更引き返すのも面倒でしかない。人の親切心はありがたく受け取っておこう。これ以上体力を減らしたくないので心の中で都合の良い言い訳を繰り返した。
「お~い、祐人~」
「お?」
しばらくすると頻繁に見かけるコンビニチェーン店に到着する。自動ドアから中に入ろうとしたタイミングで1台の車が駐車場に入ってきた。
「こっちだ、助けてくれーーっ!」
窓から身を乗り出しているツインテールの女の子を発見する。生意気な性格の従妹を。
クラクションを慣らした乗用車はコンビニの入口付近で停車。運転していたのは葵達の父親で、娘のすみれと2人で迎えに来てくれたようだった。
「ふ~、助かったぁ」
「はっはっはっ! お母さんから聞いたが途中で迷子になったんだってな」
「そうなんだよ。電車に乗り間違えるわ、スマホのバッテリーは切れるわで散々な目に遭ったわ」
「この辺りは家と家との間隔が広いからな。駅にも人がいない事があるし」
「このままさまよい続けて辿り着けないんじゃないかと覚悟したね。やっぱり皆と一緒に車で行けば良かったよ」
店内でアイスやら飲料水を購入。会計を済ませた後は3人で白い乗用車に乗り込んだ。
「ねぇ、祐人。髪の毛濡れてない?」
「え? あぁ、これか。マラソンして汗かきまくったんだよ」
「本当に? 女の子に痴漢して川に突き落とされたとかじゃなくて?」
「……お前、超能力者かよ。とりあえず拭かせてくれ。顔に引っ付いて気持ち悪いや」
「ギャーーッ!! やめろし!」
「ぶふっ!?」
隣に座っていた従妹にもたれかかる。シャツをタオル代わりに使おうとしたがシートに押さえつけられてしまった。
「ゲホッ、ゲホッ……皆は家で何やってるの?」
「家の片付け。押し入れを整理して布団を出したり」
「そっか、今日から大人数で寝泊まりするんだもんな。ちなみに布団って俺の分のもあるよね?」
「さぁ? 祐人が今日来るって私も皆も思ってなかったから忘れられてるかも」
「おいおい、メールでちゃんと行くって伝えたじゃんよ…」
今から向かう家には祖母とその娘夫婦が3人で暮らしている。母親やおじさんの妹に当たる人が。
祖父は7年前に他界。それからは妹夫婦が親の世話をするという形で実家暮らしを継続。といっても祖母は元気な人物なので身の周りの家事は全て自分で行っていた。
「祐人はお婆ちゃんに会うの久しぶりか?」
「そだね。中学生の時以来かな」
「親戚といってもなかなか対面する機会は無い。何か特別な用事でもない限り、顔を拝む事はないだろう」
「うん。1回も会った事ない人もいるからなぁ」
懐かしさを感じる風景を見ながら会話を弾ませる。かなりの年月が経過しているハズなのに変化がほとんど無い街並みを。
「おし、着いたぞ」
「おぉ…」
10分ほど走って目的地に到着。ドアのロックが解除されたのを確認して庭へと飛び出した。
目の前に広がるのは昔ながらの木造家屋。ボロボロの瓦に、ヒビをガムテープで補修した窓。記憶の片隅で眠っていた一軒家がすぐ目の前に現れた。
「あっ、ゆうちゃん」
「お?」
感動を咀嚼していると名前を呼ばれる。トロくさい声に。
「もう着いたんだ。早かったね」
「お前……葵か?」
「え? そうだけど」
「お、おう。久しぶり」
「はい?」
彼女は腕や太ももを大きく露出。夏らしい快適な服装だった。
「そうか。そうだよな…」
「ん?」
「俺達、もうあの頃とは違うんだよな」
「ゆうちゃん、さっきから何言ってるの?」
「ははっ、しばらく見ないうちにこんなに大きくなりやがって…」
「あれ? けど私達、先週会ったばかりだよね?」
「うん」
久しぶりに再会する親戚ごっこを開始する。だが相手のノリが悪すぎた為に即座に中断した。
「つまんねー奴」
ポケットに手を突っ込んで歩き出す。従姉の横を通過する形で。
「祐人~、荷物」
「おっと、悪い悪い。忘れてたわ」
文句を垂れていると背後から妹の方が接近。その後ろではおじさんが乗用車をバックで駐車場に入れていた。
「ほい」
「サンキュー」
「案外軽いね。ゲーム機は持ってきてくれたの?」
「あんな重たい物こんな所まで持ってくるか、バカ」
「ちぇっ……残念」
バッグを肩にかけて家の方に移動する。年末でもないのに大掃除が行われている空間に。
普段は面倒くさがり屋の父親も参加中。雑巾で窓ガラスを拭いていた。
祖母や親戚夫婦との久しぶりの再会も僅か数秒で終了する。すぐに畑に駆り出され、干してある布団を叩かされる事になった。
「あっつ…」
全身が汗だく。着替えたばかりのシャツがもうビショ濡れ。
「へへっ…」
ただ不思議と気分は悪くない。バイトで客を相手にする労働とは違って心地良かった。
「……ふぅ」
タオルで額を拭いながら頭上を見上げる。鮮やかな茜色が印象的な夕焼け空を。
「綺麗だなぁ…」
夏独特の立体的な雲が多数存在。上に乗れてしまうのではと思えてくる大きさだった。
こういう雰囲気は嫌いじゃない。知的好奇心をくすぐられるから。
「ひひひ…」
何かが始まりそうな予感が満ち溢れてくる。ワクワクする気持ちを原動力に手伝いを続行した。




