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雨上がりの空へ  作者: トランクス
2nd STORY
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3 迷い人と救い人ー2

「お姉さん、学生?」


「そだよ。高2」


「あ、なら同い年か」


「ん? 同級生?」


「えっと、どうだろう…」


 気まずい質問を笑ってごまかす。入道雲が広がる空を見渡しながら。


「川に落ちた時さ、何か落とさなかった?」


「いや、特には」


「財布も?」


「たまたまバッグの中に入れてたから大丈夫。直前にチェーンが壊れちゃったんだよね」


「へぇ、ならラッキーボーイだ」


「ふへへへへ…」


 お世辞にも運が良かったとは言えない。そもそも本当にツイているなら転落自体が起きてはいなかった。


「あっつ…」


 それから当たり障りのない日常会話を繰り広げながら進む。写真を撮りたくなる綺麗な街並みを。


「ね、ねぇ…」


「ほい?」


「君の自宅、いつ着くの?」


「ん?」


「もうかれこれ20分近く歩いてる気がするんだけど」


 事前に聞いていた話では近所と言っていたハズなのに。歩けども歩けども一向に目的地に到着する気配を見せなかった。


「もう少ししたら着くよ。あと半分ぐらいだね」


「半分!? これで!?」


「え? もしかしてマズい事でもあった?」


「……だ、大丈夫です」


 どうやら感覚の違いらしい。田舎と都会の差をひしひしと痛感。


「はぁ…」


 これならバッテリーを買っていた方がマシだったかもしれない。しかし彼女の自宅でこれならコンビニに向かっていたとしても同じぐらい歩く羽目になっていたのだろう。観念して足を動かした。


「お?」


 再び弱音を吐き出そうとすると先導者が立ち止まる。小さな二階建てのアパートの前で。


「ここ、ここ~」


「やっとゴールか…」


 妙な達成感が発生。マラソンを完走した気分だった。


「つきたて…」


 階段を上がった所で玄関の隣に書かれた文字に注目する。名字と思われる月舘(つきたて)という漢字に。


「ほい、どうぞ」


「お邪魔しま~す」


 住人の後に続いて開いた扉の中へと進入。不快な蒸し暑さで溢れる空間に突入した。


「ちょっと待ってて。今、タオル持ってくるから」


「あ、うん」


 サンダルを脱いだ女の子が奥へと駆けて行く。無警戒な態度で。


「本当に家の人いないみたいだな…」


 閉められているカーテンを見て留守だと確信。冷房もついていないので誰かがいる可能性は少なかった。


「はい、これ使って」


「サンキュー」


「バスルームはそこだから。中で着替えると良いよ」


「承知。じゃあ脱衣所ちょっくら借りるわ」


「ほ~い」


 しばらくすると彼女が戻ってくる。黄色い生地のタオルを持参しながら。


「着替えも持ってくるから。ちょっと待っててね~」


「サンキュー」


 見知らぬ人間相手なのにどこまでも優しい。一片の猜疑心も持っていなかった。


「んしょっ……と」


 風呂場に入ると手をかけて脱ぎ始める。水分を含んで肌に密着してしまっているシャツを。


「持ってきたよ……って、ごめん。上脱いじゃってたか」


「いやん、エッチ」


「サイズ合わないかもだけど我慢してね。男性用はその大きさのしか無いからさ」


「平気平気。これなら余裕で着れるわ」


 開いたドアの隙間から女の子が登場。無地のTシャツとトランクス、更に短パンを受け取った。恐らく彼女の父親か兄弟の物なのだろう。感謝の気持ちに溢れながらも着替えさせてもらった。


「あれ? もう上がったの?」


「いやぁ、助かったよ」


「せっかくだからシャワーも浴びてくれば良かったのに」


「なるほど。一緒に入る?」


「やだ、もう~」


 脱いだ衣類が入ったスーパーの袋をバッグに突っ込む。さすがに洗濯までしてもらう訳にはいかないので。


 奥の部屋へとやって来るとバラエティー番組が映し出されているテレビを発見。冷房も効いているので快適な空間になっていた。


「ごめんね。うちのバスルーム狭くて」


「大丈夫、着替え貸してくれただけで大助かり。それよかコンセント借りていいかな?」


「あ、スマホ充電するんだったね。ここ使っていいよ」


「何から何まで助かります」


 ヘコヘコと頭を下げて床に座り込む。端末にコードを差しながら。


「よっと」


 ライトが点灯した事で正常に作動している事を確認。そのまま電源も入れた。


「出るかな…」


 スマホを耳元に当てる。家族の連絡先を呼び出して。


「あっ、もしもし。母ちゃん?」


『何?』


「俺だよ俺、オレオレ! 困った事になっちゃってさ。助けてくれよ!」


『はぁ?』


 電話をかけると接続に成功。自身が置かれた現状をありのままに説明した。


「いや、詐欺じゃないって。実の息子だよ、祐人だよ!」


 支離滅裂な口調で母親を説得する。すぐ側から聞こえてくる女の子の笑い声を耳に入れながら。


 不毛なやり取りを幾度か展開した後、どうにかして要件を伝える事に成功。近くのコンビニを待ち合わせ場所に定めた。


「ふぅ……まったく回りくどい説明させやがって」


「終わった?」


「一応は。今から車でこっち来てくれる事になった」


「そっか、良かったじゃん。これで迷子から脱出だね」


「どうかな……無事に合流出来るまでは油断出来ないや」


 彼女からコンビニの行き方を教えてもらう。今度こそここから歩いてすぐの場所との事。


「じゃあ行くわ。着替えサンキューね」


「え? もう行くの?」


「まぁ。向こうもすぐこっちに着くらしいし」


「せめて充電ぐらい終わらせていけば良いのに。都会の人はせっかちだなぁ」


「いや、さすがにそこまで図々しくは出来ないよ」


 忘れ物が無いかを確認。コンセントから充電器を外した後はバッグを肩にかけて玄関へと向かった。


「いろいろお世話になりました」


「気を付けてね。外はまだまだ暑いから倒れないように注意するべし」


「うん、なるべく日陰を歩くようにするよ」


「久しぶりの里帰り楽しんでね~」


「どもども」


 濡れたサンダルに足を通す。小さく手を振る女の子に見送られながらアパートを後にした。


「良い子だったなぁ…」


 思いも寄らない出来事に遭遇。まさか見知らぬ人物の自宅に招かれるなんて。人の温かさが身に染みてきた。

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