1 休息と労働ー1
「いぇえぇーーい!」
教室内で多くの生徒達が騒ぐ。異常な程のテンションで。
何かトラブルが起きたわけでも、担任が怒鳴り散らしているわけでもない。皆がザワついているのは訪れたその喜びを分かち合っているからだった。
「やったぜ。これで寝坊や遅刻に悩まされずに済むぞ!」
本日は一学期の終わり。夏休み直前の最後の登校日。終業式を終えた教室内は外の暑さに負けない熱気に包まれていた。
「くぅ~…」
明日からは早起きしなくていい。慌てて着替えたり、母親に叱られる事も。何の制約もない生活の到来だった。
「おい。夏休みだぜ、夏休み」
「あ、うん」
「やったな。明日からは学校来なくて良いんだぞ」
「……水瀬くん、凄く嬉しそうだね」
「当たり前じゃんか。だって1ヶ月以上、授業を受けなくて済むんだぜ?」
隣の席の男子生徒と会話を交わす。自由を共感するように。
「でも登校日があるし」
「んなもんサボる」
「えぇ…」
「気付いてなかったとか適当な嘘ついてごまかす。もしくは病気で寝たきりになってたとか」
「そんな事したらまた志田先生に怒られちゃうよ」
「何を今更。普段から嫌味のような説教を受けてるんだから気にならんさ。それよか貴重な連休を潰してしまう事の方が俺にとっては重要だ」
こんな時ぐらいは教師連中と顔を合わせたくない。徹底的に苦手な物から目を背けていたかった。
「でも水瀬くんって補習があった気が…」
「そんなもん知らん」
「受けないとまた進級出来ないかもよ?」
「ならお前が俺の代わりに受けてくれ」
「いや、それは無理だよ」
「ちっ……仕方ないから暇な時に出とくかな」
充実したゲーム生活を送れると考えていたが早くも暗礁に乗り上げる。学校に来なくてはいけない動機が発生してしまった。
「木島は休み中どうすんの?」
「特に何もしないかな。家で普通に過ごすと思うよ」
「夏期講習とかは?」
「僕、勉強好きじゃないから…」
「ふ~ん、なら彼女作ってバラ色の夏休みをエンジョイもしないのか」
「普通に人に話しかけるのも恥ずかしいんだから無理だよ」
他愛ない会話で時間を消費。今しか出来ないクラスメートとの交流を図るように。
3ヶ月前には想像も出来なかった。まさか年下だらけの教室に馴染んでしまっている状況なんて。
「ま、たまには一緒に遊ぼうぜ」
「うん、良いよ」
「台風の日に自然と触れ合うキャンプとかな」
「無謀だってば…」
周りのクラスメート達も同様に雑談で盛り上がっている。遊ぶ約束を取り付けたり、通知表の評価に対する文句をつけていたり。
誰もが幸せそうな表情を浮かべていた。心の底からハシャいでいる事が分かる笑顔を。
「んじゃ、そろそろ退散しますかね」
「バイバイ」
「キャンプな、キャンプ」
「嫌だよ…」
席を立って友人と別れる。1人になった後は教室内を見回しながら歩き出した。
「……楽しそうだな」
数人で固まっている女子生徒の群れに視線を移す。すっかりメガネを外してしまった友人の方へと。
彼女は自然と輪の中に溶け込んでいた。2歳という年齢差を微塵も感じさせずに。
目の前に広がる光景は本人が辛い環境に耐えてきた末の結果なのだろう。その優しい人柄以上に周りに受け入れてもらおうとする努力を認めてもらっていた。
「真面目な性格ねぇ…」
遅刻や居残りを繰り返してるサボリ魔とは大違い。彼女はテストで赤点をとる事もなければ夏休みに補習を受けさせられる事もない。
「はぁ…」
似たような境遇にいたハズなのにいつの間にか優等生と落第生に振り分けられている。人間としての資質を神様に問われた気がして軽くダメージを受けた。




