1 休息と労働ー2
「お~い、祐人」
「ん?」
下駄箱まで歩いてきた所で背後から名前を呼ばれる。名字ではなく下の方で。
「あ~、光太郎じゃん。久しぶり」
「うん、学校で会うのはね。今は1人?」
「まぁな。淋しい夏休み生活の始まりだ」
「そうか。なら話があるから2人きりで静かな場所に行こうぜ」
「やめろよ!」
振り向いた先にいたのは黒縁メガネにツンツンヘアーの男子。小学生時代から付き合いがある友人だった。
「話って何だよ。海にナンパでもしに行くのか?」
「いや、俺で我慢してくれ」
「やめろよ!」
雑談を交えながら下駄箱で一旦別れる。歳は同じだが学年の違いで使用箇所が別々なので。
「祐人って夏休み中の予定ある?」
「い~や、何も。敢えて言うなら補習ぐらいかな」
「マジかよ。なら学校に来たら毎日祐人に会えるわけだな!」
「やめろよ!」
漫才のようなやり取りを展開。彼と会話する時はいつもこんな感じだった。
「んで、話って何?」
「あぁ、えっとバイトしてみない?」
「バイト?」
思わず歩いていた足の動きを止める。振られた話題が予想外すぎて。
「うん。せっかくの長期休暇なんだから暇してるのもったいないじゃん? だから充実したバイト生活を送りたいと思ってさ」
「充実ねぇ…」
「金も貰えるし、社会勉強にもなる。良いアイデアだと思わない?」
「まぁな。けど何か当てはあるのかよ。働き口の候補とか」
「落とし穴を掘るバイトとかどう?」
「う~ん……まかないが出るなら良いかな」
並んでグラウンド脇を移動。校門をくぐると車の往来が激しい外へ出た。
「とりあえずこれからいろいろ探してみる。男2人を雇ってくれそうな店を」
「見つけるなら学生が可の所な。職業や年齢ごまかして働くとか嫌だぞ」
「ホストは?」
「俺達の柄じゃないし。そもそも校則に引っ掛かりそう」
「ならポストは?」
「あれって中に人が入ってたのか」
「夏場は暑そうだ…」
すぐ近くの木からはセミの鳴き声が聞こえてくる。この時季独特の風情のある騒音が。
「3ヶ月にも渡るマグロ漁船の乗組員があった」
「俺、マグロ苦手なんだよ…」
「じゃあベーリング海での蟹漁」
「船酔いしそうだから海関係はパス」
「海外での地雷撤去作業っていうの発見! 高収入だぞ!」
「ていうかさっきから何を見てんの?」
「ん? コンビニで貰ってきたタウン誌」
すぐ隣では相方が薄い冊子を閲覧。覗き込むが奇っ怪な情報ばかり掲載されていた。
「また良さげな所を見つけたら連絡するわ」
「おう。俺の方でも何か探してみる」
「1人で抜け駆けするのはやめてくれよ? そんな事したら泣くからさ!」
「暑苦しいし鬱陶しい」
「うぉおぉおおぉっ!!」
それぞれの自宅への分岐点にやって来た所で別れる。抱きついてくる体を引き離して。
「バイトかぁ…」
以前より興味は持っていた。金が欲しかったし、割ってしまった友人宅のガラス代もまだ弁償していないから。なので今回の誘いは良いキッカケだった。
自宅に帰って来ると母親に早速その件を報告。珍しく社会勉強に役立つ意見を口にしたからか二つ返事で承諾してくれる事になった。
同じ学校に通う従姉にも報告するとテンションを上げて大喜び。迷惑をかけていた周りに恩返し出来た気がして少しだけ恥ずかしくなった。




