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雨上がりの空へ  作者: トランクス
1st STORY
86/129

21. 笑顔と似顔絵ー3

「あっ、ゆうちゃん」


「誰だ、お前は!」


 校門付近で顔見知りに遭遇する。電車通学している従姉に。


「おはよ~、祐人くん」


「おはようございます。香織さん」


 更に彼女の隣には別の人物が存在。3年生の先輩が並んでいた。


「ゆうちゃん、今日は遅刻しないで来たんだ。偉いね」


「ふふふ、最近はめっきりしなくなったぞ。1週間に1回ぐらいのペースかな」


「それ全然凄くないよ。普通の人は遅刻をほとんどしないんだから」


「嘘つけ。そんな人間離れした生活を送れる奴がこの世界にいるもんか」


「どうしてそうなるのさぁ。相変わらず人の話を信用しない人だなぁ、もう…」


「うん」


 別に誰かの話に耳を貸さない訳ではない。ただ単に天然な性格をからかってみたくなるだけ。


「愛莉ちゃんもおはよ~」


「おはようございます」


「髪、結構伸びてきたね。やっぱり愛莉ちゃんは長い方が似合ってるよ」


「は、はぁ…」


 従姉が友人に向かって手を伸ばす。頭に触れるように。


「これは美容室で整えてもらったの?」


「えっと……お母さんに」


「あ、そうなんだ。お母さん上手だね」


「へへへ…」


 2人が日常会話を交わし始めた。健康的なやり取りを。


「んっ…」


 葵には自分から事情を話したので知っている。目の前にいる後輩が年上だという事や、教室で起きた一連の騒動についても。


 なのに態度は以前と変わらない。仕草も口調も、そして友達であるという関係性も。


 彼女達の間でどういうやり取りが行われたかは知らない。お互いに全てを打ち明けたのか、それとも何も知らないフリをしているのかは。


 ただ一つ分かっているのはこれからもこの関係を続けていく気なのだという事。年上にタメ口で話す先輩と、年下に敬語を使う後輩。少しだけ不思議な間柄を。


「ねぇねぇ」


「はい?」


「この子、祐人くんのお友達?」


「クラスメートです」


「へぇ、そうなんだ」


 立ち尽くしていると隣に並んだ香織さんが話しかけてきた。横目で愛莉の顔を見ながら。


「ほ~う…」


「何すか?」


「別にどうもしないよ~」


「そういえば彼氏は出来ました?」


「出来る気配まったく無いよ!」


 ツッこまれる前に逆にツッこむ。顔を真っ赤にしての怒りの咆哮が返ってきてしまった。


「はじめまして~」


「あ……初めまして」


「祐人くんのクラスメートって事は1年生だよね?」


「は、はい」


「私は3年生なんだ。よろしく」


「……どうもです」


 続けて香織さんが本人の元に突撃する。いつもの明るい口調で。


「ひっ!?」


「わしゃわしゃわしゃ」


「なっ、なっ…」


「髪の毛サラッサラ。私とは大違いだ」


「あの…」


「祐人くんや葵ちゃんの友達なら私にとっても後輩。女の子なら尚更大歓迎だよ~」


 そして何を思ったか両手で頭を鷲掴み。ペットをあやす飼い主のように髪を撫で始めてしまった。


「やれやれ、仕方ないな…」


「ん?」


「愛莉、今のうちだ!」


「うわっ!?」


「俺が少しでも時間を稼ぐ。だから早く逃げろ」


「ちょ、ちょっと……ゆうちゃん!」


「へへ……後から必ず追い付くからよ」


「いやぁーーっ!! 髪の毛がグシャグシャになっちゃう!」


 場を収める為に自分も参戦する。従姉にヘッドロックをかけながら。


「じゃあ、またね~」


「うぃ~っす」


「……うぅ、せっかく頑張って寝癖直してきたのにぃ」


「真面目に授業受けろよ。ボンバーマン」


「ゆうちゃん、酷いよっ!!」


 しばらくコントを繰り広げると昇降口に移動。それぞれの下駄箱を目指して解散した。


「ふぅ…」


「大丈夫だった?」


「はい。ただいきなりだったので少し驚きましたけど」


「はっはっは、だろうね」


 上履きに履き替えながら話しかける。呆然としている友人に向かって。


「香織さん、ちょっと変わってるけど根は良い人なんだよ」


「ですよね。水瀬くんや葵さんが仲良くしてる人ですし」


「先輩らしく見えない所が欠点なんだけどね。ただそれでも、やっぱり敬語で話しかけちゃうんだよなぁ」


「……私にはタメ口ですけども」


「す、すまぬ」


 辺りは騒がしい。生徒会が何かの署名活動をしていた。


「いえ、水瀬くんが私に気を遣って敢えて敬語を使わないようにしている事は分かっていますから」


「そ、そうなんだよ。俺はワザと愛莉に対してナチュラルに接しているだけなのよ」


「名前も呼び捨てにしてきますし、乱暴に頭も撫でてきますし」


「それも周りに不自然さを見せないようにする為のカモフラージュというか…」


「平気で嘘をついてからかってきますし、セクハラ発言も連発してきます」


「ぐっ…」


「それらもきっと全部、私の為なんですよね?」


 振り向くとそこには不自然な笑みが存在。思わず目を背けたくなるような恐ろしい表情があった。


「すいませんでしたぁあぁあぁっ!」


「へ?」


「もう二度と生意気なタメ口は使いません。名前を呼び捨てにしたりもしません!」


「み、水瀬くん?」


「これからはちゃんと愛莉……いや、火浦さんを年上だと認識した上でのお付き合いをさせていだきます!」


「いや、別にそんな…」


「本当に申し訳ありませんでした!」


 泣きべそをかきながら頭を下げる。恥は承知の上で。


 そんな突発的な行動を対話相手が戸惑った様子で見てきた。パニックに陥った子供のように。


 もちろん彼女からの意地悪発言は冗談。今の自分の詫びも冗談。ただ最後に慌てふためいてしまった愛莉の様子だけは本物だった。


「もう……あまり変な真似しないでくださいよ。驚いてしまうじゃないですか」


「悪い。けど先に始めたのはそっちだし」


「たまには水瀬くんをからかってみたいなぁと思って。私、いつもおちょくられてばかりだから」


「そういう運命の元に生まれてきたんじゃないか」


「違いますよ!」


 他愛ないジョークを飛ばしあう。そうこうしているうちに教室に到着した。

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