21. 笑顔と似顔絵ー4
「おぃ~す」
「お、おはよ。水瀬くんに火浦さん」
「おはようございます。木島くん」
中に足を踏み入れるのと同時に黒板の近くでクラスメートに遭遇する。隣の席に配置されている小柄の男子に。
「お前って今日、日直?」
「うん、そうだよ。土乃さんとなんだ」
「うわぁ……可哀想に。アイツ、教室の鍵開けや黒板消しの仕事サボるとすぐ怒るだろ?」
「いや、僕はサボった事ないから分からないよ」
「そもそもさ、どうして女子の方にカウントされてるんだ? 喧嘩させたらクラスで一番強いんだから男子で良いだろ、もう」
「そ、それはちょっと…」
腰に手を当てながら悪態をついた。ここにはいない人物への不満を。
「んがぁっ!?」
直後に後頭部に謎の衝撃が発生する。前のめりでよろけてしまった。
「つうぅ……い、一体誰だ。人の頭を叩く不届き者は!」
「あたし」
「げぇ!? ツチノコ!」
「変な名前で呼ぶな!」
「いった!?」
続けて太ももを蹴られる。話題に登場した張本人に。
「あたしが何だって?」
「いや、別に…」
「次に事実無根の噂を流したりしたら血祭りだからね」
「あれ? 俺の言ってた事、合ってない?」
「……ふんっ!」
彼女は不機嫌面で教室内に進入。そのまま隣を通過していった。
「おはよ。火浦さん」
「お、おはようございます。土乃さん」
「昨日は楽しかったね。ボウリング」
「あ……はい。皆さんに比べたらスコアは低かったですけど」
「んなの全然気にしなくったって良いんだって~。楽しめればそれで構わないんだからさ」
「そうですね。久しぶりにハシャいじゃいました」
悶絶する自分を無視して女子2人が盛り上がる。全く知らない話題で。
「何々? 君達、一緒に遊びに行ったの?」
「はい。昨日、土乃さん達とボウリングに行ってきました」
「マジかよ! 俺、大好きだから誘ってくれたら参加したのに!」
「ご、ごめんなさい。連絡すれば良かったですね」
「うわぁ、ショックだわぁ。俺も行きたかったわ」
落胆の意思を露骨にアピール。額を手で押さえて天井を見上げた。
「水瀬くんに声をかけなかったのは女子だけの集まりだったから。それであたしが火浦さんに頼んで誘わないようにしたの」
「なんだよ、そういう事か。なら俺が行かなくて正解だったな」
「うん。だって水瀬くんが来ると、あたしら以外の女子が引いちゃうもんね」
「は?」
「みんな怯えて遊ぶどころじゃないし」
「ふざけんな、テメェ!」
友人の発言に怒りを露にする。握った拳を震わせながら。
「おい、木島! 俺達もボウリング行くぞ!」
「へ?」
「こいつらに負けてたまるか。こっちも男子会を開くんだ!」
「男子会…」
「お前の友達を誘ってメンバーを増やすぞ。何人ぐらいなら連れて来れそうだ?」
「いや、僕はあんまり仲の良い知り合いがいないから無理だよ」
「……すまん。俺が悪かった」
彼がいつも1人で小説を読んでいた事を思い出した。引っ込み思案な性格の為、なかなか周りに溶け込めない事情を。
突発的に企画した道楽イベントは人手不足が原因で破綻に。僅か数秒での中止となってしまった。
「木島くん、鍵開けといてくれてありがとね」
「えっと……どういたしまして」
「昨日言った通り帰りはあたしがやっとくから。ホームルーム終わったら先に帰っちゃって良いよ」
「うん、分かった」
日直の2人が会話を交わす。片方は自然体で片方は若干緊張しているが。
「おい、こいつをパシりとして使うのやめろよ!」
「はぁ? パシってなんか無いし。ただ役割分担してるだけだし」
「そう言ってお前、仕事を全部木島に押し付ける気だろ。そうはいかんからな!」
「水瀬くん、なに言ってんの?」
「俺は新しく生まれ変わったんだよ。これからはクラスメートに優しく接する人間になると心に誓ったんだ」
一方的に感じるやり取りに進んで介入。誇らしげな台詞と共に手を胸に当てた。
「ふ~ん、優しい人間ねぇ」
「おうともよ。だからこれからはお前の悪行も見逃したりなんかしないからな」
「じゃあこの前、日直サボった件はどう落とし前つけてくれるの? 水瀬くんがやらなかったから全部火浦さんが1人でこなす羽目になったんだからね?」
「え?」
「優しい人間になるんだったら、自分のした失敗の責任ぐらいちゃんと取れるわよねぇ?」
しかし瞬時に反論される。冷たい目付きをした女子生徒に。
「俺……日直サボったの?」
「……はい。先週の火曜日、水瀬くんが遅刻したり無断早退したせいで私1人で当番を担当しました」
「そ、それならそうと言ってくれれば良かったのに」
「だって水瀬くん、休み時間になる度にどこかへ消えてしまうんですもん。昼休みにはもう姿を消してるし」
「あぁ、そういやそうだった」
「だから声をかける暇なんて無かったんですよぉ…」
友人に指摘されて思い出した。早引きしてゲームソフトを買いに行った日の出来事を。
その日は朝からずっと脳内プレイをしていた為に誰かと会話した記憶が無い。ついでにこのクラスになってからまともに日直当番の仕事をこなした意識が無かった。
「悪い悪い、うっかりしてたわ」
「志田先生、怒ってましたよ。いくらなんでも無責任すぎるって」
「うっ……確かに与えられた仕事を放棄するのはマズいよなぁ」
「このままだとまた今年も留年するかもって言ってました。私もそう思います」
周りから向けられる視線が痛い。軽蔑の意思がこもった眼差しの数々が。
「す、すいませんでした。これからはなるべく真面目に学級活動に取り組みます」
「よろしい」
「はい…」
彼女達に向かって深々と頭を下げる。偉そうに正義感を振りかざした結果が自らの悪行を露呈する事だった。




