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雨上がりの空へ  作者: トランクス
1st STORY
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80/129

20 事件とキッカケー4

「あがっ!?」


 後悔の念に駆られていると男子生徒の叫び声が響き渡る。椅子や机を巻き込む大きな音も。


「……え」


 一瞬、何が起きたのか分からなかった。ただ教室内を見回せば愛莉の隣に立っている人物がいつの間にか入れ替わっていた。


「はぁ、はぁ…」


「……お、お前っ!」


 金髪の男子生徒が黒板近くまで吹っ飛ばされた砂原を睨みつけている。怒気と殺気に満ち溢れた表情で。


「いってえぇ…」


「お前、やって良い事と悪い事があんだろうがぁっ!」


「……あ?」


「文句あんなら口で言えよ。無抵抗の人間に手を出すとか頭おかしいんじゃねーのか!」


「な、なんだよ。いきなり!」


 金坂が感情を剥き出しにして絶叫。同時に辺りからはクラスメート達の悲鳴が飛び交っていた。


「……こんなもん使いやがって、馬鹿が」


 続けて床に屈んだかと思えば手を伸ばす。落ちていたカッターとハサミに向かって。


「テメェッ!」


「んっ…」


「うおっ!?」


 その行動を見て近くにいた砂原の仲間が接近。先程、教卓の前に立ってリーダーシップを発揮していた男子生徒が駆け出した。


 しかし歩み寄ろうとしていた彼の足はすぐに止まる。金坂が拾ったカッターを目の前に突き出したからだ。


「な、何すんだ!」


「刺すぞ」


「やめろし! 刃が出てんじゃねぇかよ、それ!」


「刺す」


「だからやめろって!」


「刺す」


「お、おい…」


 鋭い目付きと共に物騒な言葉を口にする。決して脅しや冗談には聞こえない台詞を。


 クラスメートの顔を殴ったのだから次は刺突ぐらいやるかもしれない。周りで見ている誰もがそう思える雰囲気が作られていた。


「うぅ…」


 男子生徒が床に尻餅を突く。向けられたプレッシャーに耐えきれずに。


「どっちが良い?」


「え?」


「こっちとこっち、どっちが良い?」


「な、何が…」


「ハサミで右腕を刺されるのと、カッターで左腕を刺されるの。どっちが良いかって聞いてんだよ」


 戦意喪失を確認した後はターゲットを再び砂原に変更。金坂が拾った文房具を掲げて歩み寄った。


「は!?」


「とろくさい奴だな。さっさと決めろや、ゲス」


「な、なに言って…」


「お前、弱い奴に嫌がらせするのが好きなんだろ? 俺も威張ってる奴をいたぶるのが大好きなんだよ」


 彼の発した言葉にクラス中が凍り付く。またしても傷害事件が起きてしまう一歩手前の状態になったので。


「何してんだ、コラッ!」


「あ?」


 やり取りを茫然と眺めていると頭上から罵声が飛んできた。自分の体を押さえつけていた男子の声が。


「おい、金坂。コイツら何とかしてくれ!」


「はぁ?」


「この3人どかしてくれたら体の自由が効く。俺もそいつの顔ぶん殴りたい!」


 険悪な仲のクラスメートに救いを求める。役に立たないプライドを捨てながら。


 自分が加勢すれば愛莉の味方は2人に。そうすればこの状況をひっくり返せるかもしれなかった。


「そっちはテメェでどうにかしろ」


「何でだよ!」


 だが彼はこちらをチラ見しただけですぐに視線を修正。助けに来てくれる気は毛頭ないらしい。


「くっそ…」


 このままでは側にも駆け寄ってやれない。何よりまた友人の存在が原因で教室に血を流してしまう。


「はい、ストップ」


「あ?」


 このピンチをどう打開するべきか。思考を巡らせていると1人の女子生徒が彼らの元に歩み寄った。


「……何だよ」


「アンタ、それでコイツ刺したら犯罪者だよ。分かってんの?」


「別に。もう顔殴った時点で違法になってるし」


「それに傷跡が残る怪我をさせたらこのバカはきっとまた復讐に来る。アンタだけじゃなく、他の2人にもね」


「ちっ…」


 土乃の言葉に金坂が舌打ち。カッターを振り下ろそうとしていた腕は固定されていた。


「やるんなら武器無しにしときな。刃物を持ち出したら次から凶器アリの喧嘩ばかりになる」


「じゃあ今のうちに肩の骨を砕いておく。腕が使い物にならなかったら仕返しもクソも無いだろ」


「アホか、お前は!」


「いてっ!?」


 彼女は説得が無駄と悟ったのか武力での鎮圧を開始する。握り拳での殴打を。


「……っつぅ~」


「とりあえずあたしがダメって言ったらダメなの。分かった?」


「どうして関係無いクセにしゃしゃり出てくんだよ…」


「は? 何か言った?」


「別に」


 夫婦漫才のようなやり取りが展開。口を尖らせた乱入者は次に横たわっている男子生徒に話しかけた。


「アンタ達さ、こんな事して楽しい?」


「楽しくてやってんじゃねぇよ」


「嘘ばっかり。言い訳並べて弱い者イジメしたかっただけでしょうが」


「ち、ちげーし」


「あたしもアンタ達の気持ち分かるよ。堂々と嘘をついたりする人とか嫌いだもん」


 その直後に視線を背後に向ける。問題の発端となった人物へと。


「せめて最初に打ち明けてくれたらこんな事態にはならなかったのに…」


「あの女にそんな度胸がある訳ねーだろ」


「騙されてたって知ったら誰だって不安になるに決まってる。その嘘が長く続けば続くほど」


「だから俺はあの地味メガネに制裁をくわえたんじゃねぇかよ」


「本人は悪気が無かったのかもしれない。けど無自覚でしてる行動が周りの人間に迷惑をかける事もあるって理解しておいてほしい」


「ふんっ…」


「……正直者が損をして隠れてる奴が得をする。そんな世界は変だよ」


 彼女が愛莉を批判する言葉を口にし始めた。堪えていた怒りや悔しさを吐き出すように。


 それは今まで隠していた本心だったのかもしれない。砂原達とはまた別の意味で軽蔑を表しているように思えた。


「だからあたしは嫌い。自分さえ良ければ周りの人間がどうなろうが構わないと思ってる自己中が」


「お、おい…」


「けどもっと嫌いなのは、それと同じ考えを自分がしている事に気付かなかったあたし自身」


「え?」


「そしてもっと嫌いなのは……女の子の服や髪を平気で切り裂いたり出来るクソ男共」


 土乃がこちらに振り向く。何かを決意したような表情で。


「さっさと水瀬くんから離れなさいよ! 3人がかりじゃないと誰かを取り押さえられないとかバカじゃないの!?」


「お前…」


「年上の女子イジメて楽しい? だとしたら相当な悪趣味よね、アンタ達!」


「い、いいぞ! もっと言ってやれ!」


「そんな所でボサッとしてないでやる事があんでしょうが。早くあの人の所に行って土下座してきなさいよ!」


 強気な発言で男子生徒達を一喝。そのまま茫然自失になっている女子生徒の方を指差した。


「……お?」


「なんで女に命令されなくちゃなんないんだよ…」


 体が自由に動き始める。上から押さえつけてくる圧力が弱まったせいで。


 入れ違いに頭上から不気味な言葉が聞こえてきた。苛立ちを表した台詞が。


「あっ!」


 1人の男子が表情を強ばらせて駆け出す。黒板の近くにいる土乃を視界に捉えながら。


「がふっ!?」


 しかし彼は背中から床に転倒。何かに跳ね返されたかのように倒れ込んでしまった。


「あ~ら、ごめんなさい。つい足が前に出ちゃった」


「うぐぐっ…」


「突然近付いて来たアンタが悪いのよ。つまり今のは正当防衛ってヤツ」


「ふ、ふざけんなし!」


「ふざけんな? それはこっちの台詞だっての」


 2人が意見を交わす。片方は床に倒れ込み、もう片方はその姿を上から見下ろしているという異質な状況で。


「友達を作る為に学校に通って何が悪い」


「あ?」


「人と違う生き方をしてる事の何が悪い」


「ごちゃごちゃと何を…」


「アンタ達みたいに……誰かをバカにして笑ってる奴等の方がずっとずっとカッコ悪い!」


 茶髪の女子生徒がピンと立てた人差し指をこちらに向けて固定。周りにいる男子生徒達を挑発し始めた。


「テメェ…」


「文句があるならかかってこい。クソ雑魚共!」


「ブッ殺すっ!!」


「んっ…」


「痛っ!?」


 残された2人の男子が前方に突進する。その内の1人の顔に土乃が投げた筆箱をぶつけた。


「うるあぁあぁぁーーっ!!」


「ぐぁっ!?」


 更に怯んだ一瞬の隙を狙って顔面をキック。スカートが捲れるのも気にせず足を振り上げた。


「このっ…」


「お前はこっちだ!」


「あがっ!?」


 もう1人の男子には近くにいた金髪の生徒が殴りかかる。未だに凶器を持っている金坂が。


「おぉ…」


 体を押さえつけてきたグループは情けなくも床に這いつくばる事に。突然乱入してきた2人組によって全滅させられていた。

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