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雨上がりの空へ  作者: トランクス
1st STORY
49/129

13 ナンパとスカウトー3

「ごめんごめん、待たせちゃったね」


 それから2人で待ち合わせ場所である広場にて待機する。しばらくすると20代と思しきスーツ姿の男性が姿を現した。


「あ、いえ。私もまださっき来たばかりなので」


「連絡くれてありがとうね。興味を持ってくれて嬉しいよ」


「は、はい!」


「とりあえず詳しい話したいから、どこかのお店入ろうか」


「分かりました」


「え~と、こちらは?」


 男性と視線がぶつかる。明らかに懐疑的な感情を含んでいる瞳と。


「この子の父親です」


「お父さん!?」


「というのは冗談で弟です」


「弟…」


「すいません。本当は守護霊なんです」


「え、え…」


「アナタには見えてしまいましたか。なんてこったい」


 有利な立場をとる為に連続でジョークを投下。対面早々に悪ふざけを試みた。


「わ、私のお兄ちゃんです!」


「あぁ、お兄さんでしたか。初めまして」


「どうも」


「こういうのって信用していいか分からないから不安になるよね、分かる分かる。同行は大歓迎ですよ」


「はぁ…」


 それから男性先導の元、3人で近くのカフェに入店。人数分の飲み物を会計して席に座った。


「すみません。俺の分も奢ってもらっちゃって」


「いいからいいから。さすがに学生のお2人にお金を払わせる訳にはいかないし」


「ういっす」


「で、早速なんだけど…」


「は、はいっ!」


 席に座るのと同時に男性が本題を切り出してくる。持参してきたバッグの蓋を開けながら。


「これがうちの事務所のパンフレット。方針とか活動内容とか書いてあるから軽く目を通してもらえるかな」


「わ、分かりました」


「あっ、もう1枚あるからお兄さんもどうぞ」


「どもども」


 差し出された書類を受け取った。カラーのチラシを。


「……誰だ、これ」


 事務所に所属しているタレントが掲載されているらしいが誰もかれも知らない人物ばかり。見知った名前の人間など1人も存在していなかった。


「あははっ、まだ創設して日が経ってない事務所だから知らない人だらけだよね」


「いや、そんな事は…」


「事務所の名前自体も知られてなくてさ。街で目についた子に声をかけてもなかなか信じてもらえなくって」


「そうなんすか」


「本当は僕ももっと大手の会社に入りたかったんだけど、採用してくれたのがここだけだったから仕方なく頑張ってるっていうか」


「はぁ…」


 読心術の心得でもあるのか考えていた事が読まれてしまう。失礼な思考を。


「あ、ごめんね。僕の愚痴みたいになっちゃった」


「全然大丈夫っすよ。気にしてないですから」


「とりあえず信用出来ないかもしれないけど本当に芸能事務所なんだよ。潰れるか潰れないかの瀬戸際で踏ん張ってる弱小会社」


「なるほど」


「信じられないっていうなら親御さん連れて事務所に来てもらってもいいし。ビルの中にある狭い一室だから大したお持て成しは出来ないけど、女性社員もいるから安全だよ」


「へぇ」


 ここまでさらけ出してくれるという事はそれなりに信じていいのかもしれない。まだ新入社員の雰囲気が抜けない新田さんは自分が怪しい業者ではないと必死にアピールしてきた。


「うちの会社は若い子が中心の芸能事務所。だけどいかがわしい仕事とかは絶対にさせない」


「あの、1つ良いですか?」


「ん? 何かな」


「もしこの子がここの事務所に入ったとしたら、どういう風に活動していく事になるんでしょうか」


 男性の言葉を遮るように質問を投げかける。隣でパンフレットと睨めっこしている相方を指差して。


 だがそのやり取りはすぐに軌道修正されてしまう。隣に立っていた相棒によって。


「とりあえず最初は歌やダンスのレッスンを受けてもらって、活動するのはそれからになります」


「新田さんがマネージャーって事ですか?」


「デビューするまではマネージャーはつかないけど、もし妹さんが本格的に活動する事になったら専属の担当者がつきますね」


「ほう」


「ただ他の子と掛け持ちになるので場合によっては現場に付き添えない事もあります。そこまで仕事が忙しくなる事は稀ですが」


「ならそういう場合は本人だけで現場に出向けと?」


「大抵、他のタレントさんと一緒に行動する事になるので単独行動にはなりませんよ。さすがに中学生の子を1人で仕事には向かわせられませんし」


 まるで保護者にでもなったような気分で会話に没頭。自身には無関係な話なのに何故か妙に気乗りしていた。


「ちなみにデビューするとなるとタレントという形に?」


「え~と、出来れば本人の希望を叶えてあげたいところなんですが、いかんせん手厳しい業界なもんで。歌手として活動していきたいからじゃあ歌手一本で、という訳にはいかないんですよ」


「というと?」


「例えば今ここに載ってる子。彼女は役者志望だったんだけど現在はあちこちのショッピングモールで開かれてるイベントに出てるだけ」


「役者…」


 新田さんがパンフレットの一部を指差す。オカッパ頭が特徴的な人物を。


「本人は芝居のレッスンも受けてドラマのオーディションにも参加してるんですが役を貰える機会がなくて」


「同じ夢を抱いてる人はたくさんいますからね」


「うん。本人がそういう仕事をしたくても合格しなければやらせてあげられないし、実績がなければオファーが来る事もありません」


「なるほど…」


「だから、え~と……奈津紀さんがどのような希望を持って連絡をくれたかは分かりませんが、自分の思い通りにいかない世界だという事は先にご理解しておいてください」


 予想はしていたが競争率が高い業界らしい。こうして現状を聞かされると尚更それを実感。


 進みたい道で活動出来たとしてもその成果が実るかは分からない。売れなければ夢や憧れも全て幻として儚く散ってしまうだけだった。


「君は今までの話を聞いていてどう思った?」


「え?」


「大まかな感想とか。やっぱりやめとこうかなぁとか、あの部分の話が少し分かりにくかったとか」


「え、えっと…」


「そのまま感じた事を仰有ってくれれば良いですよ。無理強いをしてる訳ではないですから」


「あぅ…」


 新田さんがずっと黙り込んでいた本人に話題を振る。紳士的な態度で。


「……どう答えれば良いですかね」


「いや、俺に聞かれても」


「んん…」


 意見を求められたが強く否定。どうするかの決定権は彼女しか持っていない。あくまでも自分はオマケで付いてきた同席者だった。


「そういや学校ってどうなるんですか?」


 気まずい沈黙を打ち破るように別の話を振る。私生活に関しての問題点を。


「場合によっては休まなくてはいけない時もあると思いますが、先程も言ったようにそこまで忙しくなる事は稀です。なので最初はそういう心配をしなくても大丈夫ですよ」


「ふむふむ」


「レッスンも基本的に空いた時間に受けてもらうだけですからね。さすがに学生に学業より仕事を優先させる事はないです。超売れっ子にでもならない限りは」


「だってさ」


「は、はぁ…」


 すぐには困るよう状況にはならないとの事。その状態が継続する事は好ましくないが。


「あの…」


「はい?」


「俺はダメですか?」


「え?」


「いや、何でもないです」


 提案に対して目の前の表情が茫然とした物に変化。恥ずかしくなったのですぐに引き下がった。


「う~ん…」


 その後も人見知りな中学生は唸り声を連発。興味はあるが様々な問題をどう解決していくかを考えているのだろう。


 そしてとりあえず今回は保留という事で決定。まだ両親に話をしていないし、彼女自身が強く決意しきれていないようだったから。



「それではこれで」


「はい」


「また興味が湧いたらいつでもご連絡ください」


「今日はありがとうございました」


「いえ、こちらこそ。では」


 話し合いを終えた後は待ち合わせ場所だった広場に移動。初々しい笑顔を保ったまま立ち去る新田さんを2人で見送った。


「……行ってしまったか」


 どう見ても彼は悪人とは思えない。それも作戦のうちという可能性も考えられなくもないが。


 ただ誘いを断っても無理やり引き留めなかった部分を考慮すると本当に声をかけてきただけだったのだろう。真面目な社会人だった。


「さ~て、どうしましょうかね。お嬢ちゃん」


「え、えっと……今日はありがとうございました」


「いえいえ、これぐらいお安いご用ですわ」


「無理言って巻き込んでしまったみたいですみません…」


「まぁ頼んできた時はさすがにビックリしたけど」


 隣にいた人物が頭を下げてくる。感謝の言葉を口にしながら。


「もし私1人だったならまともに話をする事すら出来ませんでした。だから付き添ってくれて本当に助かりました」


「いや、俺も適当に聞いてただけなんだけどね。こういう経験ないからどう対処していいか分かんなかったし」


「で、でも凄く頼もしかったです。狼狽えてる事しか出来なかった私の代わりにあれこれ尋ねてくれたりして」


「少しだけ興味あったから。芸能事務所がどんな所なのか」


「そうなんですか…」


 付き添いのハズが途中からはノリノリで会話。頭の中でテレビに出演する自身の姿を思い浮かべていた。


「けど断っちゃって良かったの? レッスン受けてみてからでも良かったのに」


「今の私にはまだ早すぎるっていうか。覚悟も無しにそういう世界に挑戦するのはどうなんだろうって思って」


「時期尚早ってやつ?」


「そんな感じ……ですかね」


「ふ~ん」


 立場についてそれなりにわきまえているらしい。消極的といってしまえばそれまでだが。


「おっと、ゲームショップ行かないと」


「え?」


「寄り道しすぎて忘れてたわ」


 元々の目的を思い出す。この街へと足を運んだ一番の理由を。


「とりあえずカラオケとか通って歌の練習に励みたいと思います」


「ん、頑張って」


「あっ! あそこよーーっ!」


「ん?」


 別れの雰囲気を匂わせているとどこからか声が聞こえてきた。女性の甲高い雄叫びが。


「向こうにいる女の子です。お巡りさん!」


「分かりました!」


「隣にいる男が無理やり腕を引っ張っていく所を見ました」


「そこの2人、ちょっと止まりなさい!」


「……は?」


 声のした方角に振り向く。そこにいたのは中年女性と青い制服を身につけた公務員だった。


「君かっ! 女の子を拉致したという犯人は!」


「え、え…」


「まだ若いクセに何と大胆な……往生しろ!」


「はあぁあぁぁぁ!?」


 接近してきた警察官に腕を掴まれる。意味不明な容疑をかけられながら。


「いててててっ!? 何するんだ!」


「それはこっちの台詞だ。こんな大人しそうな子を誘拐するなんて…」


「違う違う。俺、この子の兄貴だし!」


「……え、お兄さん?」


 恐らくナンパ男から救出した現場を誰かが見ていたのだろう。誤解をされては困るので必死に弁明を開始した。


「君、この男と兄妹というのは本当かい?」


「いえ、違いますけど…」


「貴様、やはりデタラメだったかっ!」


「ぐわあぁぁぁっ!! 待て待て! つか話、合わせろや!」


「被害者に嘘までつかせて逃れようだなんて最低すぎるぞ、この野郎!」


「ひ、ひいぃ…」


 パニくる女の子の前で国の組織とバトルする。叫び声をあげながら。


 その後は強制的に交番まで連行。相方の庇護発言が出るまで取り調べを受ける羽目になった。

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