13 ナンパとスカウトー2
「ふぅ…」
額から流れる汗を拭う。揉め事にならなかった状況に安堵して。
「……あ」
同時に別の問題が浮上。ナンパを遥かに超える悪行の過去が浮き彫りになってしまった。
「さ~て、駅前でティッシュを受け取るバイトでもしてこようかなぁ」
掴んでいた手を離すとワザとらしく歩き始める。信号が青の横断歩道を目指しながら。
「あっ!」
「ん?」
「あ、あの…」
「……何でしょう」
「えっと、その…」
動き出したタイミングで女の子の方から接近。狼狽えた姿で呼び止めてきた。
「た、助けていただいてありがとうございました」
「いや、別に」
「正直どうしたらいいか困ってたので…」
「みたいね」
「断っても聞き入れてくれないし、腕を掴んで逃げられないようにしてくるし」
「性質の悪いナンパ男やなぁ」
感謝の言葉をキッカケに会話を始める。不幸中の幸いか、不審者扱いされる事態にはならなかった。
「それより乱暴しちゃってゴメンね。嘘までついたりしてさ」
「い、いえ! アナタのお陰で助かったんですから謝らないでください」
「実は本当に男とか?」
「はい!?」
「いや、何でもない」
質問に対して大きなリアクションが返ってくる。明らかに戸惑っている反応が。
「すみれと待ち合わせしてたの? それか別の友達とか」
「そういう訳ではないんですけど…」
「彼氏……は違うか。いやその可能性もあるか」
「そ、それも違います。お付き合いしてる人なんていませんから」
「ふ~ん…」
彼女が顔を赤らめて視線を地面に移動。その仕草が子供らしくて初々しかった。
「こうやってよく声かけられたりするの?」
「たまにですけど。小学生の時から年上に見られたので」
「良い事なのか悪い事なのか分かんないね。モテるのは羨ましいけど、しつこく声をかけられるのは考え物だよなぁ」
「……はい。だから外出する時はなるべくお父さんやお母さんと一緒にいるようにしてます」
「ふむ…」
話の流れはそのまま不満や愚痴に。第三者が敵になってくれたお陰で妙な仲間意識が発生していた。
「ちょっとスマホ貸して」
「え?」
「良い事してあげる。ナンパ男を撃退する方法」
「は、はぁ…」
「うりゃあっ!」
彼女に向かって手を伸ばす。差し出された端末を受け取るとカメラモードを起動。頭上に掲げて変顔を自撮りした。
「はい」
「え、え…」
「今度、誰かに声をかけられたらこの写真を見せれば良いよ」
「写真…」
「しつこく誘ってくるならこの男が暴れに来るぞって言ってね。そうすりゃ大抵の輩は逃げて行くし」
「……あ、ありがとうございます」
彼氏持ちだと知れば普通は諦めて立ち去るハズ。余程の非常識人じゃなければ。
「ちなみに友達や彼氏と待ち合わせでないのなら、ここにいた理由は?」
「えっと……スカウトさんを待ってまして」
「スカウト?」
「はい。これです」
聞き慣れない単語と共に彼女が財布から何かを取り出した。1枚の紙切れを。
「芸能プロダクションcolorful……新田一郎」
「先週、この辺りを歩いてたらその人に声をかけられまして」
「ほう」
「それで気になったら連絡をほしいと言われました」
「これか」
「どうしようか迷ったんですが勇気を持って電話をかけたんです」
「ふ~ん…」
名刺をひっくり返して裏を確認する。ボールペンでスマホの番号が書かれていた。
「この事務所に入ったらデビューさせてあげるよって言われたの?」
「いえ、まだそこまでは。ただ芸能界に興味ないかって誘われただけで」
「あのさ、1つ言っていい?」
「はい?」
「君、騙されてるよ」
「え!?」
こんな上手い話がそうそう転がっている訳がない。詐欺の類でほぼ間違いないだろう。しかも目の前に立っているのは人を疑う事を知らないような子。業者からしたら恰好のターゲットだった。
「ま、まさかそんな…」
「絶対そうだって。間違いない」
「でもとても優しそうな喋り方でした。悪そうな人には思えませんでしたし」
「それが向こうの手なんだってば。最初に油断させておいて少しずつ自分達のテリトリーへと引きずり込むわけさ」
「そ、そうなんですか?」
「このままここにいたらたくさんの男達に密室に連れて行かれて、そしていかがわしい写真や動画を撮られちゃうんだぜ」
「あわわわ…」
絶対にそうとは言い切れない。ただ違うと断言する事も出来なかった。
「お父さん達には話してあるの?」
「……うちの親、こういう事に厳しくて。だから結局言い出せなかったんです」
「あぁ。そういえばスマホも制限かけられてるって言ってたね」
「はい……スカウトの人にも両親を連れて来てほしいと言われたんですが、やっぱり無理でした」
「なるほど」
家族に許可を貰って油断させる手かもしれない。身内から切り崩していく作戦とか。
「ともかくこういう話は迂闊に信じない方が良いって。向こうさんに会うにしても誰かに付き添ってもらった方が安全だし」
「そ、そうですよね。やっぱりそう思いますよね」
「両親に打ち明けるのが嫌なら別の誰かに相談しなよ。この件に力を貸してしてくれそうな理解者とかさ」
「理解者…」
「じゃないとマジで淫乱な格好させられるかも」
「ひいぃぃぃっ!?」
不安を煽りに煽る。半分は本音だが半分はイタズラ心だった。
「あ、いけね。長話しちゃった」
「え?」
「オーブン記念に配布する記念品が貰えなくなっちゃう。俺、そろそろ行くわ」
会話を途中で止める。本来の目的であるゲームショップの存在を思い出しながら。
「んじゃ、頑張って」
「……んっ」
「え……な、何?」
不仲を解消出来た事に一安心。愁眉を開いて歩き出したが後ろから服の袖を掴まれてしまった。
「も、もし良かったら私の付き添いを…」
「えぇーーっ!? やだよ!」
「お願いします。お願いします」
「ダメだって。俺、関係ないじゃん。全て君の問題じゃん!」
「けどこのままだと危険な目に遭うかもしれないし…」
「なら電話かけて断れば?」
「そ、それは…」
拒否すれば事態は解決する。相手がその提案を素直に受け入れてくれるかは知らないが。
「私のスマホの番号、向こうの人に知られてしまっているんです」
「まぁ、そうだろうね」
「もし無視して、お父さん達の方に連絡とかがいったら…」
「それは……有り得るな」
「下手したら学校にまで情報を流されてしまうかも…」
「……あぁ、もう仕方ないな」
「え?」
家族や教師に叱られる展開を危惧している心情を察知。しかもこの反応を見る限り、かなり恐れているようだった。
「いいよ。協力してあげる」
「あ、ありがとうございます」
「恐怖を植え付けたのはこっちの責任だからね。自業自得だ」
「ごめんなさい。突然こんな事をお願いしてしまって…」
「あ~あ、ゲーム屋が遠退いていく…」
頭を下げる会話相手を無視して呟く。本音を漏らした不満を。こうして大した知り合いでもない子の面談に付き添う事になった。




