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雨上がりの空へ  作者: トランクス
1st STORY
PR
45/129

12 正義と犠牲ー3

「愛莉」


「え?」


 放課後のチャイムが鳴った後、校門付近で声をかける。校舎から出てきた友人に。


「み、水瀬くん! どうしてここにいるんですか!?」


「母ちゃんが先に帰っちゃったから暇なんだ。寄り道するから付き合ってくれ」


「ちょ…」


 母親は怒り気味でスーパーのパートに出勤。1人になり自由を得たので気分転換をしたかった。


「ダメじゃないですか。真っ直ぐ帰らないと」


「だって明日は外に出られないんだぜ? なら今日のうちに遊びまくっといてやる」


「そんな事だから反省してないって志田先生に言われるんですよぉ…」


「謹慎ぐらいで態度を改めると思う判断が甘い」


「……水瀬くんがそういう事を言ってはダメです」


 憎まれ口を叩きながらも彼女が隣を歩く。不満を抱いてはいるが付き添ってくれるらしい。


「教室、どんな感じだった?」


「水瀬くん達の話で盛り上がってましたよ。特に女子が」


「やれやれ、これも風雲児の宿命か」


「バカとかアホとか言ってました」


「ぐっ……否定出来ないのが悔しい」


「あと男として付き合うのマジ無理とも言ってました」


「それは関係ないだろ!」


 心にダメージが発生。顔に出来たアザ以上の傷を負ってしまった。


「話の流れついでに質問していい?」


「なんでしょう?」


「愛莉ってこうして俺と一緒にいてくれたりするけど、それを嫌だって思った事ない?」


「え?」


「好きとか嫌いじゃなく男子と一緒にいるのがって意味。愛莉って一応女子じゃん? だからそういう付き合いに抵抗ないのかなって」


「あぁ、なるほど」


「時々考えちゃうんだよね。俺、どうして女子とばかり連んでるんだろうって」


 噂をされるのが怖いとか小学生じみた不安を抱えている訳ではない。ただ趣味が合わない事に対して不満だった。同性同士でしか語り合えない話題もあるハズだから。


「そういう事を今まで考えた経験はないですね」


「本当に?」


「はい」


「うわっ、コイツと距離を置きたいって思った事は?」


「ある訳ないじゃないですか。もし仮にそう思っていたとしたらこうして会話したりなんかしません」


「……そりゃそうだ」


 彼女が真顔で断言する。真摯に語る態度が恥ずかしくて目を背けてしまった。


「水瀬くんはお友達の中にランキングを付けてるんですか?」


「どうだろ。そこまでたくさん知り合いが出来た事ないからな」


「私は皆と仲良くなりたいです。何十人でも何百人でも友達を増やせたら良いなって」


「それは難しいよ。必ず軋轢が生まれちゃう」


「一緒にいたくない人同士が無理やり近付く必要は無いと思います。けど私は一度でも仲良くなった人とは縁を切るなんて事はしたくないです」


「博愛精神か…」


 頭の中で小学校の入学当時に聞かされた曲が流れる。友達を100人作ろうとする新入生の想いを綴った歌が。


「じゃあさ、もし仲の良い友人同士が喧嘩してたらどうする?」


「2人が仲直り出来るように努力します」


「ならそいつらが口を利かなくなるぐらい険悪な関係に発展したとしたら?」


「答えは変わりません。やっぱり元通りの関係になってくれるよう行動します」


「ふ~ん、でも世の中そんな上手くいかないけどな」


「それは……私も分かっています」


「だよね」


 争いなんかほとんどの人間は望んでいない。平和を期待している人なんか世の中に数えきれないぐらい存在。だけどそんな世界でも衝突は起きていた。生き物同士による摩擦はこの世から消えたりはしないから。


「お?」


 電車に乗って繁華街までやって来ると妙な光景に出くわす。うちの学校の制服を着た生徒がゲームセンター前で揉めている現場に。


「うっわ、最悪…」


 しかもそこにいたのは派手な金色の髪の男子。停学仲間がいかにも不良といった風貌の男2人と何やら言葉を交わしていた。


「お前、さっき鞄ぶつけてきただろ」


「あ?」


「プレイ中に妨害しやがって」


「知らねーよ。テメェの勘違いじゃねぇの」


「金返せよな。お前のせいで1回分無駄にしちまったじゃんか」


 遠目から彼らの様子を伺う。どうやらあまりよろしくない状況らしい。


「あ……金坂くん」


 隣にいた相方も気付いたのか男達の方に注目。茫然とした表情で眺めていた。


「失敗したのはテメェが下手くそだからだろ。自分の不甲斐なさを人のせいにしてんじゃねぇよ」


「はぁ!?」


「ストリートファイトなら余所でやれ。俺はここに遊びに来たんだよ」


「ふざけんなしっ、一言ぐらい謝れやコラッ!」


「俺が謝ったらお前が何か得でもすんの? しねぇだろ。んな無駄な大声張り上げる元気あんならバイトでもして稼いでこいや」


「コイツっ…」


 店内でいざこざがあったのか男の1人が金坂に詰め寄っている。今すぐにでも暴力に打って出そうな危険な雰囲気を纏って。


「おい、行こうぜ」


「え?」


「これ以上近付いたら巻き添え喰うかもしんないし。喧嘩になったら面倒じゃんよ」


「けどこのままだと金坂くんが危ないです。店員さんを呼ぶかお巡りさんを連れてこないと」


「いやいや、店員連れてきてもその人が可哀想だから。警察だってすぐ近くにいるか分かんないしよ」


「な、なら電話で通報とか…」


 こういう状況に慣れていないのか彼女はかなりのパニック状態へと変化。震える声を出しながら必死に解決への道を探っていた。


「心配しなくてもそのうち収まるって。それにアイツ自身が逃げ出そうとしてないじゃん」


「でもこのままでは相手の人が手を出してくるかもしれません。そうならないうちに何とかしなければ」


「だぁから平気なんだっての。そもそもトラブルを起こした原因はあの馬鹿なんだよ。自業自得」


「どういう状況であれ、このままクラスメートを見逃すなんて出来ません。怪我したら大変です」


「あっ……おいっ!」


 何故か自分達も軽く口論に。そしてその流れは思いもよらない展開へと発展した。


「あ、あのっ!」


「あ!?」


「ケンカはよくないと思います」


「はぁ?」


「殴る方も殴られる方も痛い思いをしてしまいます。だから絶対に手は出さないでください」


「な、何だよ……この女」


 愛莉が男達の元に歩み寄る。まったく空気を読まずに。


「わあぁっ! スイマセン、スイマセン!」


「あ?」


「この子ちょっと頭おかしいんで」


「はぁ?」


「俺達すぐに立ち去りますから。な? ほら」


 咄嗟に自分も連中の元に接近。低姿勢で間に割り込んだ。


「金坂くんも冷静に。喧嘩なんかしたらまた停学になってしまいますよ?」


「おいっ!」


「話し合いが苦手なら私が協力します。な、なので…」


「愛莉っ!」


 離脱しようとするが彼女は語りかける言葉を聞き入れてくれない。それどころか粗暴なクラスメートの説得を開始する始末。


「引っ込んでろ、ブス!」


「きゃっ!?」


「あっ!?」


 三つ巴か四つ巴か分からない状況に。異様なシチュエーションに戸惑っていると相手の1人が振り回した腕を愛莉の頬にぶつけた。


「てめぇっ!!」


「あがっ!?」


「誰に手ぇ出してんだ! 相手、女だぞっ!」


「ゲッ、ゲホッ!」


 男の顔面を全力で殴る。握り締めた拳で。


「コイツっ!」


「いって!?」


 直後に今度は自分の背中に衝撃が発生。隣にいた仲間が蹴りを浴びせてきた。


「おらっ!」


「ぐわっ!?」


 更にその男を今度は金坂が攻撃する。持っていた鞄を投げ捨てながら。


 二対二の組み合わせで殴り合う事に。娯楽施設の入口はあっという間に乱闘現場へと発展してしまった。


「死ねっ!!」


「み、水瀬くん!」


「何だ!?」


 横たわる男に股がってマウントを取る。その途中に大声で名前を呼ばれた。


「これ以上はマズいです。その人が死んでしまいます」


「殺す為にやってんだから良いんだよ。二度と動けないようにしてやるわ!」


「そ、そんなのダメです。命を奪うなんて…」


「女の顔に手を出したんだからこれぐらい当然だっての。心配しなくても半殺しで済ませるから大丈夫」


 手加減する気はサラサラない。目の前にいる人物はそれ程の罪を犯したので。


「ダメぇーーっ!!」


「うぉっ!?」


 攻撃を再開しようと鞄を振り上げる。同時に全身を怯ませるような叫びが反響した。


「と、とにかく逃げましょう。このままここにいたら警察の人が来てしまいます」


「いや、でも…」


「捕まったら停学じゃ済まなくなりますし。お願いですから私の言う事を聞いてください」


「ちっ…」


 指摘通りこのままここにいたら全員揃って警察行き。当人達だけならともかく無実の友人まで巻き込むのはマズいだろう。


「おらっ!」


「ぐわっ!?」


 立ち上がって男の太ももに蹴りをぶつける。最後の制裁を喰らわせた。


「金坂くんも、ほら」


「は?」


「走れ! 逃げるぞ!」


 近付いてきた愛莉が金髪男の腕を掴む。強引に引っ張るとその場を離れた。


「おらっ、散れ散れ!」


「うわっ!?」


 いつの間にか周りを大勢の人間が囲んでいる事に気付く。鞄を振り回して進路を妨害している通行人を威嚇した。


「はぁっ、はぁっ…」


 休憩したいが立ち止まる訳にもいかない。後ろから2人が付いてきてる事を確認しながら商店街を駆け抜けた。


「ぷっはあぁぁーーっ!」


 しばらくすると立ち止まる。人気のない寂れた路地裏で。


「だ、大丈夫だったか?」


「何とか平気……です」


「ゲホッ、ゲホッ!」


 3人揃って地面にスライディング。ビルとビルの隙間に隠れた。


「とりあえずここに潜んでよう」


「え?」


「壁で死角になって、そこの通りから見えないハズだから」


「あ……はい」


 場を離れるよりも待機する作戦を提案する。走ってきた道のりを指差しながら。


「おい、金坂」


「あ?」


「お前、なんでゲーセンにいたんだよ。自宅謹慎を言い渡されたハズだろ?」


「それが?」


 ずっと感じていた疑義を直球に質問。対して彼からは素っ気ない態度が返ってきた。


「サボりかよ。悪い奴だな」


「水瀬くんがそれ言うんですか…」


「ケンカした後にまたケンカ。これだから不良は」


「あ、争いはやめましょうよ。2人共…」


 授業中のバトルを再開するように嫌味を飛ばす。自身の愚行を棚に上げて。


「あ、そうだ」


 やり取りの最中に愛莉が小さな台詞を発声。制服のポケットから無地のハンカチを取り出した。


「これで血を拭いてください」


「……は?」


「固まってしまったら取れなくなりますし」


「いや、いらねぇって。これぐらい平気だっての」


「いけません。傷口から黴菌が入りこんで病気になる場合もあるんですよ?」


「だから大した事ないんだってば!」


 続けて配慮の言葉をかけながら近付く。こちらではなく、ふてくされている男子生徒の方へと。


「ほら、口周りが凄い事になってます」


「お、おい!」


「他は怪我してませんか?」


「やめろっての…」


「動かないでください。すぐに済みますので」


 当然のことながら彼は反発。嫌がる素振りを見せたが無理やり施しを受ける羽目になっていた。


「はい、終わりました」


「……ちっ」


「とりあえず2人共、すぐに水道の水で血を洗い落としてください。そのままの状態ではマズいですし」


 簡単な手当てが終了する。この場で可能な応急処置が。


「あの、水瀬くん…」


「ん?」


「すいません。私、ハンカチ1枚しか持ってなくて…」


「別に良いよ。俺、大した事ないもん」


「ごめんなさい…」


 世話焼きの友人はこちらにも接近。申し訳なさそうに頭を下げてきた。


「ちょ……おい!」


「あ?」


「どこ行くんだよ。フラッと消えようとしやがって」


「帰る」


 そんなやり取りのすぐ後ろで金坂が動き出す。鞄を持って立ち去ろうとしていた。


「ならせめて礼ぐらい言ってけよ。黙っていなくなろうとすんなや」


「はぁ? 別に俺、お前に助けてほしいなんて言ってねーし」


「俺じゃなくてこっち。汚れた顔を綺麗にしてもらっただろうが」


 叫びながら隣にいる人物を指差す。親しくもないクラスメートに慈悲を与えた女子生徒の顔を。


「うっ…」


「さすがにありがとうも言わずに立ち去る恩知らずな訳ないよな。そんなろくでなしなら人間として終わってるわ」


「んだとっ…」


「俺には良いから愛莉には頭下げろよ。巻き込んですいませんでしたと、助けてくれてありがとうございましたって」


 自分が助けたのは金坂ではなく愛莉。もし彼女が間に割って入らなかったら間違いなくあの場に関わらなかった。


「ほれ、早く」


「……余計な事するなよ。女子のクセに」


「あぁ!?」


 だが彼から発せられたのは恩を仇にする発言。暴言を投下したかと思えば視線を背けて道路に出て行ってしまった。


「待て、コラッ!」


「み、水瀬くん! いけません!」


「なんだ、あの生意気な態度は。俺が一発ぶん殴ったる!」


「私は気にしてません。なので手出しするような真似はやめてください」


「このままじゃ納得いかん。意地でも頭下げさせたるわぁっ!」


「ダメぇーーっ!!」


 残された2人で意見をぶつけ合う。体を密着させながら。


「暴力はよくないです。クラスメートなのに殴るなんてそんな…」


「分かったからとにかく離せよ、腕」


「殴った方も殴られた方も痛いですし、最悪命を落とす事にだって…」


「だからそれは分かったから早く…」


 引いたり押したりの攻防戦を展開。そして指を引き剥がそうとした時、彼女の違和感に気付いた。


「……もしかして、泣いてる?」


「え?」


「声が震えてんだけど。てかめっちゃ目ウルウルさせてんじゃん」


「あ…」


 声だけではなく体を掴んでいた腕も。その表情は年上とは思えない程に怯えていた。


「ご、ごめんなさい。そういうつもりじゃ…」


「内心ビクついてたのか。そりゃそうだよな。あんな怖そうな連中に特攻したんだから」


「本当にすいません。私のせいで水瀬くんに怪我をさせるような結果になってしまって…」


「構わんっての。手を出したのは自分の意志なんだから」


 彼女が制服の袖で涙を拭い始める。先程までの毅然とした態度が嘘のように。


「うぅう……すみません、すみません」


「愛莉が謝る必要なんてないし。悪いのはさっきの男達と金坂」


「本当は足が震えてたんてす。声をかけるのが怖くて…」


「少し前まで店員にも話しかけられないような人見知りだったもんな。そう考えたらさっきのアレは驚きの行動だわ」


「うぐっ、あぅ…」


 この反応を見る限りゲーセンでのアレはかなり勇気を振り絞った決断だったのだろう。それでも動き出せたのは優しい心の持ち主だったから。


「しかも相手の男に叩かれたらそりゃ泣くわな」


「……あ」


「よく考えたら先に愛莉を逃がすべきだったかも。しくったわ」


「あ、あの…」


「ん?」


「頭…」


 目の前にある髪に優しく触れた。グズっている子供をあやすように。


「ふぅ…」


 間近で派手な乱闘を見せられたら怯むのは当然。大の男だって足が竦んでしまうシチュエーションなのだから。


 自分も初めて取っ組み合いの喧嘩をした時の事はよく覚えている。相手を殴った手がジンジンと痺れていたり、その感触が夜眠るまでの間ずっと消えなかった事も。


 数日間は血を見る事に対して恐怖心が存在。ただいざ乱闘になると興奮してその事を忘れてしまっていた。


「よ~しよし」


「あ、あの…」


 抵抗ある反応を無視して頭を撫で続ける。ペットを愛でるように何度も。気分を落ち着かせた後は辺りを警戒してその場を離れた。

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