第12話 そんな子、この世にいるんですか?
「ローザ様、まさか、その話を直接殿下になさっていないでしょうね?」
「えっと、好きなタイプについては直接聞けてないわね。だからリヒター、貴方に聞いてるんじゃない!」
「つまり、他の話はしたのですね。殿下、お可哀想に。(さっきはガキが焦りやがってと思ったが、流石にこれは同情するな・・・見ているこっちが恥ずかしくなるレオンの愛情表現がこうまで伝わってないとか──あとで慰めてやろ・・・)」
「──?それで、教えてくれるの、くれないの!?」
「──いいでしょう、お教えします。(あーもう、仕方ないなあ。人生の先輩が、一肌脱いでやりますか!)」
リヒターは何か決意したような面持ちになり、居住まいを正した。この情報、期待できそうだ!
「殿下の幸せを本当に願うなら、余計なことはしないことです、ローザ様。なぜなら、殿下にはすでにれっきとした想い人がいらっしゃるんですから」
「はっ!?えっ!?そうなの!?」
全っ然、気づかなかった!雷に打たれたような衝撃。これはちょっと──いや、かなり想定外だ!
「ええ、これは間違いございません。殿下ご本人に何度も、はっきりと伺っております。まあ流石にローザ様に(直接)は言いづらかったのでしょうが──」
「あ、うん──そうよね、いくら私が親友でも・・・そういうことは言いづらいよね・・・」
なんだろう、喜ばしい報せのはずなのに、なんかすごいショックを受けてる自分がいる。
──理由はわかっている。リヒターは知っていたのに、自分がまったく知らなかったからだ。
そりゃあもちろん、同性に言えて、異性には言えないことはあるでしょうよ?だから今だって、こうしてリヒターにレオンの好きなタイプを聞いてたわけだし・・・。でも、今までレオンのことはなんでも知ってるつもりだった。それなのに私、そんなに何にも知らなかったの──?
「でも・・・その言い方だと、まだ両想いってわけじゃないのね?そもそも両想いだったら、私なんかにかまってる時間ないはずだし・・・」
「その質問への回答は少し難しいですね。両想いかどうかと言われれば、まあ、殿下の片想いです。正直私も、殿下の想いが本当に報われる日が来るのか、目下かなり不安に思っています。ただ、両想いになったからといって、ローザ様と過ごす時間が減るとは考えられません。むしろ、さらに増えるかと・・・」
──?時間が減るどころか、増える?いやいや、私たちが一緒にいる時間がこれ以上増えたら、レオンのプライベートタイムは完全にゼロになるでしょうよ!?でも、あのレオンが片想いする相手か・・・。どんな人なんだろ。──っていうか、いったいいつから?
「ねえ、それって、私も知っている人?あと、レオンはいつからその人のこと好きなの?」
「もちろん、ローザ様もご存知の方ですよ。先ほどローザ様が仰ったように、とてもかわいらしく、明るく、みんなから愛されている方です。私も大好きですよ。そしていつから殿下がその方を慕っているかと言われれば、そうですね、もうずーと前から、ちょうど、ローザ様がレオン様に出会われた頃からです」
は!?そんな前から!?で、なんで私はまったく気づいてないわけ!?そもそも、そんな頃からの知り合いで相手に想いが伝わっていないとか、レオンってどんだけ奥手なのよ!!あるいは相手が馬鹿みたいに鈍感とか──!?
「そんな昔から好きなら、なんでレオンは告白しないの!?」
「本人は何度もしているつもりらしいんですがね」
なんと・・・つまり、あのレオンが振られてると、そういうことなのか!いったい、どういうつもりなんだ、その子は!?
「思い当たる節はありますか?」
「・・・リヒター、そんな子、本当にこの世にいるんですか?」
「はい?」
「レオンから想われていて、それを拒絶する子・・・そんな子がいるの!?信じらんない!」
「ぷっ・・・!ええ、残念ながら・・・この世にたった1人だけ──おりますね、くくっ!」
「ちょっと!笑うなんて、ひどいわ!レオンが可哀想じゃない!」
「くっ・・・そうですねっ!あんまりにも可哀想で、私の感情が複雑骨折したようです」
・・・リヒターも相当変わっている。こんなだから、この容姿とスペックでまだ独り身なんだろうな。
でも、これは本当に予想外だ。じゃあそもそも、ヒロイン探しって、無駄じゃない?それよりも、レオンの好きな子が誰かを突き止めて、その子にちゃんと想いが伝わるようにフォローしてあげるのがいいよね!もちろんそのフォローは、悪役令嬢流に完璧に努めさせていただくとして!
「──ねえ、ダメ元で聞くけど、その子が誰かは教えてくれないのよね?」
「そうですね、流石に私の口からはちょっと・・・」
「やっぱダメかあ」
「いっそのこと、殿下ご本人に聞いてみてはどうです?」
「だって、そんなことしたって絶対に『それは君だよ』とかって冗談言って終わりよ?前に、似たようなことを質問したことがあって・・・あー!そういえばレオンがあの時、自分は『ときめく恋、燃え上がるような恋』をもう知ってるって言ってたわ!」
「へ・・・へえ?」
「それで私が嘘だ、本当なら、相手は誰なんだって聞いたら、『君だよ、ローザ』って、ふざけてごまかしたの!じゃあ、恋を知っているっていうの自体は、本当だったのね!?」
「はははは・・・(なんだあいつ、もうそんなはっきり伝えてんのかよ!?それでこうも伝わっていないとか──あまりにも不憫だな・・・なんか、こっちまで泣けてきた・・・)」
と、ここで私はある事実に気づいてしまった。そうか、もしやこれがそういう意味だったとしたら──!!
「どうしようリヒター・・・私、わかっちゃったかも──!!」
最後までお読みくださりどうもありがとうございます!
改めて言います。ローザは思い込みが激しい子です。
明日も18時にアップ予定です。




