第四話・忍び寄る影(1)
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だんだんと日も傾き、樹の祭壇が夕焼け色に染まる頃――。
すっかり心地よく眠ってしまったレオンは、カラスのカァカァカァという声で目を覚ます――。
隣にはまだ寝息を立てているリオン、ダフネと気持ちよさそうに眠るフィトの姿があった。警戒もせず眠りこけてしまった事と、もう日が暮れ始めている事に驚き「あー、何やってんだかなぁ……」と、ポリポリと頭をかく。
すると――。そこに誰かの気配を感じ、横目でちらりとその存在を確認する。その視線の先には――見張りをしてくれているゼフィランサスの姿があった。
いるならいるって言ってくれりゃいいのに……などと思いながら、警戒心を解き過ぎてしまった事を詫びるように「……悪い。俺たち寝ちまってたのか」と、こちらから声をかける。
振り向いた彼女の顔には眼鏡はかかっておらず――知的さの奥にどこか儚げな美しさが垣間見えた。そして腕組みをして『……冥界の門番ともあろうお方たちが、そろいもそろって居眠りとは感心しませんね』と、その雰囲気に似合わないセリフを呆れ顔で言い放つ。
「う……いや、その……悪かったって。今後は俺たちも気を張って待機しとくよ」
『……くれぐれもお願いしますね。後でダフネ様を護衛するための陣形や作戦会議を執り行いましょう』
「あ、あぁ。……そういえば、眼鏡かけてないんだな?」
話をそらすつもりはなく、ふと気になった事を聞いたつもりだったのだが――ゼフィランサスは眼鏡の話題に触れた途端、はっとした顔をして頬を両手で覆う。
『……さっき木にぶつかった拍子に、何処かに落としてきたんだわ。一体どこに……』
「木にぶつかった……?」
『……な、なんでもないんです! 忘れて下さい!』
ゼフィランサスは心底取り乱しながら、眼鏡を探しにそのままどこかへ飛んで行ってしまった。
それにしてもあの丸眼鏡、どこかで見たような……? などと頭をひねっていると――「やば!? 僕ってば寝ちゃってた!?」と、隣で寝ていたリオンが慌てて飛び起きた。
「兄さん、ずっと起きてたの?」
「や、俺も寝ちゃっててさ。さっき起きたとこ」
「何かふわ~っていい匂いがしたと思ったら、いつの間にか寝ちゃったんだよねぇ」
「俺もそんな匂い、嗅いだような気がすんだよな……まさか、何かの罠か?」
犬耳兄弟がそんな話をしていると――『……ちゃお☆ それ、ダフネ様のせいだよ~ん』と、月桂樹の陰から今度はルルディが現れた。
ふたりはその言葉の真意が読めず「「ダフネ様のせい?」」と、そのまま言葉を投げ返す。
『……そうそう! ダフネ様が光合成をしてる時って、身体から睡眠作用のある香り成分――精油を分泌してるんだよね。においのするものは必ず揮発するって言って――液体が常温になって発散する事が物質がにおう事に繋がるんだよ! 花の揮発性物質は小さくて軽いから、身体に入って行きやすいの。だから、アンタたちはダフネ様の精油を吸ってお眠になっちゃったってわけよ!』
「精霊によって、本当に色々な力があるんだねぇ~」
「ってことは、さっきのゼフィランサスの話しは怒られ損かよ……はぁ」
リオンが「ナニソレ?」と、レオンに話している最中も、ルルディのおしゃべりは止まらない。
普段、説明役はゼフィランサスが請け負って動いてしまうため、ここぞとばかりに知識を披露したいのだろう。
『……ただ――普段はその力はコントロールしてるんだけどさ? ダフネ様の場合、自分が眠くなったり完全に眠っちゃうと精油のコントロールが出来なくなっちゃうわけよ。大精霊なだけあって光合成で産まれるマナの量は甚大なの! だから、ダフネ様自身もすぐに眠たくなっちゃうんだよね。……ちなみにちなみにぃ! アタイの精油の効果は、麻痺~! ……って、聞いてんのアンタら!』
「あ? ああ、聞いてるよ。説明サンキューな」
そんな話をしているうちにだいぶ日は暮れてしまい、ようやくフィトとダフネが目を覚ました。
寝まいと気張っていたフィトは「あれぇ? いつの間にか意識がなくなっちゃってたよぉ……」と、目をこする。
辺りが暗くなってくると――月桂樹に包まれた精霊石と共に、地面に映えているクリスタルが桜桃色に光り出す――。
すると――ダフネとルルディの身体から、小さなピンク色の光の粒が溢れ出した。
「わぁっ……!? すごいすごいすごーいっ! これ、どうなってるの!?」
「うひゃぁ~すごいねぇ! これ、土の祭壇で見た光の粒と同じやつだよね?」
「あんときは琥珀色だったよなぁ。……にしても、綺麗なもんだな。土の祭壇で見た時は、この光の粒が精霊なのかとばかり思ってたんだよ。あの後、実際精霊に会ったし答えは全然違かったんだけどな。これはやっぱり……マナか?」
興味深く光の粒に見とれる三人に、光の粒を纏ったダフネは『……そうよ~。この光の粒は、ぜ~んぶマナなの~』と、にっこりと答える。
そして――ルルディの肩をぽんと叩き、またも説明役をバトンタッチした。月桂樹の眠り姫は、どうやらかなりのめんどくさがり屋らしい。話好きのルルディはこれまた嬉しそうにその役を買って出た――。
『……マナは太陽の光で生成、蓄積されて――月の光でこうして放出される仕組みになってんの! それぞれの祭壇で精霊と精霊石によってつくられたマナは、月の光と共に世界中を巡るって感じね! この世界――アスタルジアの大地も、植物と同じよね。日の光でエネルギーを蓄えて、皆が生きるために、世界が回っていくためにエネルギーが巡っていく――ってな感じ! これにておしまい~ちゃんちゃん♪』
ルルディの話を聞いてフィトはぺちぱちぺちぱちと、とても楽しそうに拍手を送っている。
魔法を使うレオンとリオンも、詳しいマナの産まれ方や目に見えて存在している事などを知らなかったので、ここではっきりと知ることが出来てよかったと思うのだった。
「フィト、もしかして海の光もこれと同じ現象だったんじゃねーかな?」
「あっ! そうだよね! あれもマナだったのかなぁ……?」
「たぶんそうだと思うぜ。……なぁ精霊さんたち。マナってのは、海面をうろちょろしたりもすんのか?」
『……ええ、しますよ』
レオンの質問に対し――、さも当たり前のようにここにいたと言わんばかりに答えるゼフィランサス。
どうやら眼鏡が復活したらしい。くいっと得意気に大きな丸眼鏡を直して『……あなたが言ってるのは、海面を舞う光の粒の話し、ですよね。それはきっと水のマナだと思いますよ』と言葉を続けた。
長年謎だった不思議な光の粒の正体が分かったので、フィトはかなり嬉しそうだ。「そうだったんだぁ!」と、何度も頷いている。
「へぇ~。……って、ゼフィランサスお前どっから現れた!?」
『……いましがたですが,何か?』
不思議そうに首を傾げながらそう短く答えると『……ダフネ様、ただいま戻りました。そろそろ行かれますか?』と、ゼフィランサスは問いかける。
『……そうねぇ~。ゼフィランサスも戻って来た事だし、行きましょ~か』
「あの、ダフネ様? 行くってどこに行かれるんですか?」
『……水浴びよ~。毎日の日課なの~。光合成をした後は、水分が欲しくなっちゃうからぁ~マナを放出させながら、水浴びをするのよぉ』
「へぇ~! 水浴びって、なんか精霊っぽい!」
『……うふふ~。だって、精霊だもの。フィトちゃんも一緒に行きましょ? 水浴び女子会、楽しそうじゃな~い?』
水浴びという言葉を聞いて「水浴び……」「水浴びねぇ……」と、レオンとリオンはつぶやいていた。
光合成して水やりして、樹の精霊は本当に植物そのものだなーなどと、この犬耳兄弟は根っから理論的な事を考えていたのだが――『……いま、いかがわしい事を考えてたでしょう』と、突然ゼフィランサスに言われて思わずぎょっとする。
すると――弁解の余地もなく、女性四人から厳しい視線がふたりに向けられた。
『……ほらやっぱり。うろたえてるのが何よりの証拠だわ。獣は所詮ケダモノって事かしら? 汚らわしいわね』
『……やだ~サイテー! 怪物って超野蛮~!』
言いたい放題なゼフィランサスとルルディの言葉に続き――「レオンとリオンのえっち!」と、顔を赤らめてフィトは言う。ぷいっとふたりから顔を背けて、精霊たちと共に黒髪少女は歩いてってしまう。
そしてトドメとばかりに――『……覗いちゃダメよ~?』というダフネのセリフによって、その場は幕を閉じた。
その場にぽつんと取り残された怪物ふたり。
純粋な彼等には、いささかいまのやり取りが対処不可能の事案だったらしく――。
特にレオンの方は顔を赤くしてただ立ち尽くしていた。
「……兄さん」
「なんだよ」
「……えっち、だってさ」
「あぁ……」
「言いたい放題言われて濡れ衣着せられて悔しかったけどさ……フィトもあんな顔、するんだねぇ。恥ずかしそうな顔、すっごい可愛かったかも……」
「あぁ……」
それぞれ放心状態の兄弟は、しばらくそのままだったという――。




