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幻葬記  作者: ことは
第3話:式
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おまえの頭の中は一体どんな構造なんだよ……

 相模陽絽(さがみひろ)はターゲットを追っていた。

 そのターゲットとは……。


「ガウ! グルルルル」


 犬。野犬だ。だがその「中」にいるのは妖影(あやかげ)

 犬だけにすばしっこい。最初は野犬の中にいる妖影との分離を試みたが、癒着が強すぎて無理だった。仕方なく封じることにしたのだが、大型犬に似つかわしくない身軽な動きをする。


 人への危害を避けるため、住宅街から人目のない路地へと犬を追い込む。

 走りながら陽絽は携帯を出しリダイヤルボタンを押す。即通話が繋がった。

由姫(ゆき)! 追い込んだ! もうすぐ着く! 動きを鈍らせるだけでいい!」

 待機していた今河由姫(いまがわゆき)に伝える。


『了解です』


 由姫の返事を聞くのとほぼ同時に、追いかける犬がコーナーを曲がった。一瞬その姿が消える。


「ギャウウー!!」


 苦しむ声があがった。陽絽はすぐに追いつくと、目の前には護符を体に貼られて苦しむ犬と、由姫の姿。


「でかした!」


 陽絽は走ってきた勢いのまま、剣を召喚すると一気に犬めがけて振り下ろした。

 閃光が走る。


 野犬は奇声をあげながらその姿を消滅させた――――。


「手こずりましたね」

 由姫は消えた犬がいた位置を見つめながら言った。本来なら陽絽一人で手打ちにする予定だった。由姫はあくまで予備だ。

「ああ、悪かった。思った以上にすばしっこくて、狙いがなかなか定まらなかった」

「犬でしたしね。猫なら見失っていたかもしれませんね」

「イヤなこと言うなよ」

 陽絽は苦い表情になる。

「大丈夫です。そうなっても見つけます。この辺の地理は全部頭に入っていますから」

 すごいことをしれっと言う由姫に陽絽は顔をひきつらせた。

「おまえの頭の中は一体どんな構造なんだよ……」



※※※



 本部では藤真悠夜(ふじまゆうや)浅木志織(あさぎしおり)がそれぞれのデスクで事務処理を行っていた。

 掛け時計は夕刻の時間を指している。


 スタッフルームの扉が開いた。


「戻りました」


 帰ってきたのは(ほのか)だった。「おかえりー」と志織が声をかける。

「捷さん、上ですか?」

「ええ、仕事をしてるわ」

「じゃあ、報告に行ってきますね」

 鞄を自分の席に置くと仄は出て行った。

「仄は捷の手伝いですか?」

 悠夜が尋ねると志織はタイピングしながら答える。

「そう。頼まれた護符の清めが終わったのを、他の支部に届けに行ってたの」


 護符はそれ自体に強力な破魔の力があるが、力のある術者が清めることでその効力は数段増す。神景捷(みかげすぐる)はその清めができる術者だった。その為、他の支部から頼まれることが多い。

 妖影と対峙するわけでもなく、身内への「おつかい」で危ないこともないので、捷は仄に任せることがよくあった。

 だがそれはそれで別の危惧することもある。

 戻った仄への捷の第一声はほぼ決まっていた。


「支部で変な男たちが寄ってきませんでしたか。何かあったらすぐに言うんですよ」

「ないです!」


 妖影の心配はないが、悪い虫がつかないかの心配がある。とにかく大変な美少女だ。いくらでも心配はつきない。

 執務室(うえ)でどんなやり取りが繰り広げられているか容易に想像していると、今度はドカドカと大きな足音を立ててドアが開いた。


「帰ったぞー」


 陽絽の後に続いて「ただいま戻りました」と言って由姫が入ってきた。

 自分の席に座ると、陽絽は一度大きな伸びをした。反対側に座る悠夜が声をかける。

「陽絽、お疲れさま」

「おう」

「分離はできたの」

「いや、ムリだった。封じた」

「そう」

 短い会話の中に感傷的なものはない。ただ事務的なやり取り。神影(みかげ)の本質は、『狩る者』だ。妖影を野放しにはしない。どんな手段を使っても消す。それだけだ。


 志織と由姫はこの後の食事をしに行く話をしていた。

 ほどなくして仄が降りてきた。帰ってきていた二人に気づくと笑顔を見せる。

「陽絽さん、由姫ちゃん、お帰りなさい」

「おう」

「仄さん、ただいまです。どこも怪我してませんか」

 由姫が仄にくっついてきた。「わたしはおつかいだよ~」とぎゅっと抱きついてきた一つ下の子をポンポンと叩く。

「仄さん、今日はもうあがりですか? 志織さんとご飯に行くんですが一緒にいきませんか」

「いいなあ。でもちょっとやることがあるから、また今度ね」

 そうですか、と由姫は少し寂しそうだった。

「女子会プランはいつでも使えるわ。仄、次は一緒に行きましょ」

 志織に言われると仄は嬉しそうに頷いた。


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