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幻葬記  作者: ことは
第18話:素直
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素直 ~こぼれ話~

 地下で所蔵している式札を紗也夏が要のいる離れに持ってきた。

 

 そっと手渡す彼女の表情から要は式札の状態を悟る。

 無言で頷いて受け取ると、紗也夏は目礼だけをしてすぐに部屋を出て行った。

 

 残ったのは(あるじ)と式札一枚。

 

 要はそれを文机の上に置くとしばらく静かに見続けた。

 色あせた式札。その中にいる『式』はまだ自分が十代の頃に封印した妖影だった。

 ふっと要の生成りが動く音がした。右手をそっと式札の上へと置く。


「……聞こえるか。私だ」


 静かに語りかける声は優しく温かさを感じる。

 ――――カサリ。

 主の声に反応するように札が僅かに動いた。だがそれ以上は何も起こらない。

 ……寿命が近づいた『式』はすでに姿を変える力も残っていなかった。要は式札をなでる。

「おまえとは長い間、共に過ごしたな。よく今まで私の使役をしてくれた」

 話しかける要の右手に術力が宿る。しかしそれは決して攻撃するものではなく、『式』を使役から解放するもの――――……。


「ご苦労だった。静かに眠れ」


 主からの最後の『命令』。

 その声はどこまでも深く、想いのこもった声音だった。

 要の力に呼応して式札が光り出すと、そのままゆっくりと浮かび上がった。要はその様子をじっと見守る。

 ……うっすらと式札の姿が薄くなってきた。自然へと還るために。

 

 少しずつ。少しずつ。……光の方が強くなる。

 やがてその姿が空間と溶け込もうとした――――その最期の瞬間、式札から『式』が姿を見せた。

 光に阻まれ、その姿はとても見えにくいものではあったが、『式』は確かに要に向かって笑っていた。

 その笑みを受け止めるように要も優しい瞳で見送る。


 そして光が弾けると、『式』は自然へと還って行った……。


 部屋には要一人。

 伏せた顔から今、その感情を計ることはできない。

 これまでも『式』を見送ってきた。しかし、何度やってもいつも思い悩む。


 ――――自分は彼らのとって相応しい主だったのかと。


『式』は最後に笑ってくれた。それが救いだった。

 これからも自分は何度も内省(ないせい)を繰り返すだろう。

 そして前へ進む。

 護るべきものを護るために。


 要は顔をあげた。切れ長で整った顔立ち。その冷静な瞳の奥には強い意志が感じられた。

 もう一度、自然に還った『式』が『いた』空を見る。

 そして。


「おまえと会えてよかったよ」


 小さく呟いた。


end.


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