すごいよ。素晴らしい力だね。
まばゆい光が部屋を包みこむ。その輝きを放つ源は――――咲宮仄。
襲ってきた大量の黒影達は白い光に包まれると、ゆっくりと悲鳴をあげることなくその姿を消していく。
しかし、本体となる男は白い光の部屋にいても、未だ苦痛の表情を浮かべたままだった。仄は将護の腕をすり抜けると男の方へ歩み寄る。
制止する者はいない。正しくはすることができなかった。
どの術者も仄から放たれる白い浄化の力に圧倒されていた。
仄は男の前に立つと、迷いなく背伸びをしてその男を抱き締める。男は言葉にならない声を発していたが、奇声をあげることはなかった。
浄化はまだできていない。
あまりに深い石の鎖の力に、まだ仄の力が届ききってはいなかった。仄は部屋全体に照らす光を男の体だけを包むように凝縮していく。
男の体だけが白く輝く。
「……何か見える?」
仄が妖影に語りかける。それに妖影がゆっくり答えた。
「光……ガ、」
「そう。じゃあその光に意識を向けて進んでください」
「うウ……」
「大丈夫。信じて」
優しく妖影に語り続ける。暫くすると、少しずつ男の体の輪郭はぼやけて薄くなってきた。それと同時に表情も和らぐ。
白い光の中へ消えかける直前、男は言った。
『……ありがとう』
そう告げるとその体は完全に光の中に溶け込んで消えた。
妖影が浄化されると部屋は元の静けさを取り戻す。
すぐ傍には妖影にはめ込まれていた石が落ちていた。仄がその場にへたりこんだ。
「仄っ」
近くにいた悠夜が駆け寄り、今にも倒れそうな仄の体を支えた。
「悠、夜さん……」
憔悴した顔を上げ、自分を支えてくれている悠夜へ力が入らないながらも何かを伝えようとした。
「石、妖影じゃ、ない」
「妖影じゃない?」
悠夜は仄の言葉を反復する。無数の妖影達を縛っていた目の前に転がっている石。
妖影を入れた石ではないというのか。
――――では、一体これは何で成り立っている?
そう疑問に思った時、床に落ちている石が急に鋭い光を発した。反射的に悠夜は仄を庇う。
石は特に何かを仕掛けがあるわけでもなく、ただ強い光を放ったままだった。
間もなくそこから雑音に交じった声が聞こえてきた。クリアとまではいえないが、雑音の声が徐々に確かなものになる。
『……、俺のこの声が聞けるってことは妖影を浄化できたんだね。すごいよ。素晴らしい力だね。……仄』
名前を呼ばれた仄はビクリと体を震わせ、悠夜の服を掴む手に力が入る。
悠夜はその震える体を落ち着かせようと抱きしめながらも、石からの言葉に耳を傾けた。
崇王奏十の声ではない。若い、別の男の声だ。
『でも、あまり綺麗事ばかりに拘っていると、君自身が取り返しのつかないことになるよ。これは俺からの忠告』
ああ、それから、とさらに男の声が続く。
『この石には触れないほうがいいよ。これは妖影じゃなく、俺の力を凝縮しているものだから、触れると感覚神経がやられるからね。……じゃあ仄、またね』
一方的な男のメッセージが終わると、途端に石は粉々に砕け灰と化した。それは前日、悠夜が見た石の最後と同じ光景だった。
――――しばらくの間、その場にいた誰も言葉を発することができなかった。




