確実に潰しましょう
朝、二日ぶりに公園へ訪れた咲宮仄は縁のある木の前に立っていた。
正しくは、木が『あった』前に立っていた。
樹木が存在していたはずのそこは、今ではその痕跡は確認できず、不自然な空間だけができあがっている。
少女はその場所をただじっと見つめた。先日、見知らぬ男が樹木を消しさる夢を見た。
動けない自分に代わり、藤真悠夜と千景将護に確認をしに行ってもらったのだが……。
夢は現実となっていた。二人が訪れた時にはすでにこの状態だったらしい……。
――――風が頬をかすめる。
周辺の木々が葉を重なり合わせ音を奏でる。その音を聞きながら、
「……ごめんね」
小さく呟いた。
木々達は静かに葉の音を奏で続けていた――――……。
本部最上階の執務室では神景捷と千景将護が話をしていた。内容は昨日の廃墟ビルでの一件についてだ。
「昨日、もう一度見てきたが変わりはなかった」
「そうですか。「彼」はどうでしたか?」
「彼」とは無論、崇王奏十のこと。
「人がいる気配はなかった。おそらくあの建物は「棄てた」んじゃないかと思う」
「確かな確認が必要ですね。棄てたにしても内部の状況が知りたい」
「ああ。複数の妖影の気配はしていた」
「強い力に寄せられてきたんでしょうね」
捷はまだあそこには『何か』あると判断する。そして。
「確実に潰しましょう」
決定を下す。漆黒の瞳に迷いはなかった。側近も異論はない。それが一番いい。
「メンバーは?」
将護ひとりでカタをつけるには無理がある。チームで動くのが得策だろう。
側近の問いかけに捷はすでにそのことを決めていたのか、にこりと笑った――――。
**
悠夜は妖影を追っていた。
事前に渡された資料通りの俊敏な動き。悠夜は冷静にその後を追う。
妖影は男の姿をしていた。体を乗っ取った「それ」は見た目は人間となんら変わらない。今は一般人があまり通らない小道を逃げているが、人通りに出られたら厄介だ。
悠夜は地面を蹴って悠夜は一足飛びに切り掛かる。右手には長剣。妖影目がけて振り下ろす。狙いに狂いはない。
だが――――。
「!」
振り下ろした悠夜の剣筋を妖影は寸でのところでかわした。そしてその体はバランスを崩し横の石垣にぶつける。悠夜は妖影と少し距離を取って着地した。
……どういうことだ? 距離も角度も振り下ろすタイミングも問題なかったはずだ。
なぜかわせた?
悠夜は相手から視線を外さず状況を整理していると、息を乱した妖影が石垣にぶつけた肩を押さえながらこちらを見た。その顔は歪んだ笑みを浮かべている。
「……納得いかないという顔だな」
「……」
悠夜は眉を顰める。何かあるようだ。妖影は不気味な雰囲気を纏いながら悠夜に向き合ったと思った瞬間、高速で襲いかかってきた。
「っ!」
逃げていた時より数段早い動きに悠夜は後方へとその身を翻す。妖影は悠夜が先ほどまで立っていた所で止まるが、勢いを殺せず躓いて片膝をついていた。
「――――?」
自分の体をコントロールできていない?
悠夜は注意深く観察する。妖影は肩で息をしている。呼吸もとても荒い。そしてその顔は……。
「……ぐ、グウっギギ……」
人の姿をしていたが目は正気を逸脱していた。
この数分で変貌したのだ。何がどうなっている。妖影の異変の元凶を突き止めたかったが、正気を失くした相手に尋問は不可能だと結論した。。
当初の予定通り、――――妖影を狩る。
悠夜は刀身を妖影に向けて構える。その瞳は戦いの中で生きる者の目だ。奇声をあげた妖影がまた突進してきた。今度は外さない。先ほどよりも高速で剣を振り下ろす。
悠夜の一太刀が妖影の体を貫く。
絶叫。
刀の受けた妖影は耳につく悲鳴と共にその姿を現世から消した。
――――カツン。
小さな物が落ちる音がした。地面に何か転がっている。それは小さな――――石。
悠夜は瞳を見開く。石はどす黒く瘴気を帯びている。この数日で何度も見た石。これが妖影の力を増幅させていたのか……。
こんなものを作る見えない相手に嫌悪感を抱く。一体何が目的なのか。
石を拾おうとしたら、効力が失われたのか触れた瞬間、形は崩れ灰の砂となり風に乗って消えていった。
悠夜は石の残像をしばらくの間動かず見ていた……。




