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幻葬記  作者: ことは
第9話:対峙
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もちろん破壊する

 ビルの中は外の天候が悪いせいか、窓から入る光はほとんどなく、薄暗い。

 

 ヒヤリと流れる冷たい冷気が肌を刺す。

 暗闇の中、将護は迷うことのない足取りで、地下へと続く階段を降りていく。降り着ついた先にはさらに長い廊下が続いていた。

 前を歩く将護が突然、足を止めた。止めた瞬間、将護が纏う空気が変わったことに悠夜は気づく。

 前方を見据えたまま、将護は動こうとしない。

 悠夜は彼の肩越しから暗闇が続く廊下の先を見つめ、息を飲んだ―――……。


 暗闇の先では人影が立っていた。

 そして人影の輪郭を捉えると、悠夜は目を見張った。――――影の正体は崇王奏十だった。

 奏十は侵入者である自分達に気づいていたのか、口元に笑みを浮かべた状態でこちらを見ていた。

「よう、悠夜。気配が掴めないから誰かと思えばお前だったんだな。……もう一人は、少し前からこの辺を嗅ぎ回っていた奴か? なかなか尻尾が掴めなくて参ったぜ。やっと顔が拝見できたな」

 楽しそうに話す奏十の声からは親近感さえ感じられる。だが対照に将護は違った。


「悠夜、下がってろ」


 短く悠夜に告げ、(ふところ)からナイフを数本取り出し奏十へと投げつけるとそのまま一足飛びで跳躍し、奏十へ切り掛かった。

 将護の行動に驚くこともなく奏十は飛んできたナイフを軽く体を動かして交わすと、自分も前に出た。

「将護さん!!」

 悠夜の鋭い声と同時に、二つの大きな力がぶつかり合う音がした。力の風圧で周辺の壁には亀裂が入り、砕け、砂ぼこりが舞う――――。

 悠夜は目を凝らしながらも、二人の影の動きを見逃さなかった。

 砂ぼこりが晴れる……。

 二人の男は互いに僅かな間合いを取って構えていた。奏十は変わらず楽しそうに笑い、将護は無表情に奏十を見据えていた。

「あんた強いな。しかも並の強さじゃない。もしかすると悠夜より強いかもな」

「……本当にそう思うか?」

 その問い掛けに奏十は不敵な笑みを浮かべた。

「なあ、ちょっと話しをしないか? 俺、あんたの事知らないし」

 将護の問いには答えず、奏十は話題を将護自身へと変えてきた。

「俺の事もけっこう調べてるのか? あんた強いし、俺も興味ある――」

「必要ない」

 奏十の言葉を遮って切り捨てると、将護は奏十へと踏み込んだ。

 通常の人間には目で追うことが困難なスピードで将護は攻撃を繰り出すが、奏十はその全てを交わす。その顔には余裕さえ感じさせた。そして、

「話は聞こうぜ」

 一言、奏十はそう言うと、防戦一方だった体制から右腕が持ち上がる。先端の右手の(こぶし)には強い力が込められていた。奏十の動きに将護は殺気を感じる。

 ――――来る。

 奏十からの攻撃が分かっていながら、体がついていかない。このままでは交わせず直撃は免れない。考える余地を残されないまま、迷いのない奏十の力が襲ってきた。


 再び強い衝撃音が鳴り響いた――――。


 衝撃音が鳴り響く。強い衝撃破の余韻で建物が揺れたのは錯覚ではない。

 ――――恐ろしいほどの攻撃力。

 だが、奏十の力は将護へは届いていなかった。その力は、


 藤真悠夜によって止められていた。


 将護の前に立ちふさがる形で、召喚した自らの剣で受け止めていた。

 全身で奏十の力を防いだ悠夜は肩で息をし、頬からは攻撃を防ぎきれず、血が流れている。だが傷だらけになりながらも、瞳は鋭く奏十を睨みつけたままだった。奏十が少しでも動けばその瞬間切り込む目だ。

 そんな悠夜を奏十はじっと見据えた。そして――。

「やめだ」

 一言いうと、崇王奏十はゆっくりと数歩後ろに下がり腕を組んだ。戦闘体制を解いたのだ。

「お前ら早くここを出ろ。少し騒ぎ過ぎたから、俺の仲間が来るかもしれない。そうなると厄介だからな」

「……仲間? 石を作っている奴のことか?」

 剣を握りしめながら緊張を解いていない悠夜の固い声で問う。奏十はその質問に笑みを浮かべただけで答えず、将護を一瞥した。

「あんた、本当はこの奥の部屋を潰すつもりだったんだろう」

 将護は沈黙したままだ。奥?

「……何があるんですか?」

 悠夜も将護に尋ねる。将護が答える前に奏十が口を開いた。

「妖影の石を作っていたんだよ」

 悠夜は言葉を失った。あの石が自然のものではなく他者によって作られていたことは分かっていたが、まさかここで製造されていたとは……。

 剣を握る手に力が入る。その動きに奏十が気づいた。

「何をする気だ?」

「もちろん破壊する」

「やめとけ。今、破壊したって同じだ。作った奴をどうにかしないかぎり、なにも変わらねえよ」

 この男は自分の仲間を消さないと解決しない、と言っていることを自覚しているのだろうか。

 それとも、そのようなことにはならない世程の自信があるのか……。

 どちらにしても、引くわけにはいかない。作られていると分かっていて見逃すことなどできるはずがない。

 無言で剣を握り直した悠夜に、奏十はやれやれと肩を竦めるが、その場を動く気配はなかった。

 ――――通す気はないらしい。

 悠夜と奏十が対峙する。そして剣を構えようとした時、強い力で腕を掴まれた。掴んだ人物は千景将護。

「将護さん……?」

「退くぞ、悠夜」

 それだけ言うと、将護は悠夜の腕を掴んだまま、来た道を戻り始めた。

「っ! 将護さん!?」

 有無を言わせない力に、悠夜は困惑する。奏十は去ろうとする二人を止めることなくただ笑って見ていた。

 そして、引きずられるように去る悠夜に声を掛けた。

「悠夜ー」

 奏十の声に悠夜は睨むように顔だけ振り返る。それを確認するとクスクスと笑いながら言った。

「仄、気をつけろよ」

「――――っ」

 咲宮仄の名に悠夜は目を見張った。やはりあの浄化の時、崇王奏十は近くにいたのだ。仄の名を聞いた将護も一度立ち止まり、ちらりと奏十の方へ一瞥した。が、すぐにまた踵を返し、悠夜を連れ階段を上がってその場を後にした。

 奏十は追いかけることなく、二人がいなくなるのを面白そうに瞳を細めながら見送った――――。


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