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幻葬記  作者: ことは
第8話:浄化
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絶対に消させない

**


 外はだいぶ暗くなっていた。あちこちで外灯が照らされている。

 目的の森林公園に着くまでに、仄からおおよその話を聞いた。そして話を聞き終わると悠夜は、――――なるほど。変だな、と思った。


 目的の樹木は公園内の並木通りからだいぶ離れた奥深くにひっそりとあった。

 仄は樹木の前に立ち、話かける。


「ごめんね。遅くなっちゃったね」


 悠夜もその樹木を仰ぎ見るが、特に感じるものはなかった。

 感覚が鋭い仄にしか感じられないほどの気配……。

 確かに妖影にはほとんど力は残されていないようだった。だからこそ余計に疑問を感じる。

 いくら同化してしまったとはいえ、これだけ力がない妖影を相手に、そんなにも浄化が手間取るものなのだろうか。

 悠夜は思考を巡らせながら仄を見守った。

 仄は樹木に両手を添えて目を閉じ、一つ深呼吸をする。つぎの瞬間、両手からは白い柔らかな輝きが発せられた。

 

 浄化――――……。

 一部の術者しか持たない特殊能力。

 

 その中でも仄はより純度の高い浄化能力を持っていた。ほどなく、仄の両手の光りの強さが増す――。力を上げたようだ。

 見守る悠夜は少し目を細めた。膠着(こうちゃく)状態がしばらく続き、仄の額からは汗が流れ落ちてきた。

「仄、そこまでにしよう」

 悠夜は止めに入る。悠夜の言葉に仄は少し力を弱めた。だが両手は木に添えたまま浄化は続けていた。

「……悠夜さん。これ、おかしいです」

 視線は樹木に向けたまま、仄が答えた。

「うん。俺もそう思う。だから仄、一旦離れて――、」

「駄目です」

 悠夜の声を仄はさえぎった。

「今止めたら、妖影が消滅します」


 ――――消滅。


 仄の力でかろうじて生き長らえている状態。なのに、浄化できない。

「大丈夫。絶対に消させない」

 仄は強い意志で樹木へ話す。しかし、このままの力の解放は仄自身への負担もかなりのものになる。

 悠夜は再び制止しようとしたが、

「悠夜さん。捷さんには秘密ですよ」

 制止より先に、仄はこちらに顔を向け小さな笑顔を見せた。

「っ! 仄!」

 仄のしようとする事が分かり、悠夜は声を上げた。

 それが合図かのように、仄は先程とは比べものにならないほどの力を解放した。

 全身が白い輝きに包まれる。

 そして――――。


「……見つけた」


 まばゆい光りを放ちながら小さく呟くと、仄は樹木の正面に添えていた片方の手を木の後方へと動かし、切れ目から何か取り出したようだった。

「悠夜さんっ」

 一声上げて、悠夜の方へ取り出したものを放り投げる。悠夜はそれを掌で受けとめた。どうやら浄化の妨げになっていた物のようだ。

 受けとめた物を確認すると――目を見張った。掌の中では黒ずんだ石が不気味に輝いていた……。

 悠夜は鋭く周辺の気配を探る。この状況を観察している者がいると思ったのだ。

 これが仕組まれたことだとしたら――――。

 その時、仄から光が消えた。力を止めたのだ。

 ……樹木は何事もなくそこに立っていた。

 浄化は完了した。

 仄はゆっくり木から手を離すと、その場にしゃがみこんでしまった。

「仄!」

 悠夜が駆け寄ると仄は困ったように笑った。

「ちょっと疲れちゃいました」

 無理な力の使い方をしたのだから当然だ。

「……仄。あんな力の使い方をしたら駄目だよ」

「ごめんなさい。他に方法が思い浮かばなかったんです」

 謝る仄に、悠夜もそれ以上強くは言えなかった。彼女も必死だったのだ。

「悠夜さん、それ……」

 おずおずと悠夜が握りしめる石が気になって仄が聞いてきた。

「妖影、ですよね」

「……そうだね」

 確認する仄に苦い顔で悠夜は答える。そしてもう一度、周辺の気配を読む。

 異質なものは感じられないが、気配を消されては見つけることはできない。

「悠夜さん……?」

 心配そうに仄か悠夜の顔を覗き込んだ。……このままここにいても(らち)があかないか。

 悠夜はかぶりを振ると仄に視線合わせた。

「何でもないよ。仄、立てる?」

「はい。大丈夫です」

 差し伸べられた手に掴まり、少しよろめきながらも何とか仄は立ち上がった。と、同時に反射的に首を後ろへ振り返る。

「仄?」

 何かを感じ取ったのか、仄は後方の一点に見つめていた。

「悠夜さん。一瞬、すごい視線が……」

 目を凝らしながら見るが、それ以上は確認ができなかった。

「……戻ろう、仄」

 仄を促し、悠夜は早々に公園を出ることにした。深入りしないほうがいいと判断したのだ。

 万が一気配の正体があの男、――――崇王奏十(すおうかなと)だった場合、圧倒的にこちらが不利だ。しかも自分は崇王との戦闘を捷に禁じられている。苦い気持ちのまま、悠夜は仄を連れ公園をあとにした。


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