何なら、僕が手伝いましょうか?
※※
悠夜は惠との接触のあと、本部に戻ってきた。
スタッフルームの半透明なすりガラスの扉を開ける。
「よっ、悠夜」
陽絽が声をかけてきた。
「陽絽、お疲れさま」
悠夜はこたえると、陽絽の向かいの自席に座る。
「戻りが早いね。仕事、うまくいったの?」
「…まあ、仕事はなー。でもなー由姫がなー」
陽絽は歯切れ悪く答えながらパソコンに向かって何やら打っている。
「わたしがなんですか?」
書類などを保管している奥の部屋から今河由姫が現れた。
陽絽はげっとした顔になった。
そんな陽絽の反応など全く気に留めず由姫は言った。
「相模さん、報告書の提出早くして下さい。捷さんに怒られますよ」
「わかってるよ! 後、ちょっとだって!」
なんでおまえはもう終わってんだよ! という不満の声に、「能力の違いです」とスッパリ切られた。
16歳の少女に勝てない、20歳の男……。
この二人で任務とは、きっと仕事以外でもずいぶんと揉め事が絶えなかったことだろうと、悠夜は苦笑してしまう。
「由姫もお疲れさま」
「はい。任務よりも陽絽さんに疲れました」
それ俺のセリフ! と陽絽がまた噛み付いてくる。すかさず由姫は「報告書!」と一言いって黙らせた。見事なものだ。まだぶつぶつと文句を言いながらも、陽絽は画面に向かった。悠夜はその様子に肩をすくめながら、
「ほかの皆はどうしてるの?」
と同僚のことを由姫に聞く。
由姫は頭に入っている他のメンバーの予定を伝えた。
「志織さんも仄さんも出払っていますよ。藤真さんも任務中ですよね?」
「うん。捷に呼ばれて、資料を取りに寄ったんだ」
その時、噂の人物がドアが開けて入ってきた。――――我らがボスの登場だ。
「悠夜、来ましたか」
捷は悠夜に目を止め、柔らかい笑顔を向けた。
「あまりに遅いんで、待ちくたびれて寝てしまう所でしたよ」
……そう。いつも通り物腰は柔らかく、そしていつも通り毒舌だ。悠夜は眉をさげた。
「すみません。ターゲットを確認してたので」
「おや、そうですか。さすがは悠夜。仕事が早い。誰かさんとは大違いですね」
『誰かさん』が自分のことだと分かった陽絽は恨めしそうに捷を見た。
「陽絽、手が止まっています。いつまでたっても帰れませんよ」
そして陽絽が口を挟むより先にすかさず釘を指す。「くそ~」と一声不満の声を上げながら、陽絽は再びパソコンにかじりついた。
「悠夜、新しい資料です」
捷は持っていた資料を渡した。悠夜は受け取るとすぐに目を通し始めた。
「今回、サポートは必要ですか?」
「……そうですね」
捷の申し出に、悠夜は資料から目を離さないまま少し考える。
相手は女子高生だ。先ほどは警戒されずに接触できたが、やはり男一人だけで近づくには限界があるかもしれない。
……それに初見で見た限り、あまり悠長にもできなさそうだった。
「何なら、僕が手伝いましょうか?」
「……いえ。それは」
ボスに手伝ってもらうなど、とんでもない。それより何より、そんなことをされても全く意味がない。
警戒を持たれないように接触したいのに、こんな容姿の人間を連れていけば絶対に引かれる。解って言っているのだ。彼は。
「残念ですねー。では由姫、手伝ってあげて下さい」
「はい、分かりました」
案の定、捷は女子高生と同年代の由姫に補佐を命じた。由姫もすぐ承諾する。しかし、悠夜は少し戸惑った。
「ちょっと待ってください。由姫は任務から戻ってきたばかりじゃないですか」
悠夜の気遣いに由姫はにこりと笑った。
「平気ですよ。肉体派の人が一緒だったんで、わたしはほとんど動いていませんから、すぐに打ち合わせにも入れます」
「そうだー! こいつは俺を顎で使ってただけなんだー!!」
すかさず陽絽が加わる。
「わたしは頭脳派なんですよ。おかげで予定より早く仕事が終わったじゃないですか」
何度目かの陽絽の噛みつきにも、しれっと返された。
「陽絽は単純ですからね」
「はい。扱いやすかったです」
捷と由姫の容赦ない言葉に陽絽はついに切れた。
「こいつらキライだー! 悠夜っ! 俺がお前のサポートするから、今すぐ俺をここから連れ出してくれー!!」
無茶を言う陽絽に悠夜はやれやれと思いながら、
「とりあえず、報告書がんばろうか」
と言って宥めた。




