休み時間その3 ふふふ、魔王軍の未来は明るいぞ!!!
「ではあなた行ってらっしゃいませ。」
「ああ、テーケ、行って来る。」
ここは魔王城城下町にある、
魔王軍の官舎街。
その中でも高級士官が居住する、
一戸建て中心の区画において、
いつも通りオーギップ•テーケ夫婦の
「行ってきます」の挨拶が交わされていた。
「お父様、行ってらっしゃい。」
「いてらしゃい。」
「二人ともお母さんの言うことをちゃんと
聞くんだぞ。」
「「はーい。」」
大分しっかりしてきた長女スープ、
まだまだ言葉がはっきりとしていない長男ネクス、
愛する二人の子ども達に向かって、
訓練では決して見せない笑顔を振りまくオーギップ。
厳格な軍人も家に帰ればというのは
地球においても決してないことではないだろうが、
この家族の存在が魔王軍にとっても特に重要な
存在であることに触れておく必要があるだろう。
••••••••••••••••••
牛人族であるオーギップと
猫人族であるテーケ、
当時の兵団長候補と魔術師団の若きエースの結婚は
現在まで至る魔王軍の異種族間、異分野間結婚の隆盛の走りともいうべき事件であった。
二人が仲を深めたのは前魔王ナタスが倒れた後、
現魔王が即位して間がない頃であり、
魔王軍には
「我らが『結婚』などは•••」という
風潮が根強く残っている時期であった。
二人とも軍の再建を成し遂げるために
昼夜を惜しんで働いており、
自分達の幸せを優先するつもりなど
全くなかったのであるが、
そこで二人のキューピッドとなったのが、
他ならぬ現魔王だったのである。
現魔王は当時まだ若干16歳。
前魔王ナタスの指名とはいえ、
人間族の若造を魔王の座に据えるなど
前代未聞であり、
魔王軍でも彼を十分支持しないものが
多かったのが実情である。
そんな軍の不和を未然に防ごうと
奔走していた二人がある時現魔王に
揃って呼び出された。
「お前ら付き合っているというのは事実か?」
「「はい?」」
魔王城謁見の間でわざわざ人払いまでされたことで、
どんな危険な任務を仰せつかるのかと緊張していた二人は、
この魔王のあまりにミーハーな質問を受けて、
思わず臣下としてあるまじき反応をしてしまったのである。
その後我に返った二人は
「いやいや私めにはテーケ殿はあまりにもったいなく」とか
「オーギップ様にはもっと可愛らしい方がお似合いかと」とか
心にもない言い訳をしどろもどろでしたりしたのだが、
「面倒くさい御託はいいから、
『その気』があるのか、ないのか、はっきりしろ!」
と何と答えていいのか分からない無茶ぶりをされてしまい
困り果ててしまったのだった。
ただ魔王の方はその際の二人の互いを見つめ合った際の様子を見て、
「もうその空気作れるんなら大丈夫だろ。
お前ら結婚して、子どもを作れ!!」
と結論を出してしまい、
あれよあれよという間に
魔王主催の盛大な結婚式が行われることになったのである。
まあ、元々好き合っていた二人であるので、
特に問題もなくことは進んだのだが、
「この時期に不謹慎な」なんて不満を言っていた連中も、
二人の幸せそうな様子を見て、
「俺たち•私たちも」という空気が魔王軍全体に広がり始めた。
その空気を待っていましたとばかりに、
現魔王は異種族間の交流の推進や結婚の奨励などの政策を
彼独自の変態チックな趣味を絡めながら推し進め、
それと同時に本題である人間軍との戦いにおいても
連戦連勝をかざったものだから、
一気に彼の支持が高まったのである。
テーケとの関係を取り持って貰って以来、
それまで以上に現魔王に対して忠誠を尽くしてきた
オーギップであったが、
それは単に個人として感謝していたというだけでなく、
人間軍との戦いの成否を超えた、
魔人種全体の繁栄•融和という本来ならもっと重視されるべき、
しかしこれまでの魔王達からはないがしろにされてきた課題を、
奇抜な手段を用いながらも着実に実行しようとした、
現魔王の慧眼にいたく感服したからである。
一人の男性としては実にお固いオーギップが
この前現魔王の部屋に破廉恥な本を置いたりしたのも、
そういった魔王の作戦に感銘を受けてのことだったのだが、
そこまでは上司に十分に伝わっていないというのが、
人間と魔人の相互理解の難しさというものである。
とはいえ魔王軍の新しいリーダであるオーギップが
かつては対立することも多かった魔術師軍の女性と結婚したことは、
やはり魔王軍にとって非常に象徴的な出来事であったのである。
一つは前線ではオーギップが勇猛果敢に剣を振るうことで
本拠地の安定を図りながら、
一方後方ではテーケが子ども達を育てながらも、
現魔王の設立した魔術研究所で開発した
新しい魔術で前線をフォローする姿は
魔王軍の新たな夫婦モデルとなっていったという点である。
これは人材の数が人間軍に比べて圧倒的に不足している魔王軍において、
新たな世代の創出と人材としての女性の活用のバランスを
取る上で実に意義深いことであった。
加えて二人の結婚が異種族間の交流、融和を進める上で
代表的なエピソードとして機能しており、
内部での一体感に欠けていたことで
人間軍に対して不利になっていた魔王軍が、
その結束を増して行く上で有効に機能していたという点も
注目に値する部分であろう。
先日の合コンまがいのどんちゃんさわぎも
ふざけているようでちゃんと魔王軍発展のための
長期的な戦略に位置づけられたものなのである。
この結婚が持つ可能性はこれだけではない。
現状ではまだ十分な成果が現れてはいないが、
魔王はこの異種族間結婚が促進されることで、
新たな特性をもった人材が次の世代に育つことも
期待していたのである。
魔人種は人間族と魔獣種が何らかの要因によって
混血した種族であり、
その交配可能性の大きさから
より混血が進むことにより、
これまでには筋力•速度•魔力など特定の特徴を
持った種族が多かったのであるが、
それのハイブリットとも言える
新らしい種族•世代が誕生することで、
戦力の質が一気に向上することも考えられるのである。
まあ、混血の促進は文化的な摩擦も大きくすることから、
そう簡単に進むものでないため、
必ずしも彼の期待通りに行く保証はないが、
彼の計画が数年単位どころか、
世代を超えたビジョンに基づいていることは
魔王軍の未来を考える上で何より大事なことである。
•••それを魔王軍随一の知将である、
クイガームでさえまだ十分に理解出来ていないことは
大きな課題ではあるのだが。
•••••••••••
「では行って来るぞ。
「ねえ、お父様、今日は『おでかけのチュー』しないの?」
「ス、スープ!」
「•••子どもが見ている前でやるのも重要との
魔王様の仰せだしな。
テーケ、スープが他の子ども達に話す可能性もあるし、
どうだ?」
「も、もちろん、私は嫌ではありませんよ。」
まるで新婚カップルのように頬を染めながら
『おでかけのチュー』をする二人を見て、
子ども達も自分たちもとねだる。
結婚しても奥手な魔人達へのお達しと言うか
推奨事項として、
魔王は『おでかけのチュー』だとか
『ただいまのハグ』だとか、
そんな恥ずかしい地球の文化を導入したりもしている。
軍のトップに位置するオーギップとしては
率先してそれに従う必要があり、
こうしてためらいながらも毎日
家族でいちゃいちゃやっているのである。
そのおかげかは知らないがもうすぐ3人目も
生まれるとのこと。
ちなみに上記のようなお達しを出しておきながら、
オーギップの第三子誕生間近の報告を聞いて
「このリア充め!」などと矛盾した恨み言を
上司が言い出したことについて、
忠義深い彼は頑に沈黙を守っている。
•••まあ、理屈と感情は別問題ということである。
•••••••••••••••••••••
城に出勤したオーギップが
対人間軍急襲作戦のための会議に向かっていると、
その後ろにすっと近づく人影があった。
「おはようございます、オーギップ様。
各部隊の集合、問題なく完了しております。」
「うむ。
あとは部隊長に任せれば大丈夫だな、ウロド。」
「はっ。」
そう言って頭を下げるのは、
巨大な体躯を持つオーギップとは対照的な、
細く見目麗しい青年、
副兵団長のウロドである。
彼は妖精人族、いわゆる『エルフ』に良く似た種族の出身であり、
その適性は一般に『魔法』に向くのが通例である。
しかし彼は卓越した弓の腕前を持つことに加え、
魔王肝いりの『銃』の開発と運用を一手に任された、
兵団における中遠距離攻撃の要として活躍する、
一族でも希有な人物なのである。
牛人族や馬人族など力自慢で知られる種族が
これまで兵団の中心を占めていたことから、
非力な彼が副兵団長の職についたことに対して、
反感を覚える者も当初は少なくなかったが、
平時における的確な兵団運営と
戦地における悪鬼羅刹の如き活躍によって、
その地位に見合った大いなる尊敬を現在では集めている。
特に魔術師の数の不足を補うために、
現魔王が特に注力した『銃』を始めとした
火器の運用によって、
前線で戦う闘士達にとって恐怖の的であった、
部隊に対して範囲魔法を唱えられる危険性が
最小限に食い止められており、
そのことが前線部隊の彼への信頼を高める
大きな要因となっていた。
ちなみにこのウロドを見いだしたのは
部隊長時代のオーギップである。
魔法に強い種族の中で
その才能が薄いことで蔑まれていた彼の
隠れた才能を見抜き、
火器の開発という大プロジェクトの責任者を
誰にするか迷っていた魔王に推薦したことは、
彼が単なる猛将ではなく、
十分な慧眼を備えている名将であることを
指し示す事柄であると言える。
そのような恩もあって、
ウロドはオーギップに良く仕えており、
基本的には寡黙な彼に変わって、
力押しに向かいがちな部隊長を諌める
役割も担っており、
まさに兵団の頭脳であると言えよう。
そんな兵団の黄金コンビに途中で
並び立ったのが、
クイガーム•チバールの
魔術師団の幹部二人である。
先日思わぬ醜態をさらしてしまったチバールであるが、
現魔王の参謀的な役割も果たさねばならないクイガームに代わって、
彼女は師団の訓練、運用、風紀の維持に人生相談に至るまで、
そのほとんどを任されているまさに師団の顔というべき存在である。
細かい点はウロドに任せているとはいえ、
基本は常時兵団と共にいるオーギップと異なり、
参謀として戦時であってもクイガームは
魔王の元を離れられることが少ないため、
チバールにかかる責任は非常に大きい物がある。
それでも彼女が頑張れる理由とは何なのか、
それは•••
「クイガーム様、本日魔王様が出される作戦
どのようなものなのでしょうか?」
「私もまだ聞いていない。
ただ昨日実に•••
人の悪そうな顔をしていたことから考えて、
人間達にとってはたまらないものであることは
確実だろう。」
「クイガーム様の華々しいご活躍が見られる作戦であれば
非常に嬉しいですわ。」
「私が直接手を下さねばならぬ作戦等少ない方がよいのだがな。
まあ、全ては陛下のお考え次第だ。」
「もし私めが前線に立つ場合には
クイガーム様の前に敵の氷付けオブジェを
多数披露して見せますわ。」
「•••ほどほどに張り切ってくれ。」
彼女は
部下の前では厳格なお局様として辣腕を古い、
敵の前では『氷の女王』と呼ばれ恐れおののかれる
近寄りがたい存在であるが、
クイガームといる時はその行動原理は
少女のそれに戻ってしまうのである。
元々チバールはクイガームが直々に魔法の
手ほどきをした愛弟子であり、
魔術師としての順調な成長を嬉しく思っていたのであるが、
何を間違えたのかいつの頃からか、
自分に熱烈な好意を向け、
昼ご飯の時も晩ご飯の時も
機会を見つけてはすり寄って来る彼女に
どう対処すればいいのかホトホト困っているのである。
魔王や軍の同輩達からは
いい加減諦めて、
その好意を受け入れろと
言われているのであるが、
殆ど自分の娘のような存在である
彼女にそんな感情を抱くことは
彼にはどうしてもできないのであった。
魔王軍一の沈着冷静な人物と言われる彼らしく、
この件に関してもポーカーフェイスを
基本貫いているはいるが、
唯一盟友たるオーギップに対してだけは
ごく稀に酒の席でその悩みを吐露しているのである。
•••オーギップとしても二人の余人には計り知れない
関係性を良く知っているだけに何とも言えず、
珍しく愚痴っぽくなる親友の話をただただ聞くしか
ないのであるが。
そのため会議室に向かう場面においても、
オーギップは部下の熱烈なアピールに
戸惑う同僚を気遣って時折声をかけており、
その背後に激しい嫉妬の炎を燃やす
チバールの様子に苦笑しているのである。
そんな様子を見てウロドは珍しく
自らの上司が表情を崩していることに
無表情を繕いながらも内心驚き、
目だけでチバールとオーギップを交互に
見つめていたりするのである。
普通の軍隊であればあまりに不謹慎な状況と
批判されるのであろうが、
恐らくこれがあの魔王様が望む軍の姿なのであろう。
それを分かっているからこそ、
クイガームにとって、
この作戦会議に向かう道中は、
実に気が重いのである。
•••••••••••••••
「よし、良く集まってくれた。
それでは作戦について説明する前に、
各所の報告を聞こう。」
エニオーレに食らった正拳突きの
ダメージも無事回復し、
魔王様は元気一杯のご様子。
兵団、魔術師団の4人に加えて、
補給担当や魔王城守備担当の部隊長らの
報告を実に機嫌が良さそうに聞いていた。
作戦を考えている最中の魔王は絶えずイライラしており、
たまに意味も無く部下の報告に噛み付いたりするため、
今の状況は部下達にとっては望ましいものであるはずだが、
彼の考える奇抜な作戦の陣頭指揮役を任されることになる
最上級幹部4人はそれほど気楽な気持ちにはなれなかった。
実際4人全員が魔王の作戦のため一度は『とんでもない形』で
死にかけており、
魔王の考える作戦の有効性を信じながらも、
心のどこかで
「どうか普通に戦う役割が回って来ます様に」
と切に願っているのであった。
「それで今回の作戦だが、
まずこの前、豚人族の部隊の健闘により、
奪取した要塞を足がかりに、
そのすぐ南側、『竜の山』を守護するノガルド城を攻め落とす!」
「「「「オーー。」」」」
幹部達がうなったのも無理は無い。
『竜の山』とはこの世界の中でも有数の『竜種』の群生地である。
そこは多くの竜が飛び交う人間も魔人も簡単には入り込むことの出来ない
秘境であるが、その分貴重な鉱石や竜の遺骸など、
強力な武器や魔道具の原材料となる資源の宝庫となっているのである。
かつて魔王軍の勢力を一気に
人間に匹敵する程にまで高めた先先代の魔王リピードは、
破竹の勢いで攻勢を強めながら、
突然敗死してしまったのである。
魔王軍に壊滅的な打撃を与える奇跡を演出したのは、
竜の山から産出された非常に貴重な魔金属ソクライト、
それを惜しげも無く用いた対の宝剣、
聖剣ルビラックスと魔剣ニエラーベルであった。
この両剣を携えた伝説の勇者トラフトとその仲間達によって、
指導者たる大魔王を討ち果たされ、
人間の支配から脱却するという魔人達の悲願は
打ち砕かれたのである。
それ以降もこの地の資源を用いて作られた数々の名剣•魔道具が
魔王軍に大きな被害を与えており、
彼らに取っては是非にとも奪取したい聖地とも言うべき場所である。
しかし•••
「ただあそこは精兵中の精兵が詰めており、
魔導士長ソーブも魔道具を用いて
すぐに駆けつけられる状況にしていると聞きます。
狭い渓谷では奴の範囲魔法により一網打尽に
されてしまう可能性がありますが、
その対策は考えておられるのでしょうか?」
「当然だ。
奴と渡り合える魔術師はこちらは
クイガームとそして•••、
『俺』だけだ。」
「そ、それはつまり」
「ああ、俺が直接出る。」
クイガームの当然の指摘に対して、
魔王が参戦の意思を示したことで、
会議場の雰囲気が一気に緊迫した。
数で劣る魔王軍にとって
クイガームと並ぶ最高峰の魔術師であり、
人間軍から奪った数多くの宝物を使いこなす
魔王本人の戦力は、
重要な戦いでは決して出し渋れない戦力である。
ただエニオーレがいるとはいえ、
まだ世継ぎのいない状態で
彼を失うことは魔王軍全体の
崩壊に繋がりかねない。
それだけに彼の直接出陣に対しては
幹部達も慎重にならざるを得ない。
特に強敵であるソーブを相手にするとしたら、
もしやという危険性は排除出来ない。
さりとて竜の山を落とせる意義は非常に高い。
リピードを倒した後、
その悪用を恐れたトラフトによって対の宝剣は
封印されたと聞くが、
また第二、第三の宝剣が生み出されないとも限らないのである。
魔王による戦力の数と質を向上させる長期的なプランは
着々と進行しているものの、
あと10数年は現状の少数精鋭主義を貫くしか無く、
その精鋭を打ち倒す程の強力な武器を密かに
作り上げられるとやはり戦線が維持出来なく
なる可能性は高い。
それが竜の山を奪取すれば
逆にこちらが強力な武器を生み出し、
その精鋭をさらに強力にすることも可能なのである。
いつまでこの前奪った砦を維持出来るか分からない以上、
大きなチャンスであるのは確かなのである。
一体、どうするべきか。
会議場に重い空気が漂い始めた、
その時であった。
「っていうお膳立てを整えたら、
向こうさん、きっと食いついてくれるよな?」
そんな魔王の底抜けに明るい声が
会場に響いた。
その明るさに皆一様に戸惑った
顔をしていたが、
同時に何か沸き上がるものを
胸の奥に感じていた。
陛下がまたやらかす気だと。
「どういうことなのでしょうか陛下?」
「簡単なことだ。
これは大げさな陽動なのさ。
竜の山は確かに魅力的だが、
それこそ向こうが防備を固めたら、
俺たちが全軍を投入しても
攻略出来るかは難しい。
仮に攻略できたとしても、
長期間維持しなきゃうまみの無い場所であるが、
兵力不足の俺たちには難しい。
ならば『確実に取れる物』を取るべきだ。」
「『確実に取れる物』とは?」
「これはノイターン王国の首都ラーチカで
密かに流れていた噂なんだが、
昨日裏が取れたんだ。」
「一体、どういう噂なのですか?」
クイガームがあえて何も知らないかのように魔王に確認する。
魔王城の諜報部門を統括する彼には
主君の考えが途中から薄々分かっていたのだが、
主君が実に気持ち良さそうに話しているのだ。
その機嫌のいいまま種明かしをしてもらおう。
さてさて攻城戦ほどではなくても
これはこれで準備が大変だ。
どちらにしても大胆なことを考えるものだ。
「対の宝剣の片割れ、
聖剣ルビラックスの封印が解けかけているらしい。
今から2週間の後
隠されていたその聖剣が再封印のために
極秘裏にラーチカに持ち込まれるそうだ。
そこをいただいてしまおう。」
かつて魔王を打ち倒した聖剣を
今度は魔王が人間に向かって
突き立てる。
その事実は聖剣の威力以上に
人間軍を揺るがすであろう。
「もう一度奴らに吠え面かかせてやろうぜ!」
その鬨の声と共に
会議場の幹部達の顔に
大いなる士気が満ちる。
すでに彼らには成功への
確信が漲っていた。
うちのふざけた魔王様は
ヤル時にはヤル人だと
すでに何度も証明して来たのだから。
••••••••••••
現魔王が行った最初の作戦。
それは王都を急襲して、
宝物庫に眠る多数の秘宝を奪取することで、
自分達の装備としてしまうことであった。
今以上に弱小であった魔王軍は、
この作戦の成功を契機として、
今に至る基礎を築くことができたのである。
今回はその再来を目指す作戦であるが、
当時よりも遥かに大げさで
かつ獲物も大きい。
聖剣の奪取。
『奇跡の魔王』と呼ばれる
現魔王は今回も自信満々で大勝負に
打って出ようとしていた。
しかし今回は一つだけ
彼には大きな誤算があったのである。
首都を訪れようとする
『同郷人』の存在がいったい
どんな影響をもたらすのか。
神ならぬ彼には、
知る由もなかったのだ。
二人の邂逅の時は近い。
アリアンローズ新人賞応募作品です。
ギリギリで5万字に到達しました。
受理されるかは分かりませんが、
一応プロット送ってみようと思います。
いよいよ魔王軍出陣です。
イーコと彼の道行きがどう重なるのか。
次話をお楽しみに。




