#01「選択肢の中で炎を選ぶ」後編
「じゃあまたな」
あれから黒瀬律に沢山話しかけ、上手いこと記憶喪失に関わる話を聞き出そうとしたが上手くいかず適当にいなされ続け気づけばホームルームが近いからをあしらわれてしまった。
意図的にその会話を避けてるようにも感じたため、あいつは何かを知っているに違いないだろう。
それからは午前の授業を淡々と終わらせ、昼休みを迎える。ちなみに自己紹介の際、昨日調べたダジャレ?というやつをやってみたところダダすべりしてしまい、おかげで誰からも話しかけられることはなかった…トホホ。
隣の席の女子は怖がってどっかいくし…スタートダッシュ失敗した!!
律もどっかいってしまったし誰か一緒に話してくれるやつみつけないと昼休みをボッチで過ごすことになってしまう…それだけは避けたい!
だれか俺以外にも一人のやつがいればいいんだがな…
辺りを見回す…角の席に一人で座ってるやつを発見した俺は咄嗟にそいつの席へと駆け寄った。
「よう、お前一人?俺も食う人いなくてさ、よかったら一緒に食べない?」
「え、あ…うん、いいよ」
相手は少し戸惑いながらも同席することを承諾してくれた。
初対面の人に同席を懇願され承諾してくれるのはかなり寛大だ。
さぁてここから
俺が相手との距離をつめるために一肌脱ぎますか!
「俺、佐久間 旭!好きな食べ物はカップ麺!よろしく!」
まずは安定の自己紹介で攻めていく。
「あ、えと僕の名前は東雲 誠、好きな食べ物は…お寿司かな、よろしく」
自己紹介から柔らかい雰囲気が伝わる…律と会話した時とは大違いなほどに疲れない。
そこからはまず好きな教科の話や学校生活の話など他愛もない会話を交わす。
そこまでは順調だったわけだが…突如、誠から超難問級の質問が出される。
「旭くんはさ、昔何して遊んでた?」
記憶喪失な俺にとってその質問は結構きつい。
どうする?ありもしない過去を作って話すか?それともいい感じに流す?
思考を巡らせ最適を見つけようとする最中、名案が頭に浮かぶ。
そうだ、いっその事記憶喪失なこと言っちゃえばいいんだ!もしかしたら誠も律の時みたいになにか情報を持っててってことがあるかもしれない。
「俺、ここに来るまでの記憶なくてさ…ひょっとしたら記憶喪失ってやつ?だからなにしてたとか覚えてないんだよねー」
「え!?君も記憶喪失なの?実は僕もここに来る前の記憶がなくてさ…」
想定とは違う意外な反応を見せてくれたがこれでよし。しかしこいつも記憶喪失なんて、そんな偶然あるんだな。
「でもなんか不思議だよね、ここに来るまでの記憶が一切ないのに普通に生活できてるんだから」
ごもっともだ…俺は確かに記憶がないのに、なぜか普通に生活できてしまってる、記憶がないなら知識も同時にないものだと思っていたがそういうものでもないらしい。
「まさかこんな共通点があったなんてな…案外俺ら相性いいかもな」
なんて発言を誠はどう受け取ったのか少し照れくさそうに「うん」と答えた。俺は人生初めての友達?ができた!
ーーーーーーーーーー
「あー疲れたー!」
午後の授業を終え、あとは帰宅だけどなった俺は疲れを解放するように軽く背伸びをする。
今日授業を受けて感じたのは…学校ってのは意外と疲れるな。普段授業の内容は聞かないため、そこは問題ないがそれでも50分間座りっぱなしってのは疲れる。
俺は椅子から立ち上がり、帰宅の準備を始めるために机のサイドにかけてあるバックに手を伸ばす。
その時、地面に落ちていた一枚の学生証が目に入った。
「なんだこれ…学生証?…黒瀬律」
どうやらこの学生証は律のもののようだ。辺りを見回しても既に自分以外の生徒はいないためおそらく落としたことに気づかないまま教室を出てしまったのだろう。
職員室に届ける手もあるが生憎と今は職員会議中なので生徒たち入り禁止なのである。
こうなると本人を探して届けに行く必要があるので面倒だ。仕方ない…朝、会話相手になってくれたお返しだ。
「届けに行くか」
俺はバックを背負い教室を後にする。律探しの旅に出発だ。
まず一番可能性の高そうな玄関へときてみる。
そこに律らしき人はいなく、律の下駄箱には外靴が残っているため、まだ校内にいるのが確認できる。
次にいそうな生徒会室へときてみる。なんとなく生徒会室が好きそうな見た目してるからという理由だ。
生徒会室は鍵がかかっていて人気もしないため、ここもなしか。
あとありそうなのは…体育館か?
体育館へと着いた瞬間、床からドンドンと音が鳴っていたのを聞いたため、一応で柔剣道場へと足を運んでみる。柔剣道場に顔をちらっと覗かせた瞬間…謎の物体がこちらへと飛んでくるのが確認できた俺は咄嗟に転がり避ける。
「うお!あぶねーな」
なにが飛んできたんだ?…人?それは人のような形をしていて一定時間経つと消滅してしまった。
俺は好奇心で柔剣道場を再び覗いてみる…とそこには律ともう一人…この学校の生徒らしき人が戦っていた。
でもそれは普通の戦いではなくて律が飛ばした音符?をもう一人が分身を呼び壁にしている。
「どういうことだよ…」
俺は困惑のあまり膝から崩れ落ちた。その音に気を取られた律が一瞬反応が遅らせてしまい、その隙に分身たちに抑え込まれてしまう。
やべえ!俺のせいで律が!
その瞬間、律のポケットから宝石のような形をした何かが落ちたのが見えた。
「あ?それは…魔法石か?そうだ、お前が持つのは危険だから貰っといてやる」
分身を操ってたやつが宝石の方に目を向ける。なんだか危ない雰囲気を感じた俺は咄嗟に宝石を拾う。
「それに触るな!」
「うるせー!それよりこの宝石はなんなんだよ!てかなにがどうなってんだ!」
律の忠告を無視し俺は大声で話しかける。
「これは俺と迅の問題だ…お前は首を突っ込むな」
あの分身を操ってたやつは迅と呼ぶらしい。なんとなく迅が悪だと感じた俺は反論する。
「関係ないね、お前が苦しそうだから助けたい!それだけだ!」
俺の訴えに律が一瞬動揺する。その間にも分身たちは律に襲いかかっている。
「その宝石をよこせ!」
迅の指示で大量の分身がこちらに向かってくる。流石に大量の分身を対処できるほど俺は強くないし、柔剣道場は対して広くない…これじゃ俺が捕まるのも時間の問題だろう。
そういえばさっき迅がこの宝石を魔法石って呼んでたな…もしかしたらこいつ使えば魔法が使えんのか?
「おい律!この宝石ぶっ壊せば魔法とやらが使えるようになるのか?」
「よせ!それは確かに魔法の力がこめられた宝石だが使えば大いなる使命を課せられることになるぞ!」
俺はその言葉に一瞬迷う…大いなる使命…それがどんなものなのか…はたして俺に背負えるものなのだろうか…わからずに動揺してしまう…それでも迷ってる暇がないと確信した俺は覚悟を決める。
「それでも!この状況を打開する方法はこれしかないんだろ!大いなる使命?とかよく知らないけど!なにかに全力で挑んでみるのも!悪くはないな!」
俺は手に握っていた魔法石を破壊する。刹那、大量の炎が俺の全体に纏われる。
「これが魔法ってやつか!」俺は炎の放つ鮮やかな色にみとれる。っていかんいかん!分身が襲ってきてるんだった!
「いっくぜー!」俺は手のひらから炎をまとまりを分身に向かって放つ。
それはこちらへと襲ってきた大量の分身が一瞬にして全滅するほどの威力だった。
「へぇ…すっげぇ…てかこういうこともできるのか…」
どうやらこの炎は体の一部にのみ纏われることも可能みたいだ。
「ちっ!こうなったら!」
躍起になった迅が更に数十匹、分身を召喚しその分身がこちらへと襲いかかる。
「試してみるか!」
拳に炎を纏わせ、分身を次々と拳でなぎ払う。
俺の拳を振るにつれ、分身の残り数も減ってくる。
あと5体…4…3…2…1…俺はこちらへ向かってくる最後の分身の心臓めがけて強烈な一撃を叩き込む。
「よし!」分身を全滅させた達成感を噛み締めるようにガッツポーズを決める。
「旭!」こちらを呼ぶ声が聞こえる…自分を囲んでいた分身を全て倒し終わったのであろう律がこちらに駆け寄る。
「…まずはありがとう…」あの冷酷な律からの素直な感謝に驚く。
「…お前…素直に感謝とかできるんだな」
「は?…失礼なやつだ」
俺の偏見混じりの発言に呆れたように律が溜め息をつく。
「助かったらありがとうと言うのが常識だ」
「へぇ律って意外としっかりしてるんだな…」
今までのイメージが少しだけ変わったような気がする。
「人を見た目で判断するな」
「あっ!てかそれより大いなる使命がなんとかって言ってたような気がするけどなんだっけ」
「それよりって…まぁいい、大いなる使命…を話す前に1つ条件がある。あの迅という男を倒して魔法石を回収して欲しい。詳しいことはそれからだ」
あの分身を操ってた男…迅とやらを倒せば教えてくれるらしい。すぐに教えてくれてもいいだろケチ。
「魔法石を回収ってどういうことだ?ドロップでもすんのか」
「あぁ、迅の使う魔法は特殊で倒せば迅の力の源である魔法石を回収することができる」
「なるほどね…」
どういう仕組みかはさっぱりわからんが言われたのならとりあえずやってみよう。
てか安心したら急に疲れが…
バタッ
俺は戦いで疲れた体を床へと押し付け倒れ込む。
「どうした?」
「急に疲れが襲ってきただけ!心配すんな!」
「別に心配はしてない」
急に倒れ込んだ俺を律が心配してくれたみたいだが素直には言ってくれない…素直なんだか素直じゃないんだか…
まだ若干、手のひらに熱が残ってる感触がある。
「…俺、すげえもんを手に入れたみたいだな」
大きく開いた手のひらを見てそんなことを呟くのだった。




