↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化・コミカライズ連載中】婚約破棄からの溺愛生活  作者: 彩戸ゆめ
竜帝国の新生活は試練がいっぱい

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
47/53

第47話 獣王ザックの登場

「おお、やってるやってる! 遅れてすまねぇ」


 そう決意を固めていると、大きな声が、会場に響いた。


 振り向くと、そこにはリーラを従えて、満面の笑みで会場に入ってくるザックがいた。


 その姿を見て、私は少しだけほっとした。怪我はしてないみたい。ただの遅刻だったのね。


 ザックの登場で、会場の雰囲気が、少しだけ和らいだ気がした。


「おう、祝いにきてやったぜ」


 竜人たちをかきわけて、ザックが気さくに声をかけてくる。

 獣王とはいえ、皇太子に対してあまりにも砕けた態度に、会場の竜人たちがざわめいた。その後ろにはハイエナ獣人のリーラもいる。


 でも、シリウスは特に気にした様子もなく、軽く頷く。


「獣王の祝い、確かに受け取った。楽しんでいってくれ」

「もちろんだ。……そういや小耳にはさんだんだが、いい酒があるんだって?」

「耳が早いな」

「そりゃ、獣人だからな」


 ニヤリと笑ったザックは自分の耳を指す。確かに獣人は耳が良さそう。


「だが残念ながら、まだ一般には流通していない」

「国賓だろ。飲ませろよ」


 ザックがシリウスに詰め寄る。

 その琥珀色の瞳には、挑戦的な光が宿っていたけれど、シリウスは眉一つ動かさない。


「お前に飲ませたら、樽ごと空にされそうだ」

「失礼な。俺だってちゃんと味わうさ」

「前回の会合で、用意した酒をすべて空けたのは誰だったかな」

「あれは美味かったから当然だろ」


 ザックが口元をニヤリと歪める。


 話の内容から、ザックが飲みたいのは私が作った蒸留酒だと分かった。

 ……いい機会だから、獣人が飲んだ時の感想を聞きたいわ。


「あの……それなら、少しだけ用意できます」


 私が口を挟むと、ザックの視線が私に向いた。琥珀色の瞳が、興味深そうに輝く。


「本当か、お姫様。話が分かるじゃないか」

「へえ、意外と気前がいいね」


 リーラが面白そうに言った。その黄色い瞳には、好奇心が浮かんでいる。


「クリスティアナ。こいつに飲ませるのはもったいない」


 けれどシリウスは冷たく否定する。


「なんだ、随分とけちだな、皇太子」


 ザックが挑発するように言う。

 シリウスは表情を変えないまま答えた。


「お前は味わうより量を飲むからな」

「今日は違う」


 ザックが断言するのに、シリウスは疑わしそうな表情のままだ。


「せっかくお祝いに来てくれたのですもの。少しくらいならいいのではない?」


 私が取りなすと、シリウスは渋々頷く。

 そんなにお酒を飲ませるのが嫌なのかしら。


「君がそう言うなら仕方がないが、君の作ったものをザックに飲ませるのはおもしろくない」


 えっと、つまりそれは、やきもち……?

 思わぬ攻撃に、顔が赤くなってしまう。


 シリウスって時々こんな風に可愛くなってしまうのよね。

 絶世の美貌で男らしくてカッコいいのにたまに可愛いとか、最強じゃない?


 私は赤くなった顔をごまかすように、シャロンに指示した。


「では、少しだけお持ちしますね。シャロン、お願いできる?」

「かしこまりました」


 シャロンが素早く動いて、奥へと消えていく。

 しばらくして、彼女は小さなグラスに注がれた蒸留酒を持ってきた。


 透明な液体が、燭台の光を受けてきらきらと輝いている。


「これが……」


 ザックがグラスを受け取り、まず香りを嗅いだ。

 すると、彼の目が驚きに見開かれた。


「……ほう」

「どれどれ。……へえ、これは確かにいい香りだ」


 リーラも横から香りを嗅いで、感心したように唸った。

 そして、一口含む。ザックの表情が、驚きから感嘆へと変わっていった。


 どうかしら……。獣人の口に合うかしら……。

 蒸留酒をしばらく味わったザックは、唸るように口を開いた。


「うまい。こんな酒は初めてだ」


 その声には、率直な賞賛が込められていた。

 良かった。気に入ってくれたみたい。


「喉にくるほど酒精が強いのに、この香り。後味もまろやかで、つい杯を重ねるな、これは。一体どうやってこんな凄い酒を作ったんだ」


 彼は、グラスを見つめながら、もう一口、また一口と、ゆっくりと味わっている。

 本当に、ちゃんと味わって飲んでいる。


「あたしにも一口くれよ」


 リーラがザックに手を伸ばすと、ザックは素早くグラスを遠ざけた。


「駄目だ。これは俺のだ」

「けち」


 リーラが不満そうに言う。


「お姫様、この酒は本当にうまい。量産できるようになったら、獣人国に輸入したい。金ならいくらでも出すぜ」


 ザックが真剣な顔で言った。


「本当に?」

「ああ。俺が保証する。獣人たちも竜人に負けないくらい酒好きだ。これなら間違いなく売れる」

「ふうん。酒好きのザックがそう言うんなら本物だろうね」


 リーラも頷いた。

 二人の言葉に、私は嬉しくなった。自分が作ったものが、こんなに評価されるのは凄く嬉しい。


「ありがとうございます、ザック様、リーラ様」

「礼を言うのはこっちだ。こんな美味い酒を飲ませてもらったんだからな」


 ザックが飲み終わったグラスを名残惜しそうに見つめる。

 ごめんなさい。まだ量産していないから、それだけしかないのよ。


「量産できるようになるまで、まだ時間がかかりますけれど、できるだけ早く進められるように頑張りますわ」

「期待してる。できたら、真っ先に知らせてくれ」

「お前、もしかしてそれが目的で通うつもりじゃないだろうな」


 呆れたようなシリウスに、ザックが堂々と答える。


「悪いか? これほどの酒があるなら、通う価値はある」


 シリウスは小さくため息をついた。


「仕方ない。ただし、節度は守れ」

「分かってるって」


 ザックが短く答える。

 その会話を聞いて、蒸留酒が、私とドラゴラム帝国だけじゃなく、世界をも繋ぐ架け橋になってくれるかもしれないと思った。


 それは私がアキテーヌの女王だとか、シリウスの番だとか、そんなことには関係なくて、ただ、クリスティアナ・アキテーヌとしての私の存在が認められたようで、嬉しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一迅社文庫アイリス様より
発売中
Amazonでの購入はこちらです
イラスト・小田すずか先生

i972394
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。