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最強の部下たちと征く、異世界魔王戦記  作者: 犬鈴屋
第3章 家号作戦

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3-7 珍妙奇天烈な鬼

大目標:安寧の地の確保、元の世界に戻る

中目標:安寧を邪魔する敵の撃破、研究人材の確保

小目標:オルサバーグの建設、人材確保

現在:ハウス作戦中(人材確保のための作戦)

『進歩は偶然の出来事ではなく、必然である』

これはかの有名なイギリスの哲学者ハーバート・スペンサーの著書『社会静学』に、この言葉が記されている。

この人物は進化論を提唱したダーウィンの考えを元に、『適者生存』を唱えた人物であり、簡単に言えば最も環境に適した者が生き残るという概念だ。

人類もまさに適者生存の原理に基づき歴史を紡いだ種であり、他の動物には無い道具を作成し操る能力を伸ばし続け環境に適応してきた。

筋力も動体視力も、ましてや脚力も軒並み他の動物に勝てる能力を持っていない人類が、今日では武器を手に他の動物を圧倒的できるのも、その環境に適応した結果だ。


この『適者生存』という概念は、ごく当然のようにこの世界でも適用される。

敵を発見したら見境なく襲い掛かってくる動物など、自然界では基本的にあり得ない。

日本でも三毛別事件や石狩沼田幌新事件など獣害事件の代表にもなっている熊ですら、本来は人間から逃げるくらい臆病な生き物なのだから。

だがその概念はゲームには基本的に適用されない。どこの誰が魔物と一切出会わないRPGを楽しむというのだ。

だがそれは裏返してみれば、意図的にゲーム(運営者)がプレイヤーに素材や経験値、快感を与えるために魔物を動かしていたにすぎない。

言ってしまえば作られた自然なのだが、この世界はゲームの中でも、ましてや意図的に魔物を動かす運営者もいない。

だからこそ強大な力を避ける魔物たちを、この世界に来てから一度たりとも見ていなかったのだが、今回は先客に夢中だったのだ。


俺たちは茂みの中から、魔物たちと1人の鬼人族を観察する。

まず魔物については、黒に近い灰色の体毛に鋭い牙と爪を携えたブラックウルフで、ウルフ系統の中でも下から2番目の強さを誇る。

ウルフ系統はその名の通り狼に似た習性から群れている場合が多く、ウルフ系統最上位のアビスウォーカーは数百単位の群れを率いるが、ブラックウルフは精々5頭が上限のはずだ。

そのはずなのだが、これもまた『適者生存』の結果か、今目の前には10頭ばかり確認できている。

ただ幸いなことに戦闘力はブラックウルフらしく、瞬発力も咬合力も俺たちにとって脅威に成り得ない。

なまじ筋力tpスタミナ(SP)が高く、鈍器の刀を警戒しているためか、ヒットアンドアウェイで鬼人族の体力を削る戦法を取っていることからも分かる。


次に鬼人族なのだが、どちらかというとこちらの鬼人族の方が奇妙に見えた。

肌は赤色でオルサバーグにいる鬼人族と同じなのだが、服装は明らかに異質な白い紋付羽織で、手にはなぜか刀を持っている。

鬼人族はその圧倒的なまでの筋力と体力を持つ近接攻撃特化の種族で、代わりに知力のINTや器用さのDEX、素早さのAGIが低く設定されている。

反対に刀は近接では珍しいDEXの影響が大きい武器だからこそ、絶望的なまでに鬼人族の特徴と合っていない。

しかも鬼人族はこれまで何回か戦闘を繰り返したのか、肉脂が刀身に回り過ぎてせっかく当たった斬撃が体毛を濡らすだけで、有効打にできずにいた。

斬れない刀ならば開き直って鈍器として使うか、斬撃ではなく刺突武器と割り切るしかない。

「くそっ、あっち行けってんだよ!なんでこんな奴らがここにいんだよ!」

だがブラックウルフと戦っている鬼人族は、遠吠えを上げながら一心不乱に刀を振り回す無駄な努力を繰り返していた。




『我が主、どうする?』

少しばかり観察していても風景が変わらないことに飽きたのか、魔法通信でオルクスが確認を取ってきた。

正直に言えばブラックウルフなんて言う雑魚モンスターは、初心者から中級者へと上がる頃に駆りまくるモンスターなので素材は有り余っているから狩る意味は薄い。

更に襲われているのは鬼人族で亜人種だが、今まで出会った亜人種は群れやグループを識別できるよう何かしら同じものを身に纏っていた。

だがこの鬼人族はそのようなものは一切なく、それどころか服装も奇妙奇天烈なものだから知り合いの可能性も低い。

そうなると重要な作戦中である今、助けるメリットは極めて低く、助けない方が漏洩防止の意味ではいいかもしれない。

これまで長く共に過ごしてきた仲間に、俺の考えは筒抜けだからこそ、オルクスもじっと俺の判断を待ったのだろう。

ヘレンに至っては空から降りてくることもせず、先行して通り道を偵察しているくらいだ。

『そうだな……』

俺は思考を巡らせるよう静かに言葉を発したが、内心はそれどころではなく大荒れに大荒れだった。


目の前で戦っている鬼人族は、奇跡でも起きない限りブラックウルフに体力を削り取られて命を落とすだろう。

幾度となく見てきた、揃わない装備と怠った準備を併せ持ってしまった初級冒険者たちと同じ末路だ。

「なんで攻略情報とか準備をしっかりしねぇんだよ」と何回嘲笑ってきたことか。

もちろん最初の頃は助けていたのだが、俺がゲームでも有名な嫌われ者だと知るや嫌な距離を取られたことが数回あってからは止めたのだが。

だからこそ今回も事前準備も無しに挑んで馬鹿だと嘲笑ってやろうかと思ったのだが、とある鬼人族の頃場が頭にこびりついて離れない。

「くそっ!ぜってぇ家に帰ってやるっ!」

それを聞いた途端、喉まで出かかっていた嘲笑を引っ込ませた。

”家に帰る”ごく当然のことだが、戦闘や戦争といった非日常に身を置いていると、それは叶え難い欲望へと変わる。

俺も病気で入院してたの頃は、帰れない自宅がとてつもなく恋しかった。

それが非日常である長期入院から、異世界まで続いていた今、やっと思い出した常識と言っていいだろう。

その常識を思い返した今、間違いなく鬼人族の命の手綱を笑って離せるのか、離して後悔しないのか、答えは出せない。

それどころがエルフ村の防衛、そしてキセトの町へと救援に向かった時も数え来てないほどの殺人を犯しているのに、今更になって善人面するのかと自分自身から嘲笑される。


『我が主……?』

気付けば長考していたようで、オルクスの声が脳に響き渡ってやっと意識を戻した。

鬼人族はまだ戦闘中のようだが、腕にできた傷跡は確実に増えている。

今この瞬間に答えを出さなければいけないのは理解していても、完全に納得できる答えが俺自身からも出せない。

だがそれでも必ず1つの答えを出さなければいけない、そんな状況で俺が選んだ答えは──

『鬼人族を救助し、情報収集を行う。俺は2人(エデルとイルマ)の護衛、オルクスはブラックウルフを殲滅しろ。ヘレン、一旦戻って鬼人族の監視に付け』

意外な指示に驚いた声を返しながらも行動する仲間の2人と、何かを勘違いした人間の2人の感嘆が聞こえた気がした。




「助けてくれて、ありがとうございましたっ!」

ブラックウルフが闇夜の森への肥料になると、鬼人族は目を潤ませながら頭を何度も下げてきた。

強者に尊敬を、そんな価値観を根底に宿すオルサバーグの鬼人族とは姿形以外は全くの別ものだ。

あくまでオルサバーグにいる鬼人族だけがあの価値観なのか、それとも鬼人族全体で共通の価値観なのかは分からないが、これだけでも目の前にいる鬼人族が町内にいる鬼人族とは別種だと分かる。

そうなってくると疑問は疑問は1つ、どうしてこんな場所にいたのか。

「感謝は受け取るが、これからお前の命がどうなるかはお前の受け答え次第だ。生き残りたくば嘘を吐くなよ」

俺とオルクスで鬼人族を挟み、上空からヘレンに監視している中での尋問だ。

能天気そうな雰囲気だった鬼人族も、先ほどまでの脅威がさらに危険な脅威に変わっただけだと理解したのか、顔つきが真剣なものに変わる。

「まずは名前と所属は?」

「お、俺の名前はヨシ……いや違った。サンフェス……サンフェスだ!所属はサンサンサンだ!」

「サンフェス、ね。それで、パーティー名がサンサンサン……だと?ふざけてんのか?」

「嘘じゃねぇよ!ふざけてるのは、そりゃああったかもしんねぇけど……パーティー名は本当に陽Sun3なんだよ!」


「分かった分かった。とりあえずお前のパーティー名は分かった」

興奮した口調で問い詰めてくる鬼人族改めサンフェスを宥めつつ、俺は質問を続ける。

「次の質問だが、お前どうして刀なんて持ってるんだ?」

「あぁこれか?そうだな……これは有名な鍛冶師に鍛えてもらった名刀だからだ。さっきはちょっと早い相手だったからだけど、普段ならあんな奴らなんで一太刀で屠れるぜ」

サンフェスが不敵な笑みを浮かべながら、名刀という名の鉄の刀を持ち上げた。

刀は種類こそ少ないが、それでもちゃんとカテゴライズされた武器の1つであり、最も弱いのは竹刀(しない)で次が鉄の刀だ。

もっと言えば竹刀は一応刀装備だが斬撃ダメージではなく打撃ダメージを与える武器となるため、鉄の刀は実質的に刀の最弱装備と言っていいだろう。

そのためサンフェスの言動が全て道化にしか見えないのだが、俺は敢えて指摘しない。


「なるほどな。それでは次が最後の質問だ。お前はどこの国から来た?」

「どこの国……?あ~……なんだっけな。馬鹿だから忘れちまったけど、ここから1番近い国だ!」

「1番近い国、ね。それだとジリト王国になるが、そこであってるのか?」

「そうそう!思い出したジリト王国だ、ジリト王国!いや~そこでも俺はかなりの有名人なんだぜ?」

どんどん不敵な笑みを浮かべるサンフェス。

そんな彼の言葉を聞いた俺は……。

「ぶっ、うわっはっはっはっはっ!!」

耐えきれず笑いだしてしまうのだった。

仲間たちも不審に思ったのか地面に力を入れる音が響くが、それよりも先にサンフェスが反応する。

「何がおかしいっ!」

「はっはっはっ……いや、すまないすまない。だがな、あんまりそんなこと言わない方がいいぞ、ルーキー(初心者)

「ル、ルーキーだと!?チュートリアルもボスも倒したから中級者だ……ぞ?」

サンフェスも俺が言いたかったことを理解したのか、目を大きく見開いて動きを止めてしまった。




「本当に!本当にすいませんでした!」

助けたばかりの頃よりも更に一段頭を低くして謝るサンフェス。

彼は予想通りプレイヤーであったらしく、俺と同じくこの世界に迷い込んでいた。

サンフェスがプレイヤーだと予想した理由はたくさんあり、所属を聞いたらパーティー名を返し、ゲーム中の鬼人族ではありえない詐術──バレバレではあったものの──を使っていたり、極めつけは何も知らないのにジリト王国から来たという言だ。

ジリト王国は言わずと知れた亜人種排斥国家であり、そんな国が鬼人族などを雇うどころか町に入ることも許可しないだろう。

そうなってくると、この鬼人族はジリト王国でも亜人種たちとも価値観の違う異質な者だ。

そんな異質すぎる者がどうしてここにいるのか、それは同じく異質な者だった俺が1番知っている。

つまりサンフェスと名乗る鬼人族は、俺と同じく日本からやってきた異世界転生してきた者だったのだ。


ゲーム名サンフェス、本当の名前は吉田日向(ひゅうが)と言い、彼は勉強勉強と言われ続ける学生生活から逃げるように知り合いと隠れてゲームをしていたのだが、その最中気づけばこの森に居たという。

ハッキリ言えば荒唐無稽な話だが、実体験した俺だからこそ信じられるし信じる他ない。

「それであと仲間が2人いるってことだが……」

「そうなんすよね。2人と一緒にいたはずなんすけど、なんか居ないんすよね」

元サッカー部らしく、社交的だったのか口調も見る見る間に軽くなっていく。

「ということは今はお前1人ってわけか」

「はい。なんで助けて欲しいっす」

キッパリとそう言い切る吉田、いや分かりにくいからサンフェスだったが、周囲からの視線は厳しい。

仲間のオルクスとヘレンは俺と同じプレイヤーと聞いてからは、警戒を最大レベルにまで上げていた。

NRGの頃はプレイヤーと言えば俺たちに害する者であったし、何よりプレイヤーはレベルが高く強い者が多かった。

いくらサンフェスが初心者でまだまだ弱くとも、警戒するのは当然だろう。

そしてエデルとイルマの2人は、今現在の目的が慕う長老の救助を最優先したいため、サンフェスで時間を食うのは望むところではない。

だがそんなことを真正面から俺に言えるほど実力も権限もないので、口を閉じたまま目で訴えかけていた。


俺の正直な感想を言えば、かなりの期待外れだと言える。

鬼人族がプレイヤーだと分かりつつも助けたのは新たな情報を得る可能性に賭けてのことだったのが、その目論見は物の見事に外された。

そうなってくると異世界出身同士仲良くしようとも思ったが、サンフェスから漂ってくる雰囲気は明らかに陽の者の気配。

俺や仲間のような嫌われ者で陰気な奴とは絶望的なまでに気が合わないのだ。

だからこそサンフェスを助けるメリットはないのだが、デメリットも同時に無い。

強いて言うならばサンフェスを助ける、つまりオルサバーグへと案内するための人員が必要になるデメリットはあるが、それも留守を任せた仲間に頼めばいいだけ。

そう結論付けた俺は、長老に有能な人材へと仕上げてもらうことに期待を込め、留守を任せたシーラに通信をかけるのだった。

彼女ならば戦場になって重傷者が続出でもしない限り手が空いており、護衛を任せられるだけの力量はある。

『あ、シーラ?ちょっと異常事態が起きた。俺らと同じ異世界から来た者を確保したから、オルサバーグまで護送して欲しい。場所は後で送る』

そうすると快い返事が返って──

『は~い。ちなみに、その子は男の子ですか?女の子ですか?』

『……男だ。通信を終了するぞ』

……もしかしてサンフェスに貞操の危機が迫っているかもしれないが、こればかりは自分でどうにかしてもらおう。

暢気に構えるサンフェスを見て、俺は心の中でそう呟くのだった。

現実で同姓同名の人がいないよう配慮した結果、あえて日向ひゅうがにしました。

性ならば日向ひゅうがでもおかしくないと思いますが、名前で日向だと基本的には”ひなた”って呼ばれます。

なのでここはあえて、名前で”ひゅうが”読みにしてみました。

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