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最強の部下たちと征く、異世界魔王戦記  作者: 犬鈴屋
第3章 家号作戦

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3-6 行く先は西

大目標:安寧の地の確保、元の世界に戻る

中目標:安寧を邪魔する敵の撃破、研究人材の確保

小目標:オルサバーグの建設、人材確保

現在の目標:人材確保

草木も眠る丑三つ時に差し迫ろうと時間を、腕に巻き付かれた時計は示していた。

中世ファンタジーの世界に時計なんて野暮なものはないはずなのだが、ゲームに熱中し過ぎて時を忘れる者が続出したNRGプレイヤーのために、急遽実装された標準装備でもある。

腕時計で改めて時間を確認した俺は、オルサバーグ内の端に建てられた長屋の一室で、荷物を入れ忘れチェックを終えた。

武器はスチールソード、防具はスチールチェーンメイルと鋼尽くしで、カラーは鉄に似せた鈍い灰色が真っ暗な部屋の中で月光を反射していた。

レベルの暴力で鋼製の装備よりも肌の方が防御力あるが、だからといって森の中を村人や一般人の服でうろつくのもおかしな話で、最低でも冒険者や兵士の恰好をすべきだ。

スチールチェーンメイルの下にはミスリルジャケットという鋼のワンランク上で、希少な金属を糸状にして編み込んだ超高級服を着こんでいるから、不意打ちを食らっても基本的には問題ない。

武器は正真正銘の量産品で、NRGの世界ならば初心者が3、4番目に購入する武器なのだが、あまりにも高級な武器を持ってしまっては怪しまれる。

それならばまだ持っていてもおかしくなさそうな武器を持っていて、戦闘になったらアイテムボックスから武器を取り出せばいい。

不意打ちでさえなければ、武器を取り出す余裕など仲間と協力すれば作り出せるはずだ。

その他の不安要素もあらかた潰しており、今回の作戦に不安要素など無い。


そのはずなのだが、やはり一切情報もない敵地へと赴くのは度胸がいる。

エルフ村を襲撃した時も、キセトの町へと救援に行った時も、必ず事前に敵が自分の脅威でないのを確認してから行った。

村から飛び出す狩人たちも、キセト攻略隊の天幕に辿り着くまでの兵士や司令官の天幕付近にいた親衛隊たちも、強さを見極めずに突撃などしていない。

だが今回の作戦は事前に長老のいる村まで行ってルート確認や敵の確認を行う余裕などなかった。

ヘレンに空からの偵察を行わせようにも、敵側に俺と同じプレイヤーがいない確証など無い。

いや、長老のようなプレイヤーらしき人物がいることから、間違いなく敵側にも俺と同じくらいの猛者プレイヤーがいるはずだ。

これでも俺はNRGの最古参であり、浮いた時間と金を全てNRGに捧げてきた最強プレイヤーだと自負しているが、その自負込みでも俺と同格以上のプレイヤーなんてゴロゴロいた。

もしそんな最強プレイヤーが敵側にいる、しかもパーティーでいた場合、単独で空を飛行しているヘレンなどあっという間に地面へと引き摺り下ろされ、囲われて終わりだ。

だからこそ、ヘレンの偵察はあくまで即時救出に迎えるオルサバーグ周辺の上空に限っており、人間の領域は未だに地平線に薄っすらと見える程度にしか確認していない。

例えるならば精密な気象予報付きの船で太平洋を横断しろと言われているようで、いくら地平線の先に人間の住む大陸があると分かっていても恐ろしく感じるものだ。




作戦開始時刻30分前、虫の音一つ聞こえない静寂と月明かりだけ部屋で頭の片隅に湧き出た不安を潰していると、一瞬だけ暗闇に支配された。

今この部屋の光源は窓から差し込む月光のみ、その月光が遮られた理由は言うまでもない。

腰に佩いていたスチールソードに手を伸ばしかけたが、聞きなれた声で脱力した。

「オウキ様、参りました」

「あぁエフィー。ご苦労」

自然と同化するダークエルフは認識阻害を持ち、さらにはアサシン職のスキル『透明』を併用しているため、意識しない限り俺でも彼女を見失う。

ただ彼女も忍び込んできたままの姿だと会話しにくいと感じたのか、即座に両スキルを無効化したためエフィーの顔が月光に照らされるのがハッキリと認識できた。

「オウキ様、ヘレンは?」

言われてみれば確かに、予定ではこの場にもう1人仲間がいるはずなのだが……。

「うるさいな、クソエルフ」

再び聞きなれた声が頭に響くと、またしても部屋の中が影が大きくなった。

だが今回は決して誰かが光源を遮ったわけではなく、ドアと床の隙間に存在した影が自意識に芽生えたかのように独りでに伸びてきたのだ。

そして人間1人分の距離で止まると、その影から押し出されるようにヘレンともう1人が飛び出してきた。



「ヘレンもご苦労」

「主、ただいま来ました」

いつもの騒がしく落ち着かない声ではなく、冷静で静かに述べるヘレン。

普段のヘレンからは想像しにくいが、彼女はほぼ不老不死で様々な過去を持つ龍人族なのだ。

「大丈夫です。ちゃんとどこかの誰かと違って任務もこなしてるし、影を作ってバレるなんてヘマはしてません」

……こういう清々しいまでの当てこすりはあるものの、頼りになるのだ。

「喧嘩はそこまでだ。ハウス作戦も迫っているしな」

ハウス作戦、正式名称は長老スカウト作戦で、いわゆる暗符である。

ほんの僅かな確率でも成功率を上げる、もっと言えば生還率を上げるために細心の注意を払っており、ヘレンが静かに話しているのも、今から出立するにも関わらず仲間の姿が見当たらないのも、暗符もその一環だ。

「それで、そいつに説明は?」

「ランドがしたらしいです。本人も納得したみたいだって」

そして俺は視線を、先ほどヘレンが連れてきた人間ユルクへと向けた。

ユルクはエデルとイルマたちと同時に捕虜にした人間種で、エデルたちと違って基礎的な知識を持っていないごく一般的な人間と言っていいだろう。

この世界の一般常識を知るのに活用できるが、それ以外人間種であるが故に戦闘や狩り、工事も他の亜人種と比べて一段階劣るため目立たない。

加えて最近はランドの銃に興味を持ったようで、あいつのラボに入り浸っているから正直に言ってそこまで関係性を築けていないのだ。

ヘレンの紹介に俺は鼻を一度だけ鳴らして答え、付き合い薄い人間に問いかける。

「説明されているなら話は早い。具体的に何をするか、聞いているな?」

「は、はい。お、俺がオウキ様のフリをするって聞いています」

そう、ユルクの役目は俺がこの村にいると内外へ示すための影武者だ。

幸いなことに日本人の平均的な体格をした俺と、この世界では少し大きめのユルクの体格は少しばかり似ている。

ちょうど人間種であること、ハウス作戦に参加しないこと、そして野心を持たず仮に反乱を起こしてもすぐさま鎮圧できるほど戦闘力がないこと。

その全てを満たしたユルクには、俺がいない間の影武者を任せたのだ。


「それならいい。あとの詳細はエフィーに聞け」

俺の留守中は、俺たちのパーティーの頭脳であるエフィーに全て任せてある。

と言っても魔法で遠距離通信ができるため、エフィーを通しての指示になるとは思うが、ある程度の些事の裁定はエフィーに処理してもらうから先ほど言った言葉に間違いはない。

話が終わったと安堵の溜息を吐くユルクであったが、エフィーの手を無駄に汚さないためにも、そしてオルサバーグ内で血みどろな処刑場にしないためにも、釘をさすのも忘れない。

「改めて言っておくが、絶対に変な行動をするな。全ての判断はエフィーに任せろ。どれだけ小さなことであってもだ。そして基本的に単独で行動せず、必ず俺の仲間を引き連れて出歩け。間違っても勝手な行動をするなよ?」

「し、してしまった場合は……?」

ゴクリと唾を呑みこむ音が鈍く響き渡った。

どんな結末を想像したのかは分からないが、俺は思いつく限りの可能性を述べて恐がらせる。

「お前の頭が消えるか、全身が灰になるか、蜂の巣になるか。それかじわじわと回復魔法をかけながらの磔か。幸いここには人間種を憎む者も多いからな、処刑人には困らん。俺が帰ってくるまでに生きていればいいがな」

「け、決して勝手な行動はしません!」

ガクガクと震えながら答えるユルクの目は、どこまでも恐怖に支配されており、俺の意図して漏らした情報に気付いていない様子である。

『俺が帰ってくるまでに生きていれば』これは即ち、俺が帰るまで待たず即処刑すると言っているのだが、磔刑である以上人目を避けるのは不可能だ。

わざわざ影武者で潜んでいる最中に、その影武者を公開処刑するなど役割からしてありえないが、あくまで影武者は数ある保険の中の1つ。

だから町人に影武者であるとバラすことが何の手札にもならないと暗に言っているのだが、気づかない辺りユルクは生粋の村人なのだろう。

これまで関係が薄かったため警戒していたのだが、彼に対する警戒は一段下げてもいいのかもしれない。


あとの仔細はエフィーに任せ、俺は先ほど見せられたようにヘレンの影に入って長屋から姿を消した。

今日から作戦を決行する俺の代わりを務めてもらうためにも、本日からユルクは俺の部屋で寝泊まりする。

ちなみに人間3人とハウス作戦に同行するヘレンとオルクスは、名目の上では長期演習となっており村人にも伝えてある。

もちろん長期演習はないことは、各種族のトップとオルサバーグ町長、いやオルサ家当主のエント・オルサにも伝えているから心配はない。

「主、影から出します」

ありがとう、そう告げると同時に真っ暗な空間から月光が照らすだけの森奥に周囲の景色が切り替わる。

目の前には長期演習に出た者どもが、万全の態勢で俺を待ち構えていた。

オルクスはフルメタル・アーマーという鉄製の全身鎧をまとっており、彼の特徴である肌色の皮膚や巨躯は鳴りを潜めている。

隣にいるエデルとイルマも鉄装備を纏っており、見た目は上級兵か下級騎士のような装いだ。

「我が主、待ってた」

「ご苦労オルクス。準備は?」

「できた、問題、ない」

オルクスの後ろを覗き見ると、覚悟した面持ちの2人もいるから間違いではない。

「よし、それでは今からハウス作戦を開始する。まずは目的地へと迅速に向かうぞ」

周囲にバレないよう小さな声で、しかし力強い返事が返ってきた。

目指すは西、亜人種を強く嫌悪する人間種の国ジリト王国へ。




隊列は最前線にオルクス、最後尾に俺がおり、その間にいるエデルとイルマを守る形で、俺たちの上空で常にヘレンが監視している。

どうしてこんな陣形なのかというと、エデルとイルマは俺たちと比べるまでもなく弱いから。いくら俺たちが付きっ切りで訓練を施したとしても、1か月にも満たない期間で上がる能力値などたかが知れており、かなり身内目に見ても兵士3人分くらいの戦力しか持っていない。

その程度の実力しか持っていない彼らに魔物やジリト王国残党と戦わせたら、作戦行動に支障をきたすだろう。

なればこそエデルとイルマには案内役に徹してもらいつつ、最優先目的は無事オルサバーグへと帰還することだと言いつけてある。

仮にハウス作戦が失敗したとしても、エデルかイルマの片方が生き残っていれば再びスカウト作戦へと向かえる。

最悪ハウス作戦の成功が絶望的だと判断したら、彼らには申し訳ないが長老を諦めてもらってもいい。

あくまでハウス作戦は人材確保のために行う作戦であって、優秀な卵である彼らを消費して行うのは本末転倒なのだ。


あとは彼らの役職的にも失いたくない。その役職とは軍事顧問付秘書だ。

軍事顧問だけでも意味が分からなかったのに、そこに秘書まで付ける摩訶不思議っぷりは、俺が町長に内政に口を出す役職を求めに行った時に押し付けられた狂気である。

あの時のエントは突然押し付けられた立場の重さに憔悴しきっており、人心などどうでもいいと思っている俺でも厚かましく強請りれなかった。

それどころかエントに厄介事を押し付けた自覚がある俺は、よっぽどのことがない限り彼の指示には従うべきだと思っている。

そんな時、エントから相談されたのが町内にいる人間の処遇についてだった。

簡単にまとめればオルサバーグ内の亜人種はエデルとイルマの積極的な交流により憎悪を薄まりつつあるが、それと反比例するように溜まって行っているのが特別待遇への不満。

エデルたちを特別扱いしている心当たりがなかった俺はもちろん反論したが、どうやら個別で行っている訓練や講習が該当するらしい。

この不満を解消するため最も簡単な方法は、全員に訓練と講習を受けさせればいいのだが、100人以上を訓練するなど教官でもない素人では不可能であり、講習は基礎的な学力がないと話にならない。

到底受けられないと首を横に振ると、次善の案として特別待遇に値する役職に就けることだと言う。

だがその場合、誰もが認める実績を持たないエデルたちに従いたくない亜人種たちが反発を起こす。

結果、俺の特別待遇を受けられつつも名前だけで権利の発生しない役職を探した結果、エデルたちは軍事顧問付秘書という摩訶不思議な役職を割り当てられたのだ。


ここで重要なのは軍事顧問付秘書という役職の重さではなく、俺直轄の部下だということ。

嫌われ者ばかりが寄り集まったパーティーだからか、俺たちは滅法仲間という存在に弱い。

現にアイテムボックスに納められた今後手に入るかも分からない貴重な品を、景気よく町人にばら撒いている。

普段ならばそんな物資の浪費を咎めるパーティーの金庫番エフィーも、見て見ぬ振りどころか自らばら撒いている始末だ。

そんな奴らを集めた俺も例に漏れず、仲間だと認識した者を失うのは可能な限り避けたい。

仲間を失うくらいならば、アイテムの消費やダメージを肩代わりすることも厭わない。

恐らくもっと冷徹に隊列を組むならば、肉壁代わりに前後にエデルとイルマを配置して、どちらか片方さえ生き残ればいいの精神でやるのだろう。

だが俺はそんなこと絶対にしない、仲間になったからには裏切られでもしない限り、ちゃんと安全を保障して──

『主ー!前方に戦闘中の人影あり!戦っているの魔物と……鬼人族っぽいです!!』

魔法通信でかかってきたヘレンの報告に、早速問題が発生したのかと無意識のうちに溜息を吐いてしまうのだった。

少し前作業用BGMとしてゴダイゴのガンダーラを聞いているのですが、あのパッケージの左下が誰なのか気になって夜しか寝られない。

左上から猪八戒、孫悟空、沙悟浄、???、三蔵法師だと思うけど、マジでこれは何の役なんだろ?

ググレば釈迦如来って出てくるけどそんな雰囲気じゃないんですよね。

ちなみに今聞いている作業用BGMは、鈴木雅之の「違う、そうじゃない」です。


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