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‐禁忌の召喚者‐ ~The Toboo summoner~  作者: ろーぐ・うぃず・でびる
最終章 The Toboo summoner
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幕間 箱舟の鳩


 地上界、船の上。

 広大な海原に駆けだしたばかりの船は、どこへ留まる事も無く進む。

 

 その甲板に佇む少女――愛魅(うみ)


 彼女は一人、手を組み祈っていた。

 まるで、何かを望むように。


「主よ、世界に終焉来たる前に――どうかお慈悲を。我が悲願を、叶えたもう」


 雄大な入道雲が遠くから覗き、光が甲板全体に照らされた空間で、一人呟く。

 光輝く白装束が、一層の輝きを放ち、甲板に、白銀の一体となったその小さな姿。

 まさしく、それはまごうことなき聖職者の姿であった。


「――さて、あの町の情報は既に本州に知られている。これから人づてに拡散されて、政府に知られるのも時間の問題か……あの人と出会い、愛した町が無くなるのは惜しいけど」


 愛魅は柵へ歩み寄り、後ろで遠くなりゆく港を眺める。

 出発したばかりの場所にも関わらず――何の滞りも無く出港した船の進みは速く、愛魅の視点ではもはや灰色の粒のようになっていた。

 

 耳をそっと撫でるような潮騒。

 やがて霞がかっていくようにぼやけていく灰色の点に、愛魅は思いを馳せる。

 

 天に日差しが昇る頃、身支度をし、ベッドの上で安らかに眠るローを撫で、上り階段を上る。

 日中の平日には、教会周りを掃除し、掃除を終えると町の見回りに行く。

 休日にはミサを行いながら、信者の数を確認して。

 ミサを終え、夜になれば――夜に、ローと語らいながら眠りに就く。

 愛魅は白く少し硬い髪を、撫でて。

 ローはほのかに香る、甘い匂いに包まれるように、その物憂げな顔を腕にうずめながら。

 

 二人の思い出が、消えていくかのようで――愛魅は、密かに唱える。

 “止まってくれれば、あなたと一緒に少しでも居られるだろうか”と。

 その瞬間。


 海が、割れる。


 凄まじい轟音と共に、激しく船が揺れ動くと、船員の声が響く。


「うああ!? なんだなんだ!?」


「祓魔師の嬢ちゃん! なんかしたか!?」


 船長のものと思しき声、船舶操縦士の声が聞こえると愛魅は床を踏みしめ、叫ぶ。


(おれ)は何もしてないよ! 船底に何かが引っかかったんだろう、黙って舵を取り続けろ、コンパスと地図だけ見ていろ!」


 愛魅が言うと、船長と操縦士が慌てふためきながら、元の体勢に戻る。

 愛魅は甲板の床を蹴り、船の船橋に飛び、柵に捕まると周囲を確認した。


 周囲は海が広がるばかりで、何事も無いように見えている。

 波が、せわしなく渦を作り、それはまるで蛇がとぐろを巻き始める様を彷彿とさせたに違いなく、愛魅の顔には次第に蒼白と共に汗が滴り始めていた。

 左右に見下ろし、指輪を構えながら愛魅は呟く。


「何が起こっている……?」


 呟いていた刹那、船体が割れた境目に引き込まれかかっている事にすら気付かず、愛魅はただ周りを見渡していた。

 船内の混乱が、外からも聞こえている中――愛魅は指輪に念じる。


「まず船内がどうなってるのか確認しろ! (おれ)は少し怪しい場所を見てくる!」


 念に応じるように指輪が煌めくと、その身は指輪の変形した鎧に包まれていく。

 念じたのは風のジェダイト――鳩をあしらった兜と翼を背中に生やした鎧を装着すると、愛魅は船橋から大空へと飛び立つ。

 飛び立った瞬間、風を巻き起こし、船を大きく揺らしながら、宙ではカモメすら置き去りにして飛翔する姿は、鳩というよりも――鷹や、鷲などの猛々しい空の王達のような様だった。


(もし、誰かの仕業だったなら、この手で叩き伏せる。異教、異形……全て存在してはならない生き物だ。魔界に還してやる)


 それが、同じ――人間の仕業であることを知るのは、まだ先の事だった。

次回、全ての線が集合する時です。

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