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‐禁忌の召喚者‐ ~The Toboo summoner~  作者: ろーぐ・うぃず・でびる
最終章 The Toboo summoner
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最終章 二十八話 前編 死した者達

 冥界。

 そこは死者の魂の行きつく地。

 地上界に伝えられる、地獄、辺獄が存在する地。

 地上界の、下に位置する地で――ある、鎖に繋がれた男が鋭く目の前の悪魔を睨んでいた。

 目の前の悪魔――ベリアルは、鎖に繋がれた男の眼光に対し、男を睨み返し続ける。


「……赦さん、赦さぬぞ。魔神。貴様にすらも縋ったのに……このザマとは」


「くどいぞ、潔く自分の付けた鎖に悶えていろ囚人。無理な契約だったんだ。全く、お前のせいで冥界を秘密基地にしていたのが“秘密基地兼罪人監視局”になっちまったしな」


 ベリアルは冥界の地面を撫でながら、男の側に座り込むと男の前で突き出た岩を砕く。

 砕かれた岩から出てきたのは、赤黒く仄かに光る鉱石だった。


「こいつら、悪魔(おれたち)が発見して有効活用してるんでダーカーズデビルノコンと呼ばせてもらってるけどな、殺生をした者の魂の苦しみから剥がれた魔力を吸収し、育っていく代物だってことは知ってるだろう? それが……どれもこれも、皆“妙に上質”なんだ。これってお前の性なんだろ?」


「ふん、原因を私の口から言わせて自覚させると? 何を今更。貴様ら等精々私の遅れた置き土産の供物になるがいいわ」


 男は、ベリアルに憤怒のままに歯を剥き出し、地面の鎖に繋がれた腕をベリアルの首に伸ばす。

 首にかけられた腕は細く枯れており、ベリアルの太い首に対し何も――拘束の意を、表せていなかった。

 

 枯れ枝のような痩躯、こけた頬、萎びながら伸びきった黒い長髪はその男の頽廃を示すが如く。

 血色の悪い肌に空いた眼孔からは、酷く充血し濁った黄色と紅の瞳が覗いていた。


 ベリアルは軽く腕を払うと、腕を組んで素っ気なく返す。


「そうかいそうかい、好きにしやがれ。監視とはいえ、過去の栄光にばかり縋る貴様はどうも見ていてつまらんもんだな。そこまで言うならよ、冥界の泥に足を捕らえられながら、蛆の様に這って、獅子のように吠えて上を見上げろってんだ……」


 ベリアルがそう言い、立ち上がると男に背を向けた。


「後1時間後に戻ってくる。変な気を起こせば、お前の拘束が増えるだけだ、止めておけよ」


 男はどこかへと消えていく、ベリアルの背中を見届け歯を震わせる。

 完全にベリアルの背中が男の視界から消えると、男は笑んだ。

 ふつふつと何かを呟き、上を見上げながら。


 何かを呟いていると、漆黒の冥界の、霧ががった地面は赤黒く光りだす。

 

 地面から、やがて煙が噴き出すと――男の笑い声が、冥界に響く。

 地面の亀裂がより大きくなっていくに従い、煙は高く昇り、男の鎖の元が壊されていった。

 

 後ろに伸ばされていた男の手は、鎖から解放されると前へ向き、力なく項垂れる。

 尻の下に敷かれていた足の鎖も、亀裂に呑まれていき下へ落ちていくと男の体も巻き込まれ、落ちていく。

 

 落ちていった先は、永遠に等しい暗黒の中。

 

 赤、青、緑――様々な魂達が、縦に並べられたロウソクの炎のように男の視界を彩っていると、男は上に向かって手を伸ばす。


「魂達よ! 時は来た! 地獄で焼かれし罪深き者よ、転生志望の哀れなる愚者達よ……今こそ復讐の時だ!」


 落下し続ける男の声に、呼応するように幾多のざわめきが男の耳に聞こえてくる。

 何かを狼狽え、戸惑いを隠せぬどよめきと喧騒に男は――喝を入れるように、高らかに言った。


「お前達が何故地獄で、苦しまなければならぬのか、冥界になぞ囚われなけらばならないのか……簡単だ、神々にとって我々は取るに足らぬ種族に過ぎんのだ! 悪魔や神々を人外と呼び、畏怖するが、逆に人である方が少ないのだ。少数の者の取り決めや尊厳等、鼻糞のように軽く息を吹きかけただけで飛ぶ程に軽々しいものだ!」


 男が手を叩くと、冥界中の鉱石が集まって行く。

 やがて男の体はダーカーズデビルノコンの欠片たちに包まれ、その体が宙に浮きだす。

 男は欠片を握りしめると、かすかに笑みをたたえて大声で――続けた。


「冥界では魔術は使えない。何故だかわかるか? このダーカーズデビルノコンの性だ! こいつはお前達の魔力を一つ残らず吸収し、記憶する……これが何を意味しているか分かるか? 抵抗する力を奪うために、この冥界に埋め込んだものなのだ! お前達は良いのか? かつての英雄達よ、かつての猛者達よ。私についてくれば、この冥界から脱し、再びその肉体を与えようぞ!」


 男の声に、湧き立つ声。

 それは困惑の意を表する声を、黙殺させるほどの勢力だった。

 

 男がダーカーズデビルノコンを握り、念じると一気にその体は上昇する。

 冥界の断層を、耳に風を切る程の音を覚えさせるほどに素早く、弾丸と化すように。


 男が元居た場所に戻ると――そこに居たのは、赤髪の大男だった、

 無言で岩に座り、男を待っていたかのように、彼は男に言う。


「哀れよな、貴様。大魔術師デモニルスも堕ちたものだな……」


「堕ちた? 何を言うレクス王。志半ばにして潔く散った事を誇るつもりかね? 民を置いて、野望を捨ててそんなに清々しかったか」


「大帝国を作る、世界を統一する事こそ俺の野望だった。だが、魔族共が邪魔をしてな」


 デモニルスは、レクスの前で腕を大きく降り、唾を飛ばして返す。


「ならば、猶更(なおさら)、私の計画に協力すべきじゃあないのか!」


「デモニルスよ、だが俺はお前に協力だけはせん。死体の山を築きあげ、勝手に散りゆくが良い。第二の死はどうなるかは知らんがな。もう俺は、この時代の人間に託す事にしたのだ」


「魔力も知恵も知識も無い、貴様の嫌う雑魚ばかりでも、か!?」


 レクスはデモニルスの怒号に、胸倉を掴むことで応じた。

 激情を、デモニルスが持つ二色の瞳にしかと焼き付けさせて。


「その口で、人間を語るなァ!! 俺は見ていたぞ! ジェネルズに取り込まれた時、醜い肉塊の中に幽閉された時の、あの少年の勇姿を! 快とか言ったか。素晴らしい人間じゃあないか! 現代の人間でも、ああした強い人間がこれからの世界を導き、築き上げていくのだ!」


 レクスの大声に、湧き立っていた声達は沈黙し。

 

 やがて、冥界の地面が揺れ動き――巨大な、5mはあろうかという影が現れる。

 影は、レクスとデモニルスの間に、そびえたつ塔のように、その姿を現した。


「何事だ、旧き死者達よ」


 その者――透明になりかかったその体を顕現させ、口を開くとレクスは腕を組み答える。


「閻魔か、ここは管轄外では無かったか? あぁそうか、あの少年の国――日本の神を呼んでしまったので、代理というわけか」


 デモニルスは、レクスを睨みながら返した。


「神に対しても、貴様は傲慢だな。まぁ良いわ。閻魔、お前に伝えなければなるまい」


 閻魔は、デモニルスの両手を指さし、目を大きく見開きながら言う。


「貴様、何故脱して――!?」


「死神会議でも開くが良い。私はもはや自由の身だ、貴様の力も、実質奪ったに等しい。皮肉なものだな、お前たちの死者を食い止める為の枷が、こう逆作用するとはな!」


 デモニルスが宙に浮くダーカーズデビルノコンを持ち、上に投げた刹那。


 ――冥界に、竜巻が生じた。


 その竜巻の先は複雑な魔法陣を描いており、魔法陣の竜巻に、次から次へと死者の魂は吸い込まれていった。


「死者の肉体を与えるのは聖人と冥界の神々の特権だと? 今や私の特権でもあるぞ?! ワハハハハハハ!!」


「何、貴様どうやって……?!」


 閻魔が驚いていると、デモニルスは歪に、顔を歪ませる。

 嘲笑まとわせる口許は輝き、濁っていた瞳も今や妖しく光り――。

 竜巻を背にしたデモニルスの姿は、もはや人外に等しかった。


「冥界の者達を蘇らせ、力の分身を取り戻し――まずは神を名乗る者を殲滅してやろうではないか! 何、わざわざこんな体にはもはや要は無い。好きにするが良い。私が守りたかった世界を守らなかった事を後悔するが良い!」


 高笑いと共に、デモニルスは魔法陣へと吸い込まれていく。

 閻魔が竜巻の中へ行こうとするが、レクスは閻魔の衣を引っ張り、地面に叩きつける。


 止せ、という代わりに――無言で首を横に振りながら。


「もう放っておけ。愚者を名乗る賢者が、とうとう愚者へと慣れ果てただけだ」


「だ、だが冥界の神として我が――」


「行ったところで何になる? お前のできる、やるべき事は現代のアジア近辺の分の冥界、そこの死者をまとめ行く末を決める事だろう。お前まで居なくなれば、冥界の神々の頭数が減るだけだし、他の世界の種族から混乱を招くぞ」


 レクスは、至って冷静に神に向かって言い放つ。

 閻魔も、ただ顔を渋らせながら――頷く事すらできずにいた。

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