第647話 聖盾式パワーレベリング
「それでアレクは――」
「…………」
「ん? おい、アレク?」
「あ、はい、なんですか?」
おもむろに創造神ディースさんを召喚して、この場にいる全員の度肝でも抜いたろうかと考えていたところで――クリスティーナさんに声を掛けられて我に返った。
いかんいかん。一時の感情に流されて、だいぶ短絡的な行動を起こすところであった。少し冷静になろうではないか。僕はもっと理性的で思慮深い行動ができるエルフなはずだ。
「アレクは早いとこレベル45に上がりたいんだろ?」
「そうですねぇ。できたら早いうちに」
「だったら、もう一回リュミエスに魔王式パワーレベリングとやらを頼んだらいいんじゃねぇか?」
「ふむ?」
あー、そっか、そういえばお願いしたことはなかったな。偶然そうなったり、結果的にそうなったりってことばかりで、こちらからパワーレベリングをお願いしたことはなかった気がする。
「そのおかげで急速にレベルアップしたんだろ? ここ十ヶ月で5レベルもアップしたんだよな?」
「ええはい、十ヶ月で5レベルアップですねぇ……」
……まぁ実際のところ、魔王式パワーレベリングでどれだけ経験値が稼げたのかは、ちょっと謎だったりするんだけどね。
そもそも十ヶ月で5レベルアップと言うが、実際には一年と十ヶ月である。天界での追加の一年があった。そしてその一年で、精神と時の会議室による――天界式パワーレベリングがあったのだ。
そこでレベルが40から42に上がり、それから旅に出発し、次に鑑定したらレベル44に上がっていた。
天界式パワーレベリングでの余剰経験値もあっただろうし、そもそも旅の中でも自力で経験値を獲得していたはずだし、さらにはユグドラシルさんからもウッドクローをちょこちょこ受けていて、多少は世界樹式パワーレベリングもあったと思われる。それにプラスしてのリュミエスさん磨きでの魔王式パワーレベリングと、いろいろとごちゃごちゃしながらレベルアップした経緯がある。
魔王式パワーレベリングのことを伝えたエルザちゃんからも、『さすがの魔王様ね』なんて魔王様の偉業に感服している様子を見せていたが、果たして実際の効果はどれほどだったのか……。
「――いや、でもそれは、むしろ好都合か?」
「あん?」
もしも魔王式パワーレベリングがそれほど起こっていなかったのだとしたら、それはむしろ好都合。
それだけ免疫も出来ていないということで、それだけパワーレベリングが起こる余地も残されているということである。
「あとは、スカーレットさんに頼むのもいいかもしれませんね。たぶん勇者式パワーレベリングが起こってくれるはずです」
「スカーレットにも……? いやまぁ、二人が喜んで協力するって言うんなら、アタシからは別に何も言わねぇけど……」
いろんなパワーレベリングのことを思い返していて、ふとスカーレットさんの勇者式パワーレベリングの可能性にも気が付いた。
勇者式パワーレベリングと魔王式パワーレベリングを用いて、一気にレベル45まで駆け上がってしまうのもいいかもしれない。勇者様と魔王様のパワーレベリング。なんて贅沢なパワーレベリングだろうか。
できたら聖女式パワーレベリングもお願いしたいところだけれど……ジスレアさんは普段から妙に厳しい剣術稽古に付き合ってもらっているので、残念ながらあんまり余地は残されていないかもしれない。なので、お願いするとしたら二人で……。
あれ? というか――クリスティーナさんでもよくない?
今名前が挙がったスカーレットさんやリュミエスさんと一緒に活動をしていたのだから、クリスティーナさんもそれだけの実力者なわけでしょう? じゃあクリスティーナさんもじゃない? クリスティーナさんでもパワーレベリングが起こるんじゃない?
つまり、新たなパワーレベリングとして――
……うん? えっと、クリスティーナさんはなんだ? なんか称号ないの? ◯◯式パワーレベリングの中には何を入れたらいいの?
「クリスティーナさんって、何か称号ないんですか?」
「称号? なんだよ急に」
「スカーレットさんの勇者とか、リュミエスさんの魔王とか、僕なら至宝とか、ヘズラト君なら神獣とか、そういうのってないですか?」
ちょうど隣にいたので、ついでにヘズラト君の称号(仮)も例として挙げてみたり。
「お前、神獣なのか?」
「キー……」
「なんか困ってないか?」
「照れて謙遜しているみたいです。一応はまだ称号化していないので」
「んん? よくわかんねぇけど、ヘズラトはそのうち神獣になる予定なのか」
「キー……」
近いうちに既成事実化して、称号化してあげようという魂胆であります。
「それで、クリスティーナさんは何かないのですか?」
「あー、アタシか……」
「クリスティーナさんも勇者様や魔王様と肩を並べるほどの冒険者なのですから、称号のひとつやふたつくらいあると予想しているのですが」
「別に肩を並べちゃいねぇけど……」
「またまたご謙遜を。それで、どうです? やっぱり『孤高の冒険者』とかですか?」
「謙遜なんて――というか、孤高ってなんだよ」
「むー、むー」
またしてもほっぺをむぎゅっとされてしまった。
もう今日だけで何度目のむぎゅだろうか。たぶんあれだな。久々の再会で、僕もちょっとはしゃいでしまっているのだろう。それでもって軽口がポンポン飛び出して、そのたびにむぎゅむぎゅされてしまっている。
……そろそろこれでパワーレベリングが起こったりしないかな。もうすでにそれくらいの回数をくらっているような気がしないでもない。
「さておき、クリスティーナさんの称号です。もしないようでしたら、今からでも『孤高の冒険者』が称号化するように協力いたしますが?」
「やめろ……。あー、まぁなんだ、アタシにも一応ある」
「ほほう? して、その称号とは?」
「『聖盾』って称号があるな」
「ほう?」
聖盾? 聖盾とは――あ、そういえば前にスカーレットさんから聞いたな。クリスティーナさんは盾の使い方が抜群に上手いと聞いた記憶がある。
それで聖盾と……。え、でもなんかすごくない? たぶん剣聖とかと似た感じの意味合いで聖盾なんでしょ? なんかガチですごいっぽい称号じゃない?
はー、そうなのだな。やっぱりクリスティーナさんはとんでもない実力者なのだな……。
「ではつまり――聖盾式パワーレベリングですね」
「は?」
どうでしょう? お願いできないでしょうか? 軽く稽古にでも付き合っていただけると、結構な経験値をいただけるんじゃないかと期待しているのですが。
「いきなり何を言い出すんだよ……」
「ええまぁ、不躾なお願いではございますが、できたらクリスティーナさんにもお付き合いいただけたらと――」
「お前、アタシにもいかがわしいことをしようと企んでんのか……」
「…………」
何故そうなるのか……。
え、もしかして未だに魔王式パワーレベリングのことを、いかがわしい行為だと思い込んでいるの? なんなら『パワーレベリング』という単語を、いかがわしい行為の隠語だと認識していて、そんな行為をいろんな女性に仕掛けようと計画している人物だと僕のことを認識しているの……?
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