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断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第十章完)【アニメ化決定】  作者: 楢山幕府
第十章

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29.悪役令嬢は試合再開に立ち会う

 いつもなら自身に少しでも異変を感じたら、審判を交代するような人だった。


「君は、私、シルヴェスター・ハーランドが、他者に敗れると思っているのか。君一人も救えないと?」

「い、いえ……、しかし……ううっ」


 遂に主審は泣き崩れた。

 嗚咽しながら、ハンカチを差し出す。

 クラウディアは、ハンカチの間からはみ出ているものを認めた。


「黄色いリボン?」


 ヴァージルがハンカチを受け取り、開いた。

 現れたものに、全員が息を呑む。

 中には黄色いリボンだけでなく、茶髪の短い一房があったのだ。

 一緒にメモも添えられていた。


「む、娘の、もので……っ」

「なんと下劣な!」


 内容を確認したヴァージルが声を荒立てて激昂する。

 主審は家族を人質に、八百長を命じられていたのだ。

 黄金の勝利と、人に告げれば娘の命はないことが書かれていた。

 緊急事態だ。


「家族の安全を優先しよう。シルヴェスター殿下もよろしいですね?」

「致し方あるまい」


 犯人にバレないよう、王家クラブが有利な状態を維持する。

 今からは人質救出が最優先だ。

 どのような形で試合を再開するか、ヴァージルは監督を含め、審判たちと話し合う。

 クラウディアは、すぐさま警護担当に確認を取った。

 審判の家族は、警護対象となっている。


(報せがないのは、何故かしら)

 

 異変があれば、すぐに連絡が来るはずだ。

 仮に警護担当が倒されていても、定期連絡――試合前の確認時に気付く。

 もたらされた報告は、驚くべきものだった。


「誘拐されていないですって?」


 これには主審が慌てる。


「しかし、この黄色いリボンは、娘が朝から着けていたものです!」


 主審が自ら結んだので覚えているという。


「ならば誘拐がバレないよう、娘ごとすり替えられたのか?」


 シルヴェスターが思案する。

 母親も脅せば、表面上は取り繕うことができるはずだ。

 母子は、父親が主審を務める試合を観戦していた。

 ほどなくして警護担当が二人を連れてくる。


「パパー!」

「あなた、一体何があったんです?」


 主審は目を丸くした。

 正真正銘、自分の娘と妻が目の前に現れたからだ。


「えっ、どうなって……?」


 娘が着けているリボンは、黄色ではなく、紫色だった。

 髪が切られた様子もない。


「わ、わたしは、何という勘違いを……見覚えのあるリボンと、娘と同じ色の髪があったことで、早とちりしてしまったようです」


 主審が項垂れる。

 何はともあれ安全が確認され、一同は胸をなで下ろした。

 母親だけが首を傾げる。


「リボンは朝まで、確かに黄色だったわよ?」

「え?」


 リボンの色が変わった経緯は、こうだった。

 スタジアム場外にある屋台を回っていた最中に、娘がおばさんとぶつかり、黄色のリボンがおばさんの服に引っかかってしまった。

 解いたもののリボンに傷が付いてしまったため、おばさんがお土産用に買っていた紫色のリボンをくれたとのこと。


「そのおばさんが怪しいですわね」


 クラウディアの言葉に、シルヴェスターが同意する。

 すると、主審が「あっ」と声を上げた。


「わたしにメモとハンカチを渡したのも、中年の女性でした。トイレへ入る前に、人に頼まれたといって清掃員に手渡されたんです」


 語られた外見が一致する。

 今回の騒動の犯人は、娘とぶつかった中年女性で間違いなさそうだ。


「質の悪いイタズラにしては、手が込んでいますわ」

「うむ、娘からリボンを手に入れ、同じ色の髪を用意するという念の入れようだ。だから主審は信じ、誤った判定をくだした」


 だが、とシルヴェスターが言葉を続ける。


「詰めが甘い。審議権があることを知らなかったのか?」


 監督が持つ権利について、ルールブックには記されているが、一般人が知っている可能性は低い。

 とはいえ、疑われてしまったら終わりである。


「メモを見る以上、目的は勝利だったようです。もっと上手く主審が立ち回ると思ったのかもしれませんわ」


 元々、誰か一人を抱き込んだところで、点数はいじれない。

 賭けでの八百長は難易度が高かった。

 ただ目的のチームを優位にするだけだったら、多少できる。

 犯人は、微妙なところで判定を重くするのを主審に望んだのかもしれない。


「追い詰め過ぎた結果、逆に露見することになったか」

「人を操るのには慣れていないのでしょう」


 危機的状況にあれはあるほど、人の行動は読めない。

 試合がはじまった瞬間、主審が心配に押し潰され、泣き崩れる可能性だってあった。


「リスクの低さを重視したのかもしれぬ。犯人の手がかりは外見のみで、特徴はありふれたものだ。まず見付からぬだろう」

「そこだけ、やりきれませんわね」


 クラウディアがシルヴェスターと話している間に、ヴァージルも試合再開の目途をつけた。


「主審は体調不良だったことにする。事件を明るみにするかどうかは、一通り調査が終わってからでも遅くないだろう」

「ああ、今は余計な混乱を招くだけだ」


 シルヴェスターの了承を得て、ヴァージルは指揮を執った。


「審議を有効とし、二枚目のイエローカードと、レッドカードを取り消す」


 これで事態の収拾を計ることは、両監督とも納得済みだ。

 楽団がピッチサイドから引き上げるのに合わせて、退場となった選手二人がピッチへ戻った。

 選手の復帰で会場が沸き、鼓笛隊が演奏で更に盛り上げる。

 審議権は知らずとも、間違いが正されたことが周知された。

 そして主審の交代がアナウンスされる。

 交代要員と代わる前に、主審は一度ピッチへ出て、深く頭を下げた。

 体調不良と、判定の間違いを詫びたのだ。

 この間、クラウディアとシルヴェスターは三階の貴賓席へ戻っていた。


「さぁ、仕切り直しだ」

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ギルディ!! 八百長、しかもこんな手でーー!!  許さへんでェ゙ーー。 地獄へ堕ちろや!
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