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断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第十章完)【アニメ化決定】  作者: 楢山幕府
第十章

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27.悪役令嬢は婚約者と最終戦を見守る

 最終節、前日の試合で「紺青のレーヴァン」は、順位こそ三位から上がらなかったものの、勝利で試合を収めた。

 おかげで幾分、救われた気持ちでクラウディアは朝から元気な日差しを受けとめる。

 前日は、紺青のワンピース。

 今日は、どこのクラブカラーも想起させない、白いワンピースを着ていた。

 シルヴェスターは、窓明かりをモチーフにした黄色のシャツに、白のズボンを合わせている。

 首には黄色のタオルマフラーがかけられていた。端には「黄金の草原」のエンブレムが刺繍されている。今日のためにクラウディアがあつらえていた。

 二人でスタジアムの三階に設けられた貴賓席へ向かいながら、シルヴェスターがこぼす。


「はぁ、私も初戦から観戦したかった……」

「あら、貴賓席でご覧になっていたではありませんか」


 影武者が。


「そんなイジワルを言うと、我が『黄金の草原』を初戦で破っておきながら、三位止まりだった順位を思いださせるぞ?」

「どちらのほうがイジワルですか!」


 「紺青のレーヴァン」も頑張ったのですっ、とクラウディアは頬を膨らませる。

 最終戦になって、ようやくシルヴェスターはクラウディアと観戦ができた。


「リーグ戦、大トリの試合で優勝クラブが決まるなんて劇的ですわ」

「さすが、我が『黄金の草原』だ」

「ご存じだと思いますけれど、オーナーとクラブは切り離して考えられますのよ?」

「わかっている。忖度などしようものなら、懲罰対象だ」


 初戦は敗戦をきした「黄金の草原」が勝ち進んだことで、観客も大いに盛り上がっていた。

 オーナーであるシルヴェスターともなれば、評価したくなるだろう。


「賭けも繁盛していると聞いている」

「ええ、ベゼルとルキが大喜びしていますわ」


 基本はリーグ戦の運営費に回されるが、ローズガーデンにも管理報酬が入る。

 構成員も全員が賭けを楽しんでいた。


「人口の過密が問題視されているが、彼らのおかげで犯罪率は変わらぬらしいな」

「よそ者を徹底的に排除しておりますもの」


 それが必要悪として、ローズガーデンの存在が認められている理由だ。

 特に今回は地方からの遠征が一定数あるため、より目を光らせていた。

 折角なので、道中にある賭場を覗いてみる。

 列の先頭では、黄色のタオルマフラーを首にかけた中年女性が、スタッフに大声で話しかけていた。


「この一番人気ってのを買えばいいのかい!?」

「そうですね、当たりやすい分、払戻金が少なくなりますが」

「じゃあ一番不人気のを買えばいいのかい!?」

「払戻金目当てでしたら……ですが、よほどのことがない限り当たりませんよ?」


 賭けにはオッズというシステムがあり、その数値が払戻金に反映される。

 現状、スタッフによる購入数の所感によって決められているので、どれが一番買われているかの指標でしかない。

 ちなみに一番不人気の内容は、どちらかのクラブが四点以上で勝利するというものだ。

 一点が入りにくいフットボールにおいて、競馬の万馬券に近い存在だった。


「わかったよ! 『黄金の草原』が一対ゼロ、二対ゼロ、三対ゼロで勝つのにするよ!」

「説明の必要ありました……? まいどありー」


 結局、中年女性は願望賭けの内容で購入を終えた。

 よくわかっているな、とシルヴェスターは満足そうに頷く。


「比率は男性のほうが高いが、女性も想定より多くの来場があってヴァージルが喜んでいた」

「スタジアム場外の屋台エリアでも、家族連れが見受けられますわ」


 子ども向けのブースは連日大賑わいだった。

 試行期間中のチケットは、はじまる前に男性が買っていたのもあり、初日は男性の同伴者として女性が観に来ているのに限られた。

 しかし二日目以降は、クラウディアが観戦していることが呼び水となり、貴賓席にも女性の姿が目立つようになっている。

 男女問わず、タオルマフラーをかけている人も増えた。

 エンブレムの刺繍へ視線を下ろしたシルヴェスターが、目元を和ませる。


「ディア、改めて礼を言う。エンブレムのおかげで、多幸感が天井知らずだ」

「ふふ、どういたしまして。わたくしもシルにお願いしようかしら?」

「私が刺繍するのか? 出来映えを見て、きっと後悔するぞ」

「まさか。わたくしも多幸感に包まれると、お約束します」


 口に出すと、俄然欲しくなってきた。

 自分史上、最も可愛いと思う顔で強請る。


「お願いいたします」

「……そこまで言うなら。笑ったら没収するからな」

「あとでタオルマフラーをお渡ししますね。お忙しいでしょうから、来年のリーグ開催に間に合わなくても大丈夫です」

「さすがに間に合う……いや、約束はできぬか」


 刺繍をし慣れていないと、作業時間は読めない。

 シルヴェスター自ら刺繍してくれるなら、クラウディアはいつまでも待つ気でいた。

 三階の貴賓席に到着する。

 席は壁で区切られ、半個室となっていた。

 後ろの通路で待機している係の者から説明を受ける。


「必要なものがありましたら、何なりとお申し付けください。賭けは試合開始直前まで承れます」


 クラウディアとシルヴェスターは仮面を着け、アリーナに向いた二人掛けのソファーに腰を下ろした。

 遮るものがなく、眺めは良好だ。


「芝生は荒れ気味ですわね」


 遠目にも土の色が目立っていた。


「うむ、地面が凸凹すると、その分ボールの転がりに影響が出る。両チーム同じ条件だとはいえ、選手たちはやりにくいだろうな」


 こういうときは対応策として、ボールを頭で弾くヘディングやロングパスが用いられる。

 極力ボールを地面に転がさないようにして運ぶのだ。


「どうしましょう、ドキドキしてきましたわ」


 リーグ戦は試行期間で、参加クラブは少ない。

 リンジー公爵家のクラブである「紺青のレーヴァン」の順位は決まった。

 だというのに、数時間後には優勝クラブが決まるという現実が、クラウディアに緊張をもたらした。


(初戦のときに、「黄金の草原」の選手を間近で見たのも関係しているのかしら)


 顔に覚えがあったわけではないけれど、あの瞬間を一緒に乗り越えたことが、親近感に繋がっているのかもしれない。


「手を握っておこうか?」

「お願いいたします。……シルも緊張しています?」

「緊張とまではいかぬが、勝ってほしくはある」


 正々堂々、公平に。

 ピッチを眺める黄金の瞳は、真剣そのものだった。

 係の人間が賭けの締め切りを告げる。

 間もなく、試合がはじまる。

 優勝クラブを決める、最終戦。

 階下の観客席は、立ち見客もいてパンパンだった。

 試合前から熱気に満ち、まるでスタジアムという生き物が力を溜め込んでいるようだ。

 きゅっとシルヴェスターの手を握り返す。

 サイズは変わっていないのに、いつもより大きく感じられた。

 手だけじゃなく、心まで包み込まれながらピッチを眺める。

 試合前の宣誓のため、両チームの選手たちが一列に並ぼうと出てきていた。


(あら?)


 けれど審判のうち、主審の姿が見えない。

 いつもなら真っ先に整列位置の中央にいるはずなのに。

 別に整列のタイミングは決まっていないので、今日は準備に時間をかけているのかもしれない。

 試合に優劣はない。

 審判だって、一試合一試合を全力で取り組んでいる。

 とはいえ、最終戦だ。ミスがないよう念入りにチェックしたくなる気持ちもわかった。


(まさか何かあったなんてことは……)


 悪い考えが過りはじめたとき、主審がピッチに現れた。

 心配が杞憂に終わり、ほっと胸をなで下ろす。

 シルヴェスターは今までの試合を観ていないため、主審が遅れて出てきても気にしていなかった。


(やっぱり最終戦ともなると審判も緊張するのかしら)


 遠目でも、なんとかく顔が強張っているように見える。

 王家クラブ「黄金の草原」。

 ゾーン伯爵家クラブ「早天の航海」。

 黄色いシャツと水色のシャツを着た選手が宣誓をおこない、自陣へ走る。

 主審がピッチ中央に立ち、笛を持った。


 ――ピーッ。


 選手たちが走り出す。

 ボールを最初に奪ったのは、「黄金の草原」だった。

 互いに気持ちが入り過ぎているのか、両チーム共にオフサイドが多くなる。

 ゴールへ辿り着く前に試合を止められるのが続き、クラウディアは視線だけでちらりとシルヴェスターを窺った。

 焦れったくなっていないかと思ったからだ。

 予想に反して、シルヴェスターは満足げだった。


「得点への意欲が強い証拠だ」


 前のめりに動いているからこそ、オフサイドが取られやすい。

 序盤から果敢に攻めようとする選手たちの姿勢を、むしろシルヴェスターは褒めた。


「少し気持ちが落ち着けば、修正できるだろう」


 熱くなっていても、冷静な部分が残っていると信じていた。

 シルヴェスターが告げたとおり、すぐにオフサイドはなくなっていく。

 選手たちが余裕を持ってボールを回しはじめ、理性的なフットボールが戻ってきた。


「互いの技術が光りますわね」

「ああ、だが『早天の航海』には、一歩及んでいない印象だな」


 ゾーン伯爵家は、国主催のリーグ戦の話が出る前から、領内で複数のクラブによる試合をおこなっていた。

 選手たちもフットボールの技術を長期にわたって身に着けている。

 騎士で構成される「黄金の草原」もフットボールの経験はあるが、あくまでお遊びの範疇だ。体力面では負けていなくとも、技術面では「早天の航海」に追い付けていなかった。


「わたくしが疎いだけかもしれませんけど、大きな遜色は見られませんわ」

「命令遵守が上手く機能しているのだろう」


 騎士たちが相手チームより秀でている面が、一つあった。

 上官――監督――に統率されていること。

 命令は徹底され、十一人が文字どおり一団となって動く。

 事前にいくつものパターンを練習していたのだろう。

 相手の戦略に合わせて「黄金の草原」は陣形を保ち、対処していた。

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