はじめての朝
プァナが目が覚ますと、スピツの可愛らしい鳴き声が聞こえる。スピツアと呼ばれるリナル族の楽器の音によく似たその鳴き声をしている小鳥は遠くから鳴き声は発するが、普段人前のところにやってくることは無い。
けれど窓辺に四羽のスピツがピィピィと鳴いていた。驚かさないようにけれど隣で寝ているラシュンを起こさぬように。ゆっくりと寝ているパワルフの体を揺する。
「パワルフ、パワルフ…起きてちょうだい」
「……ん…プァナ…?」
少し眉間にシワを寄せながら程よく整った瞼を微かにあげてプァナにゆっくりと視線を合わせ。後にラシュンに気を使いながらベッドを降りた。
「どうしたんだ、お前達」
プァナは、パワルフが族長として特別な力を持っているのを知っている。
普段近づいてこないスピツは彼の元にだけ訪れるのだ、だが彼が呼んでもいないのにやってきた事は無かった。特に、プァナがいる場所には。
ピィピィと鳴くスピツに困った顔をするパワルフを見たのは初めてのことだった。
「……どうしたの?」
「いや、帰れとは言ってみたんだが…」
少しも動く様子のない四羽に困ったように少し眉を下げてパワルフが力なく告げる。
「ラシュンは産まれたばかりの子なんだ、お前らのいうところの卵の状態さ、安全が必要なんだ。首が座ればお前達の雛のような状況にはなるがまだ安全は必要だ、お前達に悪気はなくとも人の子は弱いところがある、悪いが帰っておくれ」
パワルフが丁寧に告げれば四羽は寂しそうにそれぞれ足に掴んでいた種を差し出してくる。
小さな足に転がされたそれは────。
「もしかして、ラシュンの種かしら?」
ベッド脇に置いてあったショールを羽織り、指を絡めるように両手を前に組んで攻撃の意思がないと告げるようにゆっくりと瞬きをし、プァナは恐る恐るスピツ達へ近づく。
スピツをこんなに間近出みたのは初めてだった。美しい青の羽、リナル族と同じ金の瞳。
彼らは確かにラシュンの花の種を持ってきていた。
まさかと口元が緩む。
「あなた達、私たちの子に会いに来てくれたの」
ピィピィと鳴く四羽にプァナとパワルフは顔を見合わせゆるゆると笑みを浮かべる。パワルフの笑みは分かりにくかったが、プァナの笑はまるで花が咲くような美しい笑だった。
「ありがとう、ちいさな同胞さん」
最後にピィピィと鳴いて四羽は飛び立つ。美しいその翼を広げ、寝ているラシュンを少し見てから。
「まさかラシュンは」
「……そうだと良いですね」
すやすやと眠っていたラシュンを見ればいつの間にか目が覚めていて目を潤ませていた。
「おはよう、ラシュン…いい天気よ」
抱き上げてあやしながらプァナは声をかけ、ミルクを与える。
昨日にはなかった形の朝が始まった。




