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リナルの森  作者:
【1】生まれ落ちる
4/24

待ちに待った


 森の中を駆け抜ける存在がいる。駆ける…といっても、走っているのは土の上ではなく木の上なのだが。

 

 短い緑の髪が風に(なび)き、金の目が夜の道を爛々(らんらん)と見据える。

 

 たん、たん、とリズミカルに木々を飛び移るように駆け抜ける彼は先ほどエルフの村を出たばかりのパワルフである。

 

 エルフの村があるのはリナルの森の最奥、南北。リナル族の村があるのはそのさらに奥地で、リナルの森の中心部からはひたすら北に進んだ場所にある。

 

 だが、村へ辿(たど)り着くには特殊な森の進み方をしなければならない。

 

 エルフ族以上にリナル族は人間種(ヒューマン)から狙われている存在だ。その為に魔境と言われるこのリナルの森の最奥に村があり、豊富なその魔力で迷いの呪いがかけられている。

 

 

 「プァナ…ッ!」

 

 パワルフの妻であるプァナは初産(ういざん)である。それだけではなく村で妊娠した者は二十年振りだったし、プァナは村で最年少だった。

 二十年前に生まれたのがプァナだ。

 

 

 以降産まれなかった子が生まれる。

 

 

 リナル族の寿命は千を越えると言われており、魔力の多さから子が出来にくい種族だった。その為にリナル族の者は多くはない…が、その分繋がりが強い。

 

 だからこそパワルフは村を開けてエルフの村に今年の冬の為に貯蓄の話が出来ていた。同じ種族であり、家族である村の者を信頼して…だが、それでも子が産まれたというのなら浮き足立つのが父親というものだろう。

 

 パワルフのその無表情の顔は少し緩んでいた。慣れたように駆け抜ける中も頭に浮かぶのはプァナが産んだという子の事、そして(プァナ)が元気かどうかという心配だった。

 

 暫くして着いた村の入り口には誰もいない。だが、ガヤガヤと宴が行われているのは確実だろう。騒がしい声が聞こえて緩みきった口元に力を入れてその声の方──宴会館(えんかいかん)に向かった。

 

 中に入ればアルコールの匂いがまず鼻につき、そしてプァナがいないのを確認すると自分の家に向かった。

 

 静かな家の中に入り、寝室に向かえば小さな吐息が耳に届く。

 

 「…ん、あなた?」

 

 扉の開く音で目が覚めたのかプァナが顔を上げる。パワルフは人生の大仕事とも言える出産を終えたプァナの髪を優しく撫で、手を握り、労った。

 

 「…良くやった」

 「ふふ、見てあげて?」

 

 プァナは自分の隣を捲りパワルフにその小さな存在を見せる。緑の髪を静かに撫でれば柔らかく、そして伏せられているのは金の瞳だろう。

 目を開けた様子も見たかったが、それは明日でもいいと考えまた口元が緩む。

 

 

 「女の子ですって」

 「ならば…」

 「ええ、名前はラシュンよ。」

 

 リ・ラシュンと口の中でモゴモゴと呟いてみる。なかなかどうしてしっくりくる名ではないかと幸せを噛み締めてプァナにパワルフは優しく口付けをする。

 

 「ん?」

 「ありがとう…産んでくれて」

 

 噛み締めるようなその言葉にプァナは目を見開いてすぐに目を細め笑った。

 

 「今日は寝ましょう」

 「…ああ」

 

 プァナの隣に横たわりラシュンを挟むように向かい合えば不思議と目が合う。そしてどちらかともなく微笑み幸せの中で二人揃って目を閉じる。

 

 すぅすぅと零れるラシュンの吐息が子守唄のように眠りへと簡単に(いざな)った。

 

 

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