第3話:仮面の下の素顔と、忍び寄る女生たちの悪意
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学園での女生たちによる陰口と、それに負けじと華麗な毒舌でカウンターを叩き込むモナミのシーンからスタートしました。しかし、そんな強い「悪女」の仮面の裏にある孤独を、ミカエルが再びの夜間侵入(もはや常習犯ですね笑)で優しく包み込んでいきます。二人の距離が一気に急接近する今回のエピソード、ぜひじっくりとお楽しみください!
ロンファ王国の王立学園、その中庭に面した優雅なテラス席は、貴族の子女たちが社交の華を咲かせる場所である。しかし、その一角だけは、周囲とは異なる冷ややかな空気が漂っていた。
「ねえ、聞いた? 先日また、あのモナミ様が夜会で男の人をコテンパンに言い負かしたらしいわよ。本当に信じられない。あんなに冷酷で、いつも高慢チキな態度をとっているのに、どうして男の人たちはあんなに夢中になってしまうのかしら」
「お父様が言っていたわ。モナミ様は『悪女』の仮面をかぶって、相手の心をへし折るのが趣味なんですって。自分の美貌を武器にして、周囲を意のままに操っているだけだわ。本当に嫌味な女よね」
声を潜めているつもりなのだろうが、その嫉妬に満ちた陰口は、優雅に紅茶を傾けるモナミ・ロンファの耳にハッキリと届いていた。
モナミは優雅にカップをソーサーに戻すと、微動だにせず、しかし氷のように冷たい眼差しをその女生たちのグループへと向けた。純白のドレスに身を包み、完璧なまでの微笑みを貼り付けた彼女の姿は、まさしく周囲から恐れられる「悪女」そのものだった。
モナミはゆっくりと立ち上がり、彼女たちのテーブルへと歩み寄る。そのただならぬ気配に気づいた女生たちは、ヒッと小さな悲鳴を上げ、顔を青ざめさせた。
「あら、楽しそうね。私への悪口の続きを聞かせてくださらない? 『美貌を武器に男を操っている』だなんて、そんな評価では私の努力が少し足りないわね。もっとこう、私の悪逆非道を讃えるなら『夜な夜な悪魔に魂を売った美しき魔女』くらい言ってくれなくては、聞いていて退屈だわ」
モナミの毒舌が静まり返ったテラスに突き刺さる。女生たちは恐怖に震え、一言も言い返すことができない。顔を真っ赤にし、涙目でその場から逃げ出していく彼女たちを見送りながら、モナミは内心で小さく息を吐いた。
(……言わせておけばいいものを。私に怯え、憎悪を向けることでしか、あの人たちは自分のちっぽけなプライドを保てないのだから)
気高く、強く、冷酷な悪女。それが、周囲が求める「モナミ・ロンファ」の姿だった。
王国の未来を背負い、誰にも弱みを見せてはならないという重圧から、彼女はいつしか心に分厚い氷の壁を築いていた。本音を語り合える友など一人もおらず、夜な夜な一人で山のような政治改革の書類に目を通す日々。誰も自分の内側など見ようとはしないし、見せたくもなかった。
――あの男を除いては。
ふと脳裏に過ったミカエルの姿に、モナミは慌てて首を振った。
(何を考えているのよ、私は。あいつは敵国の暗殺者、ラザード王国の王子よ。数日前に私の部屋へ忍び込んできて、甘い言葉を囁いていったからって、調子に乗らないで……っ)
しかし、一度知ってしまった「自分の本質を全肯定してくれる温かさ」は、冷たい氷の壁に小さな亀裂を入れるには十分すぎた。
その夜、モナミの執務室。
いつものように静寂に包まれた部屋で、モナミは机に向かい、ため息をつきながら書類にペン走らせていた。やはり今日も、あの不法侵入者のことが頭から離れない。
「……本当に、いい迷惑だわ」
そう呟いた瞬間だった。
またしても、開け放たれた窓から、音もなく冷たい夜風と共に一人の影が舞い降りた。
「おや、僕の噂でもしていたのかな? 悪女殿のくせに、そんなに寂しそうな顔をしてちゃ、夜の警備の者たちも心配するぞ」
振り返ると、そこに立っていたのは、漆黒の外套を軽やかに翻したミカエルだった。前回の潜入よりも明らかに慣れた足取りで、彼は堂々と部屋の真ん中に立っている。
モナミは怒りを通り越してあきれ返り、羽根ペンをきつく握りしめた。
「……あなたね。ここは私の執務室よ? 王宮の警備をなんだと思っているの。今すぐ大声で近衛兵を呼んで、蜂の巣にしてあげることもできるのよ?」
「呼べるものなら呼んでみるといい。もっとも、君が僕の顔を見た瞬間に、そんな無粋な真似をするはずがないと確信しているがね」
ミカエルはふっと余裕の笑みを浮かべ、モナミの机へと歩み寄る。その不敵な態度に、モナミは心臓の音がうるさくなるのを感じながらも、精一杯の毒舌で虚勢を張った。
「図々しいにもほどがあるわ。何の用かしら? 今日は手下のモブAみたいな雑魚は連れてきていないようだけど、一人で私に返り討ちにされたいの?」
「いや、今日は君に、これを持ってきた」
ミカエルが懐から取り出したのは、古びた一冊のノートだった。モナミが怪訝な顔で見つめる中、彼はそれを机の上にそっと置いた。
「これは……?」
「君が夜な夜なまとめていた、領民の生活改善と税制改革の極秘案だ。君の兄や大臣どもは誰も気づいていないが、この改革案の通りに動けば、ロンファ王国は内部から完全に豊かになる。……だが、これを君一人で進めようとすれば、古い体制にしがみつく貴族たちから総攻撃を受けることになるだろう」
ミカエルの言葉に、モナミの瞳孔がわずかに見開かれた。
この改革案は、彼女が誰にも言えず、たった一人で何ヶ月もかけて温めてきた悲願だった。それを、敵国の暗殺組織の首領であるミカエルが、なぜここまで正確に理解し、分析できているのか。
「なぜ……これをあなたが……?」
「君のことが知りたかったからさ。いや、知り尽くしたかったと言った方が正しいか」
ミカエルは優しく微笑み、モナミの震える手をその大きな手でそっと包み込んだ。
「君がどれほど孤独に耐え、どれほど強い意志でこの国を支えているか、僕は誰よりも知っている。……だから、モナミ。一人で背負うのはもうやめだ。僕の力を使いなさい。敵国だろうとなんだろうと、君が望む未来なら、僕はこの命に代えても叶えてみせる」
甘く、そしてあまりに切実なその言葉は、モナミが長年かけて築き上げた氷の壁を、音を立てて粉々に砕き散らした。
周囲から「悪女」と恐れられ、誰も近づこうとしなかった彼女の本当の痛みを、この男だけがすべて受け止めようとしている。
モナミの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。それは彼女が人生で初めて流した、偽りのない素顔の涙だった。
「……バカね、あなた……。そんな風に言われたら、もうあなたを追い返すことなんて、できなくなるじゃない……」
震える声で呟くモナミを、ミカエルは愛おしそうに引き寄せ、その温かい胸の中にしっかりと抱きしめた。
敵対する王国、暗殺者と王女――許されないはずの二人の距離は、この夜、決定的に縮まっていくのだった。
第3話「仮面の下の素顔と、忍び寄る女生たちの悪意」いかがでしたでしょうか?
今回は、モナミが周囲の嫉妬やプレッシャーの中でどれほど孤独に耐えてきたのかという内面と、それをミカエルが全肯定して抱きしめるという非常にドラマチックな展開を描いてみました。いつもは棘のある毒舌を吐いているモナミが見せる、最初で最後の(?)本当の涙……執筆しながら私自身も胸が熱くなる思いでした。
敵国同士という障害がありながらも、お互いの魂で惹かれ合っていく二人の関係はここからさらに加速していきます。次回は、ついに両国の思惑や周囲のざわめきが本格的に動き出す予感……? 引き続き応援していただけると大変嬉しいです。次話もお楽しみに!




