第1話:毒舌王女と深夜の来訪者
ご覧いただきありがとうございます。「悪女と謳われる王女は、国を滅ぼそうとした暗殺王子の愛に気づかない」は、圧倒的な美貌と容赦ない毒舌で恐れられる「悪女」の王女モナミと、敵国から彼女を狙うはずが逆に心を奪われてしまった暗殺王子ミカエルが繰り広げる、スリリングかつ少し歪んだ両片想いラブコメディです。
周囲の嫉妬や陰謀、そして重すぎる宿命を背負った二人が、互いの仮面を剥ぎ取りながら距離を縮めていく姿をお楽しみください。冷徹な悪女がふと見せる不器用な乙女心と、暗殺王子の底抜けに真っ直ぐな執着が、二つの国の運命をどう変えていくのか――ぜひ最後までお付き合いいただければ幸いです。
ロンファ王国の王女モナミ・ロンファは、その圧倒的な美貌と容赦ない毒舌から、周囲の人々から「悪女」として恐れられていた。敵対する者には一切の容赦を見せず、城内の男性たちは皆彼女の虜となり、女生たちからは陰で悪口を叩かれる日々。しかし、完璧な笑顔の裏で、彼女は誰にも言えない孤独を抱えていた。
そんなモナミの存在を危険視し、国を内側から弱体化させようと暗躍する勢力があった。隣国ラザード王国の第一王子であり、秘密組織「レギド」を統率するミカエルである。彼はモナミ暗殺を計画し、まずは手下のモブAを送り込む。しかし、モナミの鋭い洞察力と屈強な護衛たちの活躍により、その計画はあっけなく失敗に終わるのだった。
手下の失態に業を煮やしたミカエルは、ついに自らモナミの前に姿を現し、深夜の執務室へと忍び込む。しかし、直接対峙した二人の間で、状況は予想外の方向へと転がり始める。言葉を交わすうちに、モナミはミカエルの掲げる理想に、ミカエルはモナミの強さの裏にある孤独と脆さに気づき、互いの知性と意志に深く惹かれ合っていくのだった。
やがて二人は敵対関係を越えて和解し、王国同士の長年の対立を終わらせるための婚約を結ぶ。悪女と暗殺者という数奇な出会いが、二つの国の未来を大きく変えていくことになる
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ロンファ王国の王宮、その最奥に位置する第二王女の執務室は、深夜という時間帯にもかかわらず、白磁の燭台から放たれる柔らかな光に満ちていた。窓の外では、冷たい夜風が庭園の薔薇を揺らし、城壁を巡る近衛兵の足音が一定のテンポで響いている。
その厳重な警備網を嘲笑うかのように、静寂を切り裂いて窓の鍵が音もなく外された。
音もなく忍び込んだ影は、月明かりを背にして床に降り立つ。漆黒の忍び装束に身を包んだその男は、微かな気配すら殺し、部屋の主へと歩み寄ろうとした。しかし、その足が一歩を踏み出した瞬間、部屋の隅から冷ややかな声が落ちた。
「そこから一歩でも動いたら、あなたのその喉元に、この羽根ペンが突き刺さることになるけれど?」
執務用の巨大なマホガニー机に向かっていたモナミ・ロンファは、微動だにせず書類に目を落としたまま言い放った。その声には恐れの色など微塵もなく、まるで厄介な虫でも見据えるような絶対的な冷徹さが宿っていた。
侵入者は動きを止めた。そして、ゆっくりと仮面を外し、整った顔立ちを露わにする。それは隣国ラザード王国の第一王子でありながら、裏社会の秘密組織「レギド」を影で統率するミカエルその人だった。
「相変わらず、耳と勘だけは一級品だな、ロンファの悪女殿」
ミカエルは皮肉めいた笑みを浮かべ、闇の中から姿を現した。その瞳は夜の海のように深く、冷酷な光を湛えているが、どこか楽しげな色も混じっている。
モナミはゆっくりと顔を上げた。彼女の美貌は夜の闇を背景に一層際立っていたが、その切れ長の瞳に宿る鋭さは、近づく者を容赦なく切り捨てる刃のようだった。純白のドレスに身を包んだ姿は気高く、しかし周囲から「悪女」と恐れられるにふさわしい凄みをまとっている。
「夜這いのつもりかしら、ミカエル殿。それとも、私の首をとるための三流の暗殺劇のつもり?」
モナミの唇から紡がれた言葉は、相変わらず棘を含んだ毒舌だった。先日も、この男が送り込んだ手下モブAとかいう名前すら覚える価値のない小物が、城の警備に引っかかってあっさり捕まったばかりだ。それをこうして、わざわざ組織の頭目が単身で尻ぬぐいに来たというわけらしい。
「手下の失態の件なら謝罪しよう。だが、あんな雑魚を君に差し向けたのは、あくまで君の器量を試すための前座にすぎない。僕が本当にほしかったのは、君の首ではなく、その頭脳だ」
ミカエルは臆することなくモナミの机に歩み寄り、両手で縁をついて上半身をかがめた。あまりに間近に迫った彼の体温と、男らしいスパイスの香りが、モナミの鼻腔をくすぐる。ふとした瞬間に垣間見える彼の切なさを孕んだ瞳に、モナミはわずかに息を呑みそうになったが、すぐに表情を引き締めた。
「ふん、私を懐柔できるとでも思った? ロンファ王国を内側から崩壊させるために牙を研いでいる『レギド』の主が、どの口でそんな甘い台詞を吐くのかしら。あなたのせいで、私の周囲の愚か者どもが連日騒ぎ立てて、書類仕事が増えて迷惑しているのよ。今すぐその首を切り落として、ラザード王国への手土産にしてあげてもいいのよ?」
口ではどれほど毒を吐こうとも、モナミの心臓はわずかに高鳴っていた。周囲の人間は誰もが彼女の美貌と権力に怯え、あるいは下心を持ってすり寄ってくるか、陰で石を投げるかのどちらかだった。女生たちからは毎日のように陰口を叩かれ、表面上の愛想笑いを貼り付けるのに疲れ果てていた。
しかし、この男――ミカエルだけは違った。彼はモナミの美しさだけに溺れず、彼女が背負う孤独や、強さの裏に隠された絶望的なまでの脆さを、その鋭い観察眼で正確に見抜いていたのだ。
「君のその毒舌も、孤独を隠すための防壁にすぎないとなぜ気づかない? 周囲の連中は君を悪女と呼ぶが、本当に冷酷な人間なら、あんなにも民の生活苦を救うための極秘改革案を夜通し執筆したりはしないさ」
ミカエルの指先が、モナミの手元にあった改革案の書類にそっと触れた。その指が触れた瞬間、モナミはまるで心の内側を丸裸にされたような感覚に襲われ、思わずペンを取り落としそうになった。
「……っ! 勝手に他人の書類を覗き見ないで。あなたに私の何がわかるというの?」
「すべてさ。君がこの国を変えようともがいていること、そしてそのために誰にも頼れず、たった一人で仮面をかぶり続けていること。……僕の理想郷にも、君のような強い同志が必要なんだ。いや、同志というよりは……もっと別の、ね」
ミカエルの言葉に、モナミは完璧に作り上げていた冷徹な仮面を初めて微かに揺らした。敵国の王子であり、自らの命を狙っていたはずの男が、今や自分の孤独を肯定し、同じ未来を見据えようとしている。
部屋を包む沈黙が、先ほどまでの殺伐としたものから、熱を帯びたそれに変質していく。モナミは小さく息を吐き出すと、ふっと自嘲的な、しかしどこか胸を打つ美しい笑みを浮かべた。
「……本当に、救いようのない狂人ね。私の命を狙いに来たはずの暗殺者が、王女に愛を語るなんて、三文小説でも書けない悪趣味だわ」
「悪趣味ついでに、もう一つ言おうか。僕は本気で君に惚れている。この冷酷な毒舌の裏側にある温かさを知ってしまったら、もう他のどんな女性のことも愛せそうにない」
ミカエルの真摯な眼差しと、まっすぐな言葉に、モナミの頬がわずかに熱を帯びるのを自覚した。悪女と謳われた王女が、人生で初めて見せた純粋な動揺だった。
「……いいわ。受けて立つわよ、その狂ったプロポーズとやらを。ただし、私の条件を飲めないなら、明日にはあなたの首を城壁に晒すことになると覚悟しなさい」
二人の視線が交差した瞬間、王国同士の終わりのない対立の歴史に、新たな風穴が空いた。暗殺者と悪女の出会いが、二つの国の未来を劇的に変えていく――その物語の幕が、今まさに上がろうとしていた。
第1話をお読みいただき、本当にありがとうございました!
「悪女」として周囲から孤立していたモナミが、初めて自分自身の本質――孤独や優しさ――を真っ直ぐに見抜いてくれたミカエルと出会い、表情を揺らしていくシーンは執筆していて非常に胸が高鳴りました。冷酷な暗殺者であるはずのミカエルが、モナミの毒舌を浴びながらも愛おしそうに微笑む姿も、個人的にとてもお気に入りのポイントです。
今後は二人の間に立ちはだかる王国の陰謀や、周囲のモブたち(時には迷惑な求婚者たち)の妨害、そして少しずつ甘くなっていく二人の距離感など、見どころを盛りだくさんでお届けしていく予定です。
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